第7話 壊れた蛍光灯

今日もペテン師の男の子と顔を合わせていた。


二人が体調が良いなど、奇跡的な事だから、こんなに会うのは無理している。

二人して。


 でも、不快で未来が見えない私たちにとって、お互い相手の顔を見て話す事は、とても大切に思えた。


例え生きられる時間が削れても。


ペテン師はいつも笑顔で、退院したら、学校へ行くことを楽しそうに話す。


「体が弱くて途中から編入されたらいじめられる」


私の意地悪も彼には通用しない。いじめなどない、そういう彼、やはりペテン師だ。


「弱い者はいじめられる」


 長く病院にいる私は、実社会では生きていない、だが、弱い者が集まるここでも、思い知らされている。


「生きることが辛い事」


 いつも笑顔をくれるペテン師に、私は自分の負の魔法を唱える。

「生きているなんてつまらない、生きているだけ幸せ、そんなのは強い者の言葉」


だが、ペテン師は首を振る。そして私にまた嘘をつく。


「そんな事はない。僕は生きているだけで嬉しい」


嘘つき。

でも、私は彼の嘘をいつも待っていた。


 消灯前の待合室、誰もいない薄暗い空間で、二人で話すことが、生きていると実感できたから。


 色んな事を聞きもしないのに話す彼は、ついに真実を話した。


「僕は手術を受けるんだ。これで普通の人のように生活できる」


目を輝かす彼を見た私は、心にもない、いや本音の魔法を吐く。


「成功したらでしょう? 確率は何パーセント……失敗するの」


正直者からまたペテン師に戻った彼。

「100%成功する」と言った。


私は彼の病気の治癒率を知っていた。最新の結果では80%近い成功率。


 だから、私は安心して彼に、毒を吐くことが出来た、それは私だけがここに残される、嫉妬、いや寂しさがそうさせる。


ここでも彼はペテン師ぶりを大いに発揮した。


「手術がうまくいったら、毎日、君へ会いに来るよ」


ふーーん、ため息で答える私。

もし彼が普通になれば弱者など、哀れみでしかなくなる。

今、お互いが病気を持ち、弱い立場だからこそ、平等で貴重な時間を過ごせる。


「どうせ、退院したら、私の事など忘れてしまう。哀れみなど寸分も続かない」


私の呪文でも、彼は笑顔を崩さない、そして約束は守ると言った。

チカチカと点滅を繰り返す、ほとんどの電気が消された中で光る、薄暗い蛍光灯の下で。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

嘘つき魔法使いと正直ペテン師 こうえつ @pancoo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