(什参)
銅鑼が鳴らされると、敵の本陣からも、銅鑼が鳴り響く。すると、戦場で戦っていた両軍は、戦いをやめて、攻め寄せていた方は、少し後退し距離をとると、野営の準備を、始めた。
趙武は、自分の天幕に戻ると、横になった。そして、一日の戦いを振り返っていると、前線で戦っていた、龍雲、至恩、泉小、麻龍。そして、呂鵬に馬延。さらに、呂亜もやって来た。
諸将は集まると、車座に座る。凱鐵も、趙武の後ろに座る。そして、
諸将は、夕餉を食べつつ、話し始めた。
「趙武の旦那。もう少しだったんだぜ。岑瞬の首とるの」
と、麻龍。
「何、言ってんの。敵軍の中で、孤立してるの助けてあげたのは、誰だったかしら?」
と、泉小。
「それは、まあ、感謝してるぜ」
「だったら、いいわよ」
すると、龍雲は、
「確かに、斤舷さんって、戦い慣れしてないのか、真正面から、俺達の突撃受けるから、結構、突破しやすかったんですけどね〜」
「でも、朱滅だったかしら? あの人が来てからは、戦況一変しちゃったわね」
泉小の言葉を、龍雲も肯定する
「ああ。正直、危ないなって思う時も、ありましたからね〜。至恩さんが、来なかったら、危ないところでしたよ」
すると、至恩は、
「俺は、もう少し条朱の軍勢を、叩きたかったんだけどな。やっぱり、朱滅だっけ? に上手くやられたよ」
「でも、合流して、ちょうど互角の戦いになって、上出来だよ」
と、趙武。
「そうか? だって、俺達が、主攻だったんじゃないのか?」
という、至恩の疑問に、趙武は、
「主攻だけど、そこで、決着つけるつもりもないよ。まあ、そこで、決着つけば、凄く助かるけど。明日、以降も頑張って。泉小さんと、至恩の頭脳も駆使して」
「ああ、わかったよ」
と、至恩。
「ほほほ。任せて頂戴」
と、泉小。
さらに、龍雲と、麻龍も、うなずいている。
中央軍の話が、終わると、今度は、呂鵬が話し始めた。
「凱炎殿は、やっぱり敵にまわしたくなかったよ、趙武殿。いや、強い、強い」
「ですが、その攻撃に耐えている呂鵬さんも、流石じゃないですか」
と、趙武。
「ハハハ、なんとかですね。馬延殿、来なかったら、それこそ危なかったですよ」
と呂鵬が言うと、馬延は、
「凱炎軍にも、隙がありましたからね。なんとか」
すると、凱鐵が、
「兄ですね。あれは、唯の、父のものまねですから」
「ものまね?」
と、趙武が聞くと、
「ええ、戦い方も、格好も真似て、中身が無い」
「凱鐵君は、
と、呂鵬。
「すみません。ですが、昔から、身体の事とか馬鹿にしてきて、相性が良くなかったので、
と凱鐵が言うと、呂鵬は、
「そうですか。では、遠慮なく弱点の、凱武君を、いじめましょうか、ね。馬延君」
「はい、お任せください」
すると、趙武は、
「そう言えば呂鵬さん。お聞き及びとは思いますが、本陣の丘を、使って下さいね。明日の昼頃には、凱炎軍が、そこまで追い込んでくると、思うので」
「わかった。ところで、本陣を離れて、趙武殿は、どうするのだ?」
呂鵬の、問いかけに、趙武は、
「左翼後方に、移動しますよ。雷厳と、慈魏須文斗さん連れて」
「なるほど、そちらが本当の主攻なのだな?」
と、呂鵬のさらなる問いかけに、趙武は、
「う〜ん。まあ、後のお楽しみという事で」
「何だよ、それは?」
と呂亜。
「ハハハ、分かった。楽しみに待っているよ」
