(什玖)
趙武は、狗雀那国軍の戦い方を、少し呆然と見ていた。
「斬新だね」
だが、隣に立っていた呂亜は、
「斬新と言うか、狂気だぞあれは」
狗雀那国軍の兵士は、戦いが始まると、盾を背負った大勢の兵士達が、矢の雨が降る中、城壁に向かって駆け出した。
そして、城壁に辿り着くと、城壁に手をつき、少し前かがみになった。頭上からは、矢や、石、そして、火矢まで降ってくるが、その強靭な肉体と、背中に背負った盾で防ぐ、勿論、倒れる者もいたが。
続いて、また、大勢の兵士達が、城壁に向かい、駆け出して行った。そして、城壁で手をつく兵士の上に飛び乗ると、盾を背中に背負う。それを繰り返し、遂には、城壁の高さに近づくと、今度は、武器を持った兵士が、次々と登っていった。
「う〜ん。
「趙武、それ本当に、褒めているのか?」
「ん?」
趙武の、言葉に呂亜が呆れる。だが、趙武は、他の事を考えていたようで、
「そうだ、呂亜さん。龍雲呼んでください」
「ああ、分かった。だけど、高みの見物じゃなかったのか?」
「そうなんですけど、龍雲には、ちょっと頼みたいことがあって」
「そうか。すぐ使いを出すよ」
しばらくすると、龍雲が、馬を飛ばしてやってきた。
趙武は、龍雲に何やら耳打ちする。龍雲は、大きく頷き、去っていった。
他の城壁でも、攻略は進んでいった。南側では、矮南国の投石機2台が、次々と岩を飛ばしていく。すると、
西側は、岑平の指揮の下、淡々と、攻略が進んでいった。弓兵が、城壁上に矢を放つ中、歩兵が盾を上に城壁に近づき、城門を、丸太で叩く。すでに、城門は、ぐらついてきていた。破れたら、一気に突入するように、騎兵が準備する。
すでに、陥落は、間近であった。それは、我蘇国将軍にして、今、実際に王都の守備の指揮をとっている麻龍は、ひしひしと感じていた。だから、陥落前に決着をつけないといけなかった。
「出撃準備は整ったか!」
「お〜!」
「行くぞ! 野郎ども!」
「お〜!」
麻龍は、起死回生の策として、唯一攻撃を受けていない北門から、我蘇国軍の騎兵、全軍8千で討って出て、敵を倒し勝利を掴むつもりであった。
麻龍がその準備の為に、北門にいたので、北門からの投降者や、脱出者がいなかったのだった。
そして、麻龍の狙いは、北門から出たら、真っ直ぐに東に向かい狗雀那国軍の本陣を、突く。
「行くぞ! 目標は、狗雀那国軍国王、トゥーゴーだ!」
「お〜!」
何やら北門上の城楼が騒がしかったが、麻龍は、戟を握りしめ、北門をじっと見つめ集中していた。
「門を開けろ!」
門がゆっくりと開く、そして、麻龍が馬の歩を進めようとしたその時、前方から砂煙を上げ、猛然と突っ込んでくる軍がいた。
それは、龍雲に率いられた、騎兵2万であった。
慌てて、麻龍は前方に馬を走らせ、北門より討って出て、門を閉じる事を可能にしようとした。
そして、抜け出せるようだったら、背後から襲われる事を覚悟の上、狗雀那国軍に向かおうと考えた。しかし、すでに距離はつまり、衝突を避けるのは、難しそうだった。
龍雲軍は、麻龍軍を
そして、龍雲は、麻龍に向けて猛然と進む。一騎討ちを仕掛けるつもりだった。
「麻龍だっけ? 良将なんでしょ。殺すには惜しいから、生け捕りにしてよ」
趙武は、龍雲にそう命じていた。「簡単に言ってくれる」龍雲は、そう思った。しかし、それは、同時に、「信頼してくれてるんだろうな」とも思った。
龍雲は、手に握る矛に力をこめると、麻龍に肉薄した、そして、
「我は、大岑帝国将軍、龍雲。勝負だ!」
「くそっ! 邪魔な。さっさとかかってこい、我蘇国軍将軍、麻龍だ。行くぞ!」
一騎討ちが始まった。龍雲が先に仕掛ける。矛を槍で行うように、左手に軽く乗せると、右手で素早く矛を突き、そして、素早く引く。それを連続で3回行う。三段突きとでも呼べるだろうか。
麻龍は、龍雲の突きを上半身を大きく動かして、避けつつ、自らの戟を回転させて、鎌のように大きな戈で、龍雲の矛を引っ掛けようとしたが、龍雲の素早い引きで、避けられた。
その後、麻龍は、攻撃に移ろうとするが、人馬一体となって動き回る龍雲をなかなか、攻撃出来ないでいた。
すると、素早く龍雲が、肉薄し麻龍を攻撃する。慌てて、何とか、大きく避ける麻龍。態勢を立て直して、反撃しようとすると、龍雲はいない。徐々に、麻龍は、焦り始めていた。
そして、数度目の攻撃を避けきれず、矛が麻龍の鎧に触れる。左脇辺りを掠っただけであったが、信じられない衝撃が麻龍を襲う。一瞬、麻龍の意識がそれ、態勢も大きく崩れた。すると、龍雲は、頭上で大きく矛を回すと、激しく矛の柄を麻龍に叩きつけた。あまりの衝撃に耐えきれず、麻龍は、馬から転げ落ち、意識を失った。
