第10話 幸せとは覚悟する事

僕は市役所の最上階へエレベーターで進む。


 祥子の手首の傷を見て疑惑は確信に変わっていた。それだけではない。深い闇を感じて恐怖さえ芽生えていた。

 ここで少し待つようにと秘書が執務室に通してくれた。僕は待った。市長である天上公示の取材を、いや、疑問を問い質すために。


「お待たせしましたね」

 坊主頭で立派な髭、大柄な体の天上市長の天上公示が奥の扉から現れた。名刺交換の後、すぐに質問を始める。まずは異常なほど整った公共サービスの財源についてだ。


「この街の財源? それは善意の寄付で成り立っています。善意の人々に迷惑をかけたくないので、誰からとか、手段とか、詳細は勘弁してください」


 僕は意を決し、自分の考えをぶつけてみた。

「市長、僕はここに来る前に病院とケアハウスに寄って来ました。昨日、僕が取材した二人は亡くなっていた。施設に入館している人を調べました。まず病院ですが、入院してから二年以上の生存者はいなかった。退院者も全くいない。そしてケアハウスには七十歳以上の人が誰もいなかった。僕はこの市で一人の女性と知り合いになりました。彼女は手首の傷を見せてくれました。あれは海外で犯罪者に埋め込まれる、所在を把握する為のICチップを入れた痕ですよね?」


「荒垣君……だっけ? 何が言いたいのかな」

「ここには隠された契約がある。住む者すべては手首にチップを埋め込まれ、逃げる事は許されない。その上で確実に死ぬ事を約束する契約だ。死んだ後、財産の全てを市に贈与する。資産が無い者は保険金をかけられる」

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