と呂鵬。そして、
「まあしばらく動きは、無いけど、呂亜さんも、すぐに動けるようには、お願いしますよ」
「分かった」
と、呂亜。
「さあ、明日に向けて、備えましょうか」
趙武の声に、諸将が応える。
「おう!」
翌日も、銅鑼の音と共に、戦いは、始まった。龍雲、泉小、麻龍、そして、至恩の軍は、再び、条朱軍、そして、岑瞬の軍勢と、攻防を開始する。
こちらの戦いは、趙武側19万。対して、岑瞬軍27万。だが、不思議な事に、引き続き互角の攻防をしていた。良く見ると、岑瞬を守る為か、一部のの兵が、まるっきり戦っていない。
趙武は、場合によっては、援軍を送ろうと思っていたが、とりあえず、そのままにする事にした。
もう一方の戦いは、凱炎軍が、呂鵬軍、馬延軍に襲いかかると、呂鵬、馬延軍はゆっくりと後退していく。こちらは、趙武側15万、岑瞬側が20万。損害自体も、趙武側の方が多かったのだ。そして、昼頃には、呂鵬軍が、本陣のある丘の下まで、追い詰められた。ように見えた。
馬延軍は、一時戦列を離れると、一気に本陣のある丘に登り、眼下の凱炎軍に、弓兵が、雨のように矢を降らせる。そして、呂鵬軍も、丘に後退しつつ登り、防御拠点として活用すると、形勢は逆転したのだった。
凱炎軍は、攻城戦を、比較的、苦手にする上に、呂鵬軍は、防衛拠点を使った防衛戦が得意な、
さらに、凱武軍が、呂鵬軍に、丘に誘い込まれ、馬延軍の矢と、呂鵬軍からの
「なんで勝手に攻め込んだ!」
凱炎は、息子である、凱武を怒る。
「いえ、ただ
「隙ではない! 誘い込まれたのだ。感じんかったのか、危険な気配を?」
「いえ、特には」
「はあ〜。似てるのは、外見だけか。まあ良い。亥常。この状況どうすれば良い?」
「このまま攻めるには、被害が、大き過ぎます。されど、迂回して、敵本陣への攻撃をするにしても、敵本陣の位置もわからない上に、追撃も受けるでしょう。後は、逃げるしか。追撃されない事を願いつつですが……」
「いや、逃げる事はできん。ここで逃げたら、全て終わりだ」
凱炎は、完全に手詰まりな事を悟った。そして、凱炎軍は、その後も丘を攻撃し続け、被害を無駄に、増やしていったのだった。
二日目から、四日目まで、戦いは大きな動きは無く、膠着していた。ただ、中央軍の戦いは、数の多い岑瞬軍が、若干、有利には、なりつつあり、何らかの手立てをこうしないと、攻め手の龍雲、泉小、麻龍、至恩の軍勢は、崩壊する危険もあった。
一方、凱炎軍は、亥常の撤退の助言を頑なに否定して、凱炎は戦い続けていたが、丘に布陣した、呂鵬、馬延軍に良いところなく翻弄されていた。こちらは、岑瞬や耀勝からの助言もなく、すでに戦線の維持は困難になってきていた。
それを見て、趙武は動いた。
五日目に、戦いは一気に動き始める事に、なったのだった。趙武は、予備戦力を投入し、現状を打開し始めた。
「さあ、来ましたね〜。楽しんでくださいよ。僕が考案した、三段無限の陣。さあ、破れますかね〜」
泯桂は、迫りくる軍を、見つつ、軍を動かした。
攻めるのは、呂亜の軍勢に、岑平軍。さらに、雷厳軍から、1万の精鋭を選んで、加えていた。
待ち受けるのは、岑瞬軍の右翼。如親王国軍の、揮沙、と泯桂率いる10万の軍勢だった。
残りの雷厳軍はというと、呂鵬軍のところに援軍として、送っていた。呂鵬、馬延軍が、凱炎軍を破れば、中央軍の援軍に送れる、との計算だった。
