第13話 結婚式
おじさんの結婚式当日は、お母さんが張り切っていた。
「まさか、弟が、結婚出来るとは。お嫁さんになる人には、感謝しかないわよ。直人も失礼のないようにね」
母さんは、いつも文句ばかり言っていたが、本当は、自分の弟の事を心配していたらしい。
「あちらの娘さんは、直人と同級生よね。どんな娘さんなの?」
「そうなんだけど、なぜかあまり印象が、ないんだ」
飼い犬のヒメが、撫でてくれと、僕にすり寄る。
「ヒメちゃん、駄目よ。普段着と言っても、直人は、学生服なんだから、毛がつくと困るわ」
おじさんほ、なぜか、結婚式に、ヒメも招待していた。しかも招待状付きで。
お天気は、ピカピカの晴れ。
式場は、屋外。綺麗な芝生に全員の席が、用意されている。
もっとも、人数は少なく、こちらは、僕たち家族だけだ。
新婦側は、娘さんである僕の同級生だけだ。
同級生なのに、なぜか、話した事すら無い彼女は、ネコを連れていた。
誓いのキスが、終わると、その金色のネコが、ヒメに近づいてきた。
ヒメは、そのネコに駆け寄った。ヒメが、ネコを襲うと困るので、引き綱を握ったが、盛んにシッポを振っていた。
心配なさそうと、思っていると、スタスタとネコが、ヒメに近づいて、鼻を突き合わせた。
その時、僕の手の中に、見覚えのある筒が、現れた。
琴美ちゃんの手の中にも、もうひとつ現れた。
僕たちの記憶が、戻った。時が、止まったように、僕たちだけの空間になった。
「ヒメ。いや王女様。僕は、琴美ちゃんへの思いを取り戻したようです」
すると、ヒメの王女様が、笑いながら言った。
「違うわ。その思いは、こちらに帰って来てから、新しく生まれた琴美ちゃんへの恋心よ」
王子様も笑っていた。
「二人が、出会うたびに、強い思いが生まれて、魔法が、逆に引っ張られて、二人の思いが、ヒゲから二人の心に戻ろうとするのですよ。こんなの予定外だったわ」
「妹と僕は、そのだびに、新しいヒゲの魔法で、二人の思いを吸い取って、おじさんたちのヒゲに移して行きました。その時のヒゲよ。」
ヒメの王女様が、笑いながら続けました。
「そこから、おじさんたちのヒゲを経由して、思いを届けると、こんなに早く結婚する事に、なったの。おじさんたちは、結ばれたので、もう彼らのヒゲは、魔法の効力が、無くなったわ」
王子様が、再び、話してくれました。
「その筒は、こちらの世界に、戻ってから、直人君たちの思いを吸い続けていたヒゲが、入っています」
王子様は!僕たちの手に、現れた光沢のある金属製の筒を指し示した。
「おじさんたちのヒゲもついでに入れときました。もちろん、もう必要のないものですが、僕たちとの友情の印として、持っていてください。その筒がある限り僕たちの世界に、いつでも遊びに来る事が、出来ます。水面に向かって筒を振れば、門は開きます」
今度は、妹の王女様と、声を揃えて言った。
「では、僕たちは、自分たちの世界へ帰ります。僅かの間でしたが、この世界はとても楽しかったです。直人君と琴美ちゃんは、とても幸せになると思います。結婚式には、招待して下さい。是非参加したいと思います。では、しばらくの間、さようなら」
時が、動きだして、現実の世界に戻った僕たちは、おじさんたちの披露宴で、お腹いっぱい、卵焼きを食べた。
卵焼きと、魔法の国 @ramia294
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