第2話 メイコ、サークルに入る

「……痛った~」


 工学部F棟二階のフロア直前の階段の段差で躓いた私は、痛みが引くまで階段近くのベンチ(めっちゃ小さいしボロいし、なんか汚そう!!)に座りました。しばらくして痛みが収まってきたので、そろそろ部室に向うか……と思ったその時です。

 奥の廊下から眼鏡をかけた天パの小汚い男が歩いてくるではありませんか。というかあそこって部室(212号室)のある方向だよね……?

 素通りすることを期待した私ですが、ビラを持っていたのが運の尽き。この天パ男に話しかけられてしまいました。


「……サークル見学?」

「あ……はい。一応……」

「あっちに部室あるんで。あと漫画全部読んでいいんで」


 あ、この人、絶対工学部だ。典型的工学部男子だ。眼鏡でチェックシャツだし、全然私の目を見て喋んないし、めっちゃぶっきらぼうな喋りだし。まあオタク特有のクッサイ臭いは全然しないからギリギリセーフかな。いやでも、なんか服装が汚いからNGだわ。


「……えっと、他にも見学希望の人とか来てますか?」

「いや、いない。全然いない。場所が悪すぎる。本キャンに1年が来る訳がない。」

「え、じゃあ他の部員の方も……」

「や、部長と会計が新刊読んでる。読んだら帰ると思うけど」


「そうなんですか。ありがとうございます」と私が言うより先に、彼は早々と階段を降りていった。「めっちゃ早口じゃん……てか、対応雑すぎん?」と内心思い、行く気がそがれてしまったが、ここまで来て部室に行かないのは何となく申し訳ないので、意を決して212号室へ向かうことにした。


「失礼しまーす……」

 部室のドアを開けると、漫画があった。いや、ちゃんと部長と会計らしき男二人いるけど、漫画多過ぎない??てか窓側に本棚置くなよ。暗すぎるだろ。


 私に気づいた小太りの眼鏡の男子学生(もちろんチェックシャツ)が


「あ、見学?そこら辺の漫画全部読んでいいよ。これ読んだら帰るけど。」

 

 というと読んでいた漫画に再び目を落とした。いや、この対応、めっちゃ既視感あるんですけど……

 もう一人の中肉中背・裸眼・ちょい爽やか風な格好をした男子学生が


「あ、僕が部長のナガノです。こっちは会計のヤマダ。どっちも工学部機械工学科三年です。あ、もう一人理学部数学科三年でムラヤマってやつがいます。よろしく。」

「はい、よろしくおねがいします。」


 このナガノさんは、工学部男子の中では比較的まともな雰囲気と恰好をしてらっしゃるので少し安堵した。けど会話の始まりに「あ、」ってつけるあたりはやっぱり工学部だ。でもちょっと待って。まさかだけど、


「さっき眼鏡かけた天パの人とすれ違ったんですけど……」

「あ、多分そいつがムラヤマだ。5限の教養科目を受けに奥武山キャンパス行ったんだわ。」

「あいつ、教養の単位をまだ残してるのかよ!2年で取り切ったと思ったわ」

「冬学期1限の『現代社会の仕組み』って内山先生の講義だけな。あれ出席厳しいし、1限だし落として当然だわ。俺でも落とす。」

「ぜってー夏学期3限の『近代日本芸術論』のほうが取れただろ。専門科目と時間被んないし」

「『大講義室の人混みの中で受けたくない』ってさ」

「どうしようもねぇな」


 ……まさかの同じ理学部だったとは。幸い学科は違ってて助かったけど、あの人、3年なのに一年生の教養科目の単位を取り残してるの!?てことは同じ講義受ける可能性があるってこと!?


 と考えていると、部長さんが私のほうに話を戻しました。


「あ、名前まだだった。名前は?」

「私、メイコっていいます。理学部です。」

「メイコちゃんね。他のサークルとか入ってるの?」

「いや、まだ全然決めてなくて……」

「なるほど。ちなみに今入部したら、ここの漫画読み放題よ。」

「いや~私そんなに漫画読むほうではなくて……」


 そういうや否やヤマダさんが

「ナガノ、こういう時はシケプリだろ。」

「そうだった。うちには教養科目・理学部の過去3年分の過去問と解答集があるんだけど」

「じゃあ入ります。」


 私は脳内で瞬時に「他のサークルを探す労力」と「過去問入手の労力」を天秤にかけた。ここに籍を置くだけで過去問が入手できるのはかなりのメリットだ。


「ありがとう!それじゃ入部ということで」

「で、過去問ってどこの本棚にあるんですか?」

「ああ、あれ全部ムラヤマが持ってるだよね。だからあいつに頼むといいよ。」


え、あの男に頼まないといけないの!?最悪……

と思ったメイコだったのでした。

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めちゃくちゃ小さい不幸ばかり降りかかってくるガール アイスティー・ポン太 @icetea_ponta

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