山茶花と夏蝉。

ふぃふてぃ

第1話 山茶花と夏蝉

山茶花さざんか山茶花さざんか蝉時雨せみしぐれ


何処にでもいる。

我、何処にでもいる者なり。


時として失敗し、時として失恋し、

時として金に失着し、情けの無い者なり。


妬み、嫌味、苦しみ、怠惰。

欲に溺れて、欲を愛する者なり。



山茶花、山茶花。蝉時雨。


寒極まる初冬。山おろし。

閑散とした山に芽吹く薄紅の花。


椿になれない私は山茶花。

小柄な私は蚊帳外。


人目につかない山奥で、

ひっそり暮らす、私は山茶花。


ただ、ひたすらに。

ただ、ひたむきに。


春の芽吹きを待つだけの花。

耐えて、耐えて、耐え抜いた。

せつに耐えた、薄紅の花。


耐えた先に見ゆるは目覚め。雪解けのその

山嶺に登る朝日の輝き、朝露の綻び。

散りゆく私の刹那の喜び。


私は山茶花、散りゆく山茶花。



山茶花、山茶花。蝉時雨。


負けるな、歌えや。蝉時雨。

夏の日差しは煌々と、蝉の背中を照りつける。


絶えず歌えど夏蝉よ。

儚く散りゆくその日まで。

秋の夜長を思うれど、

夢、幻に露と消え、


ただ、ひたすらに。

ただ、ひたむきに。


思うは晩夏、麗しの姫君。

やりて、やりて、やり抜いて、

満身創痍の夏の蝉。


散りゆく陽炎、夏椿。

昔、懐かしの山茶花の哀愁。

土に蠢く、幼虫の記憶。


見上げたるや青い空。

我は満足、命を繋ぎて。


我は山茶花

我は夏蝉

土に還る、その日まで


山茶花、山茶花。蝉時雨。

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