第5話 魔法使いになった日
今朝は体調が悪い。
私の体調を示すCRPの値も20を越えている。
CRPは10を越えるとインフルエンザと同様の倦怠感に襲えわれる。
今日はずっとベッドの上だろう。いつもの事だけど慣れない。
窓から外を見ると、光がさしている来ている。
「いつもの所に行きたいなあ。コーヒーも飲みたい」
私は思わず呟く。その時静かで落ち着く声が聞こえた。
「あなたは……ペテン師?」
あのリハビリで時々一緒になる男の子だった。
「今日は調子が悪いの?」
辛い治療でも「大丈夫」と言うペテン師は私の側に来た。
「なんでもないわ。少し気分が優れないだけ」
私の言葉にペテン師は頷き提案をしてきた。
それは私の今の心の中を覗いたものだった。
「五分だけでも行くかい? 君の好きなあの場所に」
私は少し驚いた。この男の子はなぜ私の大事な場所を知っているのか。
「ねえ、なぜ知っているの……やっぱりペテン師なの?」
ペテン師と呼ばれた男の子は、答えた。
「ペテン師かどうかは知らないけど、君が時々、屋上の庭園で光を求めていたのは見えたよ」
私は男の子に言葉を返す。
「やっぱりあなたはペテン師。辛くて意味を持たない治療に、前向きな振りをしている。それに……そうか見ていたのね。私の唯一自由になる時を」
私の言葉に頷く男の子は今度は私と会話を続け、呼び名を付けた。
「時々、一人で居るのを見たけど、車椅子の君が一人で、屋上に居るのを不思議に思っていたんだ。まるで魔法陣の中の魔法使いのように輝いていた」
それは、私が付き添いの人に頼んで、一人切りにしてもらっているだけで、移動は補助を必要としていた。
でも、私は見栄を張る。
「そうよ車椅子を私が魔法で動かしているの。私は魔法使いなの」
男のは否定せずに私の嘘に付き合う。
「そうか、君は魔法使い。あの屋上へ差し込む一筋の光も魔法なのかな」
私の言葉をそのまま受けたの見て、私の心の思うがままを頼むことにした。
「あそこへ光のさす場所に連れて行って。今日は魔法が使えないから」
当然、彼も体調は良くないないだろう、だから私の言葉は否の返事を引き出すはずだった。
でも男の子は答えた。
「オッケー。それぐらい大した事ない。車椅子を押して、連れていくよ」
私は自分の身体もうまく動かせない、男の子を見た。
「ペテン師……自分の身体を動かすのだって苦しいはずなのに」
ペテン師の男の子は照れ笑いを浮かべ、魔法使いの私は、口をとんがらせた。
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