その呂鵬軍への援軍を率いるのは、
凱炎軍の損害は、三割程。かなりの損害だった。そして、その半数は、凱武軍だ。凱炎軍の兵力は、およそ14万。
そこに、戦っていないので疲れも無く、力の有り余った、凱騎軍が襲いかかる。さらに、呂鵬軍、馬延軍も丘を下り、凱炎軍へと迫る。
この時点で、呂鵬軍の損害は二割ほど、馬延軍は、およそ一割程で、総勢は、16万5千。兵力は、逆転し、守勢にまわった凱炎軍は、追い立てられつつ、後退を開始した。
「オラオラオラオラ! どけどけどけどけ!」
凱騎が、崩壊しつつある凱炎軍を、縦横無尽に、切り裂く。そして、
「ん? そこにいるのは、凱武の
「その声は、凱騎。貴様、何の用だ?」
「戦場で、何の用だは、ないだろ」
「ふん。まあ良い。さっさとどこかに行け」
「そうか。兄者は、本当に心がないな。だけど、良かった。
「なんだと」
「さっさと構えろ」
「くっ」
凱騎は、馬上で、
お互いの馬が迫り、大刀と矛が、交錯する。そして、走り抜け、凱騎が、振り返る。すると、凱武は、ゆっくりと、馬から転がり落ちた。
「さらばだ、兄者」
凱武が死に、凱武軍の残存兵は、降伏する。
「凱武が、凱騎に討たれて死んだか。俺も、ここまでだな。亥常」
「はい」
「
「しかし……」
「すまん。最後の頼みだ。頼む」
「かしこまりました」
凱炎は、残存軍を、亥常に託すと、1万程の、兵を率い、呂鵬軍、馬延軍、そして、凱騎軍の前に、立ち塞がった。亥常達の、逃げる時間を稼ぐ為の、最後の命を賭した、行動だった。
だが、多勢に無勢。あっという間に、討ち減らされていった。そして、最後、凱炎と共に残った数騎の将兵の上に、無数の矢が降り注いだ。
「うっ」
凱炎の体は、ハリネズミのように矢が刺さり、ゆっくりと馬から転げ落ちる。それを見て、呂鵬は、ゆっくりと近づき、馬から降り、凱炎の体を、起こし、話しかけた。
「凱炎殿」
「おお、その声は、呂鵬殿か。負けた、負けた」
「すまない、凱炎殿。私は助けて貰ったのに、凱炎殿を助ける事が、出来なかった。申し訳ない」
「何を言っている。戦場では、仕方のない事だ。それに、俺が選んだ道だ」
「そうか」
「ああ、それよりも、呂鵬殿に頼みたい事がある」
「何です?」
「陛下の事だ。なんとか命だけは、助けて欲しいと、趙武に頼んで欲しい」
「分かった」
呂鵬が、そう言うと、凱炎は満足そうに頷いた。さらに、
「それと、陛下に、どこか知らない地で、ゆっくりと……暮らして……く……ださい……と」
「凱炎殿、凱炎殿」
呂鵬が名を呼びながら、体を揺するが、反応はなかった。
呂鵬は、ふと気配を感じ隣を見ると、隣では、凱騎が、空を見上げつつ、無言で、涙を流していた。
戦場を駆け回り、暴れ回り、大岑帝国に栄光をもたらした勇将は死んだ。だが、戦場で生き、戦場で死んだ男の、その顔は、どこか満足そうだった。死を賭して、援軍を送り込んだ、凱炎。
だが、残った凱炎軍を率いる亥常は、岑瞬の下に向かう事は、しなかった。合理的で、頭の切れる男は、これ以上の戦いは、死者を増やすだけで無駄だと考えた。
そのまま、戦場を離脱。迂回して、蛟龍城に入ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます