第6話 ペテン師と平等な力
今日も体がだるく熱もある。むろん私は不機嫌。
この間はペテン師にお願いして、屋上の庭園の魔法陣を二人で目指したが、結局院内から出る事は出来ず、看護師に見つかってバラバラに自室に戻された。
私たちの想いなど病気の前ではないも同然。
長く入院した事がない人には、分かりづらいだろう、基本的に重症の患者には人間の尊厳などない。
「人間の尊厳」
尊大な言葉だが、つまりは食べる、寝る、排出、この三点。
所詮、人間が動物である事を分からせる言葉。
長期で入院した場合、三カ月以上経てば、私の言葉も分かってもらえるかもね。
まず食べる事、食事はまずく、栄養学的な考えだけから作られている。
私の場合は日々体調が優れないので、食欲がないところに、院内の食事が、規則正しく運ばれてくる。まったく食べたくなんかないのに。
でも無理やりでも食べないといけないんの。
体重が落ち始めれば、もっと美味しくない、高カロリーの栄養ドリンクを飲まされるから。
「リンゴ味とココア味、どっちがいい?」
聞いてはくれるが、もちろん何を頼んでも美味しくはないわけ。
栄養ドリンクも飲めなくなったら、点滴で栄養補給されるよ。
長期に入院や手術予定があると点滴のライン(血管に刺しっぱなし)がとられ、基本、退院が決まるまではそのまま刺し続ける。
だいたい一週間くらいで、針を変えるけど、私のように血管が細いと、点滴のラインをとる事は地獄になる。
ひどい時には3時間も、針がうまく血管に入らず、痛みを感じながら同じ姿勢で、ベッドにいなければならない。
いったん、入った点滴のラインは、シャワーを浴びる時も外せない、上からビニールテープを巻いてする事になる。
「あれ? リハビリするの? 大丈夫かな体調悪そうだけど」
看護師の言葉に、私は顔色の悪いままで、黙って立ち上がった。
前回、屋上へ行けなかった事へのもやもやした気持ちと、病気への反意。
あと、少しだけだけど、ペテン師が気になっていたから。
あの男の子の名前も病室は知らないし、存在などどうでもいい事なのっだけど。
でもね、少しだけ興味が湧いた。
私を魔法使いと呼ぶペテン師。
そして、ペテン師に会うためには平等の力が必要だと思った。
お互いに、病気は関係ない、それは見せたくない。
そう、だから、例え不機嫌でも、あの子がやっているリハビリくらい、やってみせてから。
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