骸骨

@nihunn

明晰夢

これは夢だな。と、すぐに分かるときがある。


夢というのはすごく不思議なもので、現実では当然あり得ないことでも、夢の中では現実のように感じてしまう。夢のなかで何かに追いかけられれば逃げたくなるし、心の底から恐怖を感じることもある。

おいしいものが並んでいるような楽しい夢もあるが、大抵食べようとした瞬間に目が覚めてしまう。


夢とはそんなものだ。




しかし、たまに、これは夢だと自覚できることがある。

今がそうだ。


今、私は自分の部屋にいる。



大量の骸骨に埋もれた、自分の部屋にいる。



「また、妙な夢に迷い込んでしまった」

思わず独り言をつぶやいた。


こういう夢は、半年に一回ほど見る。

だから、自然と焦りはしなかった。

起きる方法を知っていたからだ。


「今回はどこにあるんだろう・・・」


部屋のベッドの上に座っていたが、ベッドの上には骸骨が数体寝転んでいた。

いくつか骸骨を床に落としながら、探し物を続けた。

部屋はとても薄暗く、目を凝らさなければ物がよく見えない。


動くたびにガラガラと音を立てる骸骨は非常に不気味だったが、夢だと分かっている分、怖さは薄らいでいた。


数体骸骨を下に落とすと、書置きを見つけた。


書置きにはこうある。


――――私の骸骨を壊して――――


そして、その書置きの横にはハンマーが置かれていた。



「これが今回の目的・・・」




毎回、私の夢には指令がでる。

その指令をこなしさえすれば、夢から覚め、現実に戻ってこられる。



「私の骸骨って言ったって見分けつかないよ・・・」


壊せ、というのは、おそらくハンマーを使って骸骨を叩けばいいのだろうが、何しろ部屋中に骸骨が散らばっているのだ。

どれが私の骸骨かなんて分からない。

そもそも私の骸骨とはなんなのだろうか。


「かたっぱしから叩いていったらいいのかな」

そう考え、まずはすぐ近くにある、足元の骸骨を叩くことにした。


ハンマーを握り、足元の骸骨の頭を思いきり叩くと、ガシャン、という音とともに、骨が砕け破片が飛び散った。


そのまま、少し待ってみたが、何も変化は起きない。


外れか?と思っていると、どこからか声が聞こえた。


『あと2回』



急に聞こえる声に、びくっと、反応する。


自分の夢だと分かっていても、急に声がするとやはり驚いてしまう。



「あと2回・・・?もしかして、ハンマーで叩いていい骸骨のこと・・・?」

今までも色々な指令が夢の中で出されてきたが、回数制限があったことなんてなかった。



「え、2回で正解見つけられなかったらどうなるの・・・」



今まで失敗したことが無いので、失敗したらどうなるかは分からない。

分からないが、怖いのであまり考えたくない。



「かたっぱしから叩くのは辞めてちゃんと考えよう」

指令はなんだったか、もう一度紙を見返す。


――――私の骸骨を壊して――――


私ってそもそも誰のことなんだ。

私か、それとも紙を書いた人物か。


これは私の夢なんだから、紙を書いた人物も私で・・・

だから私は私・・・?


訳が分からなくなってきた。

違う視点から考えよう。


骸骨と言えばなんだろう・・・。

理科室にあるイメージ。


後は、なんだ。


確か、骸骨にはいくつか呼び方があった。

髑髏とか、しゃれこうべとか。

織田信長が、倒した相手の頭蓋骨で酒を飲んでいたなんて話も聞いたことがある。


何かのヒントになるだろうか。


辺りを見回してみると、気になるものを見つけた。


薄暗い光のせいで最初は気づかなかったが、部屋の隅にほうに異様に黒い骸骨があるのだ、

おまけにその骸骨、頭の上に酒瓶が置かれている。


「絶対あれじゃん」

頭の上に酒あるもん。怪しすぎる。

これは私の夢だから、私の知識が反映されていてもおかしくないよね。


余りにも単純すぎる答えだと思ったが、

「夢なんてこんなもんだよ」

そう思い、私はベッドから立ちあがり、床の無数の骸骨をどけながら部屋の隅に向かう。


やっと黒い骸骨の前までたどり着き、ハンマーを振り下ろそうとしたとき、ある疑問が頭に浮かんだ。

「なぜ黒いんだ?」


この骸骨はなぜ黒いのだろうか。

くろ・・・くろ・・・

・・・どくろ?

髑髏か。どくろだから黒いのか。


全く、私の夢ながらなんてくだらない。


すっきりとした気持ちでハンマーを振り下ろした。










『あと1回』




冷汗が首筋を伝った。

「え、違うの・・・」


軽くパニックになりながら考える。


なんで、なんで違うの。


織田信長関係ないの?どくろだから黒いんじゃないの?



あと一回失敗したらどうなるの。



自分の夢から覚めることができなくなったらどうしよう。



どうしようもなく怖くなり、焦りながらもベッドに戻ろうと身を翻したとき、


唐突に答えに気づいた。





黒い髑髏とちょうど反対側に、鏡があった。

その鏡には、ハンマーを持った骸骨が写っていた。

そりゃ私は私だもんね


「私の骸骨みーっけ」

力なく笑いながら、私は私の頭にハンマーを叩きつけた。






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ピピピピピピピピ

うるさい目覚ましの音で目が覚めた。

部屋には朝日が差し込んでいて、とても明るい。

夢から覚めたのだ。

無数にあった骸骨は当然消えていた。


リビングに向かい、母におはようと声をかける



「あんた酷い顔してるわよ。嫌な夢でも見たの?」

「最悪な夢だったよ。もう起きれないかと思った」

「起きられてよかったわね」

そう言いながら母は笑っていた。


「朝ごはん要らないんだっけ?確か昨夜の晩言ってたわよね。骨と皮になるくらい痩せたいから朝ごはんは食べないって」

「そんなこと言ったっけ」


そんなことを言ったからあんな夢を見たのだろうか。


「朝ごはん食べるよ。いっぱい食べる。骨はもう見たくない」

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