(弐)
大京にて、岑瞬の即位式が行われていた頃。趙武は、と言うと、東方諸国同盟領の
南龍海王国は、大岑帝国に滅ぼされた、
その為に、元々龍海王国の民だった事もあり、南龍海王国の王族の人気は低く。趙武達は、ある程度、歓迎されて迎えられた。まあ、その前に、一番、最初に入った、呂亜の適切な対処も良かったのだが。
で、この南龍海王国だが、国土はそれほど大きくないのだが、カナン平原、有数の港を持ち、海運、交易によって発展。南龍は、南部最大の街となっていた。
そして、南龍海王国の海軍も、手に入れた趙武は、瀬李姉綾や、子供達を含め、配下の将の家族も、南龍へと呼び、何かあった場合、その家族達を船で、逃がせるようにしていたのだった。
そこまでの準備を整え、趙武は、いよいよ岑瞬との敵対を決意。大岑帝国帝都、大京ヘと侵攻を目指し、準備を開始したのだった。
まずは、狗雀那国との境界だったが、南部四か国、
一方、南龍海王国や、
すると、残っていた、さらなる小国、
こうして、東方諸国同盟を傘下に治めた趙武は、皇帝、岑職の臣下として、動き始めた。まずは、情報の統制。
元々、東方諸国同盟と、大岑帝国は敵対していた為に、北への街道の往来は厳しく制限されていたのだが、それを継続。しかし、江陽から、
さらに、
他に、上将軍として
そして、趙武は、大岑帝国、皇帝の下、軍事、政治を統括する、
こうして、体制を整えた趙武は、南龍の自らの邸宅に人を集め、
集まったのは、趙武、呂亜、岑平、
美味しい料理を食べつつ、軽く酒を飲み、少し気分も高揚し始めた頃、呂亜が、全員に声を、かける。
「楽しんでいるところを申し訳ない。少し、趙武から話があるそうだ。趙武、よろしく頼む」
「はい。呂亜さん、ありがとうございます」
趙武は、
「今回の戦い、負けたら賊軍だの、反乱軍だの、言われるかもしれない。そして、自分のわがままで起こすこの戦いは、趙武の乱だの、趙武の変だの、言われるかもしれない。だけど、負けるつもりもありませんけどね」
ここで、趙武は、一呼吸置き、盃に入った清酒を一気に飲み干す。慌てて、凱鐵が、
「僕は、岑英様の見たかった景色を、見たくなったんだ。勝手だけど。岑英様の見たかった景色には、岑瞬さんでも、興魏さんも到達する事は、出来ないと思う。呂亜さん始め、皆がいる僕だからこそ、見る事が出来ると思うんだ。こんなわがままから始まる戦いだけど、みんな良いかな?」
趙武は、全員を見回す。すると、
「当たり前だろ〜! 俺はどこまでも着いてくぞ!」
少し酔い始めているのか、雷厳が大声で叫ぶ。
「まあ、趙武さんのわがままは、今に始まったことじゃないですけどね。でも、俺もどこまででも着いて行きますよ」
龍雲が相変わらず
「ついに名門出身の俺も、反逆者か〜。まあ、それも一興だな。趙武、お前に着いて行けば、まだまだ楽しめそうだ」
至恩が、冗談めかして語る。
「勉強したい為だけだったんですけど。人生ってとても面白いですね〜。勿論、僕も最後までお供しますよ。まあ、表立って戦うわけではないですけど」
と、陵乾。
「趙武さんが、父の目指したものを見る。僕も一緒に見たいです。是非、ご一緒させてください」
と、岑平。だが、趙武が、口を挟む。
「岑平様には、他の仕事を頼むかもしれませんよ〜」
「それでも構いません。趙武さんがいるなら皇帝として、操り人形もやりますよ」
「操り人形には、しませんが」
趙武の冗談半分の言を、真剣に返され、趙武が、少し慌てた口調で返事を、すると、皆は大声で笑った。
「ただの坊主にどこまで出来るか分かりませんが、最後まで」
會清がこう言うと、呂亜が、
「いや、ただの坊主じゃないでしょ」
「そうですかな? ハハハ」
會清が笑う。そして、馬延が、
「落ちこぼれだった俺が、今や一番の出世頭ですからね。まだまだ出世させてもらいますよ」
馬延の言葉に、岑平、麾下の将達は、何か言い返そうとするが、何も言えず黙った。相手は、趙武、麾下の裨将軍。自分達は、今は、趙武の配下の岑平、麾下の将軍。身分が違った。
「姫や、
慈魏須文斗は、最近、完全にただの、じいとなっていた。まあ、戦いには支障は無かったが。
