第1話 『丘野清美という男』


とある国某所


雨水が排水管を伝ってコンクリート製の床に落ちる。


ピタピタと雨水が弾かれる音がこだまして

神秘的な雰囲気さえ漂わせる。


古びて力なく垂れ下がった茶色のチェーンが風に揺られる。

鳥肌が立ちそうなほどの冷たい風が優しく吹いて砂埃が宙を舞う。


すっかり砂まみれになったワゴン車の

扉には黒いシミのようなものがあり

それは塗装からなる色ではなく、

上から雑に塗りたくられたようなものだ。



そのシミの正体が血痕だと

判断出来る理由は人それぞれ

異なる部分があるだろうけれど、

鉄の錆びついたような匂いと

鼻がひしゃげそうな程の異様な臭いによって

それが死を連想させるものだと気づく事は

余程の死線をくぐり抜けて慣れ過ぎて鼻が

効かなくなった者でない限りは

容易に出来るはずだ。




黒い革靴が砂埃によって塗装されていく。

望んでいなくともそうなる運命だ。

ここで惨殺されたもの達の魂が付き纏っているようにさえ思える。


恐らく魂なんて響きではなくてそれは憎悪。

憎しみから湧き出る念だろう。

こんな場所に誰も寄り付こうなんて思わないだろうし寄り付く理由も見当たらない。

心霊現象とやらに遭遇するために来るなんて馬鹿げた目的で訪れる者も居ないだろう。


それもその筈。

このエリアは呪いによって

埋め尽くされている。

自ら命を断とうとしている人間でも死後、

永遠の呪縛によって苦しめられたいものなんてよほどの変わり者だろうし、

ここに巣食う邪悪が人間の

第六感を刺激して

誰も此処を認知出来ない筈だ。










否、一人の男を除いては。

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