■Episode10:そして今日が始まる
「各種機能の強制シャットダウンが始まりました……もう間もなく、私の意識は閉ざされることになるでしょう」
イヴの口から紡がれる言葉は徐々に遅く……そして弱くなっていく。
「……残念です。本当はこの部屋の中だけじゃなくて……もっと広い世界を見たかった。ノウェア様と一緒に……」
「止めてよ……そんな言い方。ここで別れて、それっきりになるとは、限らないでしょ?」
「…………? それは、どういう意味で……?」
「最期になんてさせない。いつかあなたを修理して、必ず目覚めさせてみせる」
「私を、修理……? 少なくとも私が認識している技術では、私の身体を直すことは……」
「今は無理でも、これから先は分からないでしょ。人でも、知識でも部品でも……貴方を直すために必要なものは、なんだって探し出してみせるから」
ノウェアはぽろぽろと涙を流しながら、満面の笑みを浮かべてみせた。
「そうしてきっと……貴方と再会してみせる。それが私の……夢なの。絶対、叶えてみせるんだから……」
せめてこの時だけは、彼女を心配させないようにと。
「夢……ですか」
「そう……だからイヴはこれから、少し長めの眠りにつくだけ。いつかは目覚めて、また私と一緒に暮らすの。それで……その時には、あの映像にも負けないくらいのパーティーで再会を祝うんだよ」
「そうですか……ふふ、それは楽しみですね」
イヴはノウェアの瞳をじっと見つめ返したまま、弱々しい所作で頷いた。
「……では、さよならは言わないでおきましょう」
こうしてイヴは……その言葉を最後に、長い眠りにつくことになるのだった。
それから、また……長い月日が経った。
「またあの夢……」
自室のベッドにて目を覚ましたノウェアは、天井に向かって小さな呟きを漏らす。
あの出来事があったのは……もうどれくらい前のことになるだろうか。
イヴと別れたあの時のことを忘れた日は、一日だって無い。
時折……孤独に苦しめられることや、悲しみに暮れることもある。
けれど、それも……悪いことばかりではない。
そうやって苦しむからこそ、
この気持ちがあるからこそ、私は前へ進んでいける。
どこへ向かっているのか、自分が何をしているのか分からなくなる時……ノウェアはそう考えることにしている。
「さてと」
新しい一日が始まる。今日も彼女は、前へと進み続ける。
次に踏み出す一歩が、あの日から変わらず抱き続けている夢に……つながっていると信じて。
Nowhere -終末少女- @KAWAII_MUSIC
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