「趙武の旦那〜。みずくさいですぜ! そんな事言わなくても、どこまででも、お供しますぜ!」
「そうよ、そうよ! 勝ち続ける限り、わたしは、どこ迄でも、ついてくわよ」
と、麻龍と、泉小も。
「趙武さん。わたくしは、まだまだ勉強が足りません! 皆様の役にたてるように頑張ります!」
と、凱鐵。さらに、凱騎は、
「師匠が行くなら、どこまででも行くぞ! 兄貴もいるしな」
「こらっ、凱騎。兄を付属品みたいに言うな!」
「へ〜い」
「おのれ!」
凱炎の息子、二人が、じゃれ合う。
「だけど、良いのか? 凱炎さんと、後、長男さん? と、戦う事になるけど」
すると、見事に二人の言葉が重なる。
「父上は、父上。わたくしはわたくしです。わたくしの師匠は、趙武様です」
と、凱鐵。
「父は、父。俺は俺。そう育てられたし、父を倒すのが、俺の夢だし」
と凱騎。二人から、長男については、何も無かった。長男はどうでも良いらしい。
そして、最後に、呂亜が、話す。
「まあ、そういう事だ、皆、趙武、お前に全てを託すそうだ。父上も、そう言っているしな」
どうやら、呂亜の父、呂鵬も、趙武と共に戦うようだった。そして、趙武は、
「そうですか。じゃあ、後は……」
「後は?」
皆の声が、重なる。
「楽しみましょうか。心ゆくまで、呑み、心ゆくまで、食べましょう」
「おー!」
趙武は、ようやく、ゆっくりと家にいる。戦いに明け暮れ、その後、瀬李姉綾達は、ここ南龍にへと呼び寄せられた。また、激しい戦いが続くらしい。その間の、束の間の休息。趙英は、5歳になり、風樓羅も2歳となった。
それで、趙武が子供の世話をすると言って、瀬李姉綾は、少し用事を済ませたのだが、書斎で、遊んでいた子供達の声が静かになった。
瀬李姉綾が書斎を覗き込むと、趙武は、静かに書物を読んでいた。その隣では、同じような格好で、趙英が、趙武に貰ったのであろう書物を、真剣な眼差しで、読んでいた。
そして、風樓羅は、書物を枕にして、気持ち良さそうに寝ていた。誰に似たのかしら? 瀬李姉綾は、少しそう思ったが、自分である事に思い至り、考えるのをやめたのだった。
瀬李姉綾は、書斎にそっと入ると、三人のそばに静かに腰をおろした。海からの暖かい潮風が、開け放たれた窓から入ってきた。そう、夏がもうすぐそこまで来ていた。
會清が、趙武の執務室に慌てて、駆け込んで来た。
「岑瞬軍。趙武、討伐軍として、凱炎大将軍を総大将とした、50万の軍勢が、大京を出発、江陽に向かいました」
趙武は、読んでいた書物から目を離し、顔を上げる。
「そう。ご苦労様。じゃあ、こちらもやりますか」
そう言うと、立ち上がり、會清と共に、執務室を後にしたのだった。
趙武達が、出陣に向けて準備をしていると、狗雀那国からの、使者がやってきて、狗雀那国王、トゥーゴーの書状を持ってきた。その書状には。
「趙武。トゥーゴー様、何て言ってきたんだ?」
呂亜が、趙武に訊ねる。
趙武は、トゥーゴーの書状から目を離し、そして、その書状を、呂亜に渡しながら、答える。
「トゥーゴー様は、狗雀那国軍、全軍率いて、大岑帝国帝都、大京に見学行きたいって」
「なっ! 本当か?」
呂亜は、慌てて書状を読む。そして、
「自分達の目的は達成出来たので、今度は、こちらが協力しますか〜。いや。有り難いけど。どうするんだ?」
「まあ、緒戦は、大きな
「そうか。父も、大京に向かうみたいだから、大京周辺は、大変な事になりそうだな」
そう言いながら、呂亜は、
「そう、なりますね。相手に対する威圧としては、かなりでしょうね」
趙武は、そう言いながら、目を瞑り、考え始めた。
「ああ」
呂亜は、返事しつつ、そっと、趙武の執務室を後にしたのだった。
そして、趙武軍、狗雀那国軍の連合軍は、大岑帝国帝都、大京に向けて、南龍を出発したのだった。その数は、70万。その数は、大岑帝国皇帝、岑瞬が現在、実際に動かせる兵数と同数だった。
「じゃあ、行きましょう」
趙武が合図をすると、大軍が動き始めた。目標は、大京。
こうして、趙武、自らが称した、趙武の乱と呼ばれる戦いは、始まったのだった。
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