その13

 制服も私服も、俺にお決まりの嫌味を浴びせかけようとしたが、今日は一発も発砲していなかったので、苦虫を噛み潰したような顔で睨んだだけだった。

 佐伯菜穂子と小高姉弟はそれぞれ手錠ワッパを掛けられた。 

 四人とも後から来た二台のパトカーに別々に押し込まれるまで、全く目を合わせなかった。

 ただ、姉弟が落ち着いているのに対し、

菜穂子の方はひどく泣きわめき、三人の警官が半ば押さえつけてなだめなければならない始末だった。

『ご苦労様』

 いつの間にかマリーが立っていて、彼女はシガリロをくゆらせながら、四人の運ばれていく姿を、俺の隣で眺めていた。

『貴方が知らせてくれたお陰で、大事にならずに済んだわ。でも今回はただ働きね。何しろ依頼人が逮捕されてしまったんですもの』

『俺を誰だと思ってる。探偵だぜ。貰うべきもんは貰う。それだけの働きはしたんだからな』

『貴方らしいわ』

 彼女は小さく笑い、また煙を吐き出す。

 真理によれば、あの後何とか捜索差押令状がさじょうを取り、進一の家を家探しし、違法薬物を幾つか押収したという。

 進二の方は、とりあえず家宅侵入罪その他で引っ張り、後はどうにかして自供を引き出す手を取るそうだ。

『あの奥さんはどうなるかね?』

 別れ際に俺が聞いてみると、

 彼女が持っていた拳銃は、射撃練習用ということで、警察に届けが出ていたから、そっちでは引っ張れないが、目的外使用と殺人未遂位がせいぜいだろうとのことだった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 さて、この事件はこれで終わりだ。

 不満はあるだろうが、現実にそうなんだから仕方ないだろう。

 小高姉弟は、取り調べでも法廷でも、一切の言い訳をせず犯罪の事実を認め、むしろ毅然としていたため、ひどくあっさりと罪が確定し、それぞれの罪にあった実刑(それも少しばかり軽めの)が下され、控訴もせず、潔く服した。

 

 佐伯菜穂子はといえば、終始取り乱した態度のままで、公判の維持が出来ないということで、弁護側は心神喪失を主張し、そのまま精神科病院への措置入院が決定した。

 ついでに言えば世間の同情はむしろ被害者である佐伯夫婦よりも、加害者である

 小高姉弟の方に集まったのは、皮肉な結末と言えるだろう。

 彼女の夫は、そのことが酷く不満だったらしく、俺への探偵料ギャラの支払いも渋りまくっていたが、流石に契約書がモノをいい、結局必要経費と危険手当だけの支払いには応じたがね。

 まあ、俺も揉めたってしょうがないから、その辺で手を打った。

”なんだ、物足りない”だって?

 くどいぜ。いい加減。

 日頃から言ってるだろ。

 探偵が扱う現実の事件なんてものは、空想の世界みたいに恰好よくないってさ。

                                終わり

*)この物語はフィクションです。登場人物その他全ては作者の想像の産物であります。

 

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今様・怨み節 冷門 風之助  @yamato2673nippon

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