お互いの力の差は分からないが、馬の扱いに
「全く、生け捕りって、大変なんですけどね」
龍雲は、大きく息を吐きつつ、ぼそっと呟いた。周囲では、龍雲の兵達が、歓声を上げる。
麻龍の敗北が伝わると、我蘇国軍の兵達は、武器を投げ捨て投降した。これで、我蘇国王都の攻防戦は、終結したのだった。
龍雲は、捕らえた麻龍を縄でぐるぐるに縛り、趙武の下に連れてきた。趙武は、
「くっ。殺せよ」
麻龍が、趙武に向かい、こう
「流石、龍雲。ご苦労様」
「いえ、だけど趙武さん。結構大変なんですからね、生け捕りって」
「本当にご苦労様。だけど、雷厳だと手加減って知らないし、至恩だと負ける可能性もあったし」
すると、呂亜が驚きの声をあげる。
「至恩が、負ける可能性って、そんなに強いのか? この男」
すると、龍雲が、答える。
「まあ、確かに、とても強かったですね」
それを聞いて、麻龍が、
「何が強いだ。俺は、何も出来なかった、何も」
それには、龍雲が、
「いや、普通に強かったですよ。俺の方が、さらに、強かったのと、馬の扱いが上手かっただけで」
それを聞いて、麻龍は、心底悔しい顔をする。
「くっ。だから、殺せ」
それに対して趙武は、
「それを決めるのは、次のここの支配者となる、狗雀那国のトゥーゴー様ですね」
「なっ。俺の命はあんな蛮族、共に、
「蛮族? あなたの中にも、その血が流れているのでは? あまり悪く言わない方が……」
「確かに流れているが、俺はあんな野蛮ではない」
「う〜ん。文化水準の事を言っているのですか? だったら、見当違いですね。彼らは、独自の文化を築き、我々とは、違うんです。それに、平原の文化にも、理解を示し、慣れようとしていますよ。我々よりも、
趙武が、少し怒ったような口調で、そう言うと、麻龍は、少しびっくりしたような顔をして、趙武を見つめ。
「あんた。
すると、趙武は、少し首を捻り考える。
「いえ、怒っているわけではありませんが、同じ仲間を馬鹿にされたようで、少しむきになっただけです。気にしないでください」
「あんた。変わった奴だな」
趙武。稀代の策略家。そう聞かされていた。軍略家、策謀家と呼ばれている人間は、自分の考え、そして、本心を見せないように、表情を隠したがる。
現に、孫星は、常に
「ん?」
そして、その事を無自覚な、趙武だった。
その後、狗雀那国に麻龍を引き渡し、趙武は、今後の戦いに思いを向けた。さて、次は、北か、それとも北東か。すでに、南部はとった。いよいよ、東方諸国同盟軍、本軍もやってくる。これからが、本当の戦いになるだろう。趙武も、気合いを入れ直して、地図に向かたのだった。
その翌日の事だった。趙武は、トゥーゴーに呼び出された。
「趙武殿。わざわざ申し訳ない」
「どうされたのですか?」
「それが……」
トゥーゴーが、顔を動かすと、兵士に伴わられて、縛られた麻龍が入ってきた。そして、縛られたまま、趙武、トゥーゴーの前に座らされる。
「この者なのですが。我蘇国、自体は、降伏し我が国に従うとの事でした。しかし、麻龍殿は、受け入れられないようで、殺せと。ならば、この者の処分は、捕らえた趙武殿にお任せしようと、お呼びした次第です」
「そうでしたか」
趙武は、麻龍は降伏しないと、ある程度は予想していた。そして、その処分について任された時の結論も、考えていた。
趙武は、腰の剣を抜くと、麻龍の縄を斬る。そして、
「何処へでも、好きにしてください。東方諸国同盟軍に加わり、再度戦いを挑むなり、どこかで隠れて暮らすなり」
すると、トゥーゴーが、
「宜しいのですか?」
「ええ、もし挑んで来るなら、また龍雲が捕えてくれるでしょうし。殺して、我蘇国の兵士に不穏な思いを、持たせてはいけませんからね。まあ、本当は、素直に狗雀那国に従ってくれれば、大きな戦力になったのですがね」
「そうですね。我が国にとっては、大きな損失です」
そう趙武と、トゥーゴーが話している間、斬られた縄を呆然と見ていた、麻龍だったが、顔をあげると、趙武に話しかける。
「本当に、良いのか?」
「ええ、さっきも言ったように、自由にしてください」
「自由にして良いのか……。そうか」
そう言うと、立ち上がり、
「分かった! 好きにさせてもらうぜ、趙武の
趙武の旦那? 良く分からない呼ばれ方をして、少し首を傾げる趙武だったが、
「ああ」
そう応えると。麻龍は、一言残し、飛び出して行ったのだった。
「龍雲の旦那にも、よろしくな!」
これで、麻龍との関係は終わったと思った趙武だったが、数日後に予想外の人物の訪問を受ける。
「趙武の旦那! 来たぜ!」
趙武は、麻龍の訪問を受けたのだった。予想外の訪問に驚く、趙武。