第陸幕 趙武の乱編
(弌)
大将軍、
そして、
ただ、
西京の呂鵬に対しては、岑瞬は、自らの即位式に、
だが、それに対しての呂鵬の書状は、丁寧なものであったのだが。岑瞬の即位に対する、
これを見て、岑瞬は、これこそ、誠の忠臣と感動したのだった。だが、いずれ攻めねばならない。国内に、二君が並び立つ事は、出来ないと、決意もしたのだった。
この書状を凱炎にも見せた岑瞬だったが、
「なんとも、呂鵬殿らしい。文面ですな」
「ああ」
凱炎の、言葉に短く返事するだけにとどめた、岑瞬だった。
一方、趙武に対しては、最初の約束通り、大京を手に入れ、正式な皇帝となったので、即位式に参列し、臣下の礼をとるように。参列さえすれば、今までの行いは、不問にすると書いた。
それに対する趙武の返事なのだが。今回は、ちゃんと趙武の手に渡り、それに対して趙武は、返事を書いたのだが、その内容は、
即位おめでとう。だけど忙しいので、参列出来ません。岑英様のようにはいかないと思いますが、頑張ってください。
という感じだった。この書状は、岑瞬を激怒させるには、充分なものだった。趙武の目的も、岑瞬を怒らせる為だったのなら、成功だろうか。
この書状で、岑瞬は、即位式後、準備出来次第、趙武の討伐を決意したのだった。
この書状も、凱炎、条朱、廷黒に見せた、岑瞬だったが。
「これは……」
絶句した凱炎。
「さすがに、馬鹿にしている! 趙武殿とはいえ」
怒る、条朱。
「……。忙しい? 趙武殿は、何をしているんだ?」
廷黒の、言葉に、
「ただの、言い訳だろ?」
条朱が、そう答えるが、
「だったら、良いんだが……」
不安を覚える、廷黒だった。
最後に、東方諸国同盟だが。使者は、入国する事も出来ず。
「何でも、趙武軍を攻撃したところを、南方から侵略を受けたそうです。南部の国が一部寝返って、かなり激しい
「南方から? どんな国なのだ?」
岑瞬が、訊ねると、
「国名は、
「随分、詳しく分かりましたね?」
廷黒が聞くと、使者は、
「はい。たまたま知り合った商人が、内情にとても詳しく、いろいろ教えてくれました」
「そうですか……」
廷黒は、何やら考え込んだが、岑瞬が聞くと、
「どうした? 何か気になる事があるのか?」
それに対して、廷黒は、
「いえ、何でもありません」
そう言ったのだが、その夜、廷黒は、呂鵬に向けて、何やら書状を出したのだった。
「大岑帝国万歳!」
「皇帝陛下万歳!」
岑瞬は、見渡す限りの、
「
岑瞬は、万歳の海の中、叫んでみたが、自分以外には聞こえないだろう。この言葉に、とても満足したのだった。
こうして、即位式は、終了した。
この後、岑瞬の名は、後々の歴史書においても、正式に皇帝として、記述される事となった。皇帝の位は、岑英、岑英の子、岑職、そして、岑英の弟、岑瞬へと受け継がれる事となった。
即位式が終わり、大岑帝国以外からの、唯一の参列者となった。
この時の耀勝の興味は、大岑帝国や、岑瞬ではなく、趙武へと移っていた。勿論、狗雀那国に攻められているという、東方諸国同盟の事も、ある程度は気になっていたが。あそこには、
なので、岑瞬に会う目的も、趙武と戦わせ、長い長い混乱期を作るためであった。
「
「いえいえ、あまり
「邪魔ですか?」
「ええ、趙武、討伐を決意されたとか」
「さすが師父、良くご存知で。ええ、あのふざけた男を討ち破り、大岑帝国、再統一を果たします」
そう言いながら、岑瞬は、耀勝に趙武からの、返書を見せる。
「これは……」
さすがの耀勝も、絶句した。これは、大岑帝国皇帝である、岑瞬に完全に喧嘩を売っている。よほど自信があるのか、それとも虚勢を張っているのか、大馬鹿者なのか。耀勝は、趙武という人間がわからなくなった。
ただの天才的な用兵家だと思っていたのだが、その認識を変えないといけなかったのではないか。
耀勝は平和を愛する男。ただし、自分の守れる範囲が平和で、豊かであれば良かった。だが、趙武は、それを打ち壊し、統一という名の下に、その頭脳で、冷徹に国々を滅ぼしていく、絶対的な悪。
耀勝の背に、冷たい汗が流れた。だが、それはないだろう。耀勝は思い込むように、その考えを打ち消したのだった。立場を替えればお互い様だ。趙武から見たら、自分も同じように見えるだろうと。
だから、自分の守れる場所を守る為に、岑瞬をさらに、惑わす。
「岑瞬様を馬鹿にしているのでしょうか? 許せません」
「師父、ありがとうございます。余の為に、怒って下さり」
「当然ではありませんか。我が弟子が、
「師父……」
岑瞬は、耀勝の言葉に感動していた。耀勝は言葉を、続ける。
「ですが、
「はい。趙武軍は、たかだか20万。我が軍は、70万、それに、師父の軍勢も加われば……」
「だから油断為さるなと、言ったのです。今回、我が軍は、参加出来ません。あまりに長い遠征は、繰り返せませんので」
耀勝は、そう言ったが、本音は、自分達が加わって、趙武軍の負けが、すぐに決まってしまうと困るのだ。
「そうですか。わかりました。油断せず、戦います。そして、師父に良い報告を出来るようにします」
「待ってますよ」
こうして、耀勝は、帝都、大京を後にして、如親王国に帰国したのだった。
耀勝が帰国し、即位式の
近衛禁軍将軍の塔南。独立遊軍の上将軍、至霊と、斤舷。
そして、各大将軍の配下に入っている上将軍。
凱炎の下には二人、凱炎の長男、
続いて、条朱の下には、秀峰の配下で、智将として、見事に立ち回ってみせた、
各将を前に、岑瞬は、宣言をする。
「逆賊、趙武を討つ!」
この宣言に対して、反応は様々であった。廷黒、至霊、塔南は複雑な表情をする。ただ、岑瞬もこの三人の反応は予想していた。至霊の息子は、趙武の配下。塔南は、趙武達と仲が良い。
そして、廷黒は、呂鵬に頻回に書状を送っていた。一度、岑瞬の耳に入り、使者を捕らえたのだが、内容は、呂鵬に、趙武に連絡し、共に、早く降伏するようにじゃないと討伐軍が送られる、という内容だった。余程、呂鵬、趙武と戦いたく無かったのだろう。
他の将は、無表情か、戦いに向けて興奮を覚えているかだった。凱炎は、すでに諦めたのだろうか。冒傅も無表情。呂鵬と戦うわけではないので、特別な感情も無かったのだろうか?
だが、全員が反論等はせず、
「はっ!」
続いて、攻略軍の編成についての、話し合いになったのだが。
「余、自ら親征を行い、一気に趙武を滅ぼす。なので、近衛軍のみ残し、全軍で攻める」
近衛軍は、残す。少し中途半端な気がした。全軍と言うなら、近衛軍も半数は、動員すべきでは、と考える者もいた。だが、岑瞬は、そう命じた。しかし、廷黒は、別の意味で、異論を挟む。
「お待ち下さい。可能性の話なのですが、我々が攻めているうちに、呂鵬殿が、帝都に攻め込んだり、趙武が、江陽を捨て、迂回して帝都に攻め込む可能性もあります。それに、呂鵬軍が加われば、さすがの塔南殿も、守りきれるかどうか」
「なるほどな」
岑瞬が、少し考え納得する。少し、心配し過ぎな気もしたが。
「さらに、陛下、自ら出征されて、趙武の策で、陛下の命を狙う、可能性もあります」
「少し考え過ぎではないか?」
「相手はあの趙武です。万全を期すべきではと。ですから、討伐軍は、凱炎殿を総大将に。斤舷殿、至霊殿を守備隊として残し、その指揮を陛下がとられるのは、いかがかと」
廷黒にそう言われ、耀勝の言葉を、思い出していた。確かに、油断してはいけない。どんな手を打ってくるか分からないからな。用心するに越した事はないと。
「分かった。廷黒の言う通りにしよう。余、自ら討伐したかったのだが、仕方ない。では、凱炎。総大将として、趙武、討伐軍の指揮は任せた。参謀としては、廷黒、頼むぞ」
「はい。お任せください」
凱炎、廷黒の声がかぶる。
こうして、趙武、討伐軍の編成は決まった。凱炎を総大将、廷黒を参謀、副将として条朱が率いる、全軍50万の大軍が、趙武の本拠地、江陽に向けて侵攻する事になった。
そして、帝都周辺の防御としては、大京の守備に塔南、率いる禁軍4万。そして、東西南北の防御拠点には、裨将軍、四人が率いる2万ずつの軍が守り。帝都周辺の防御として、至霊、斤舷が率いる4万ずつの軍が待機したのだった。
皇紀243年の夏、江陽に向けて、凱炎の号令の下、趙武、討伐軍が出発した。
「進軍開始! 目標は江陽だ! 行くぞ!」
「おー!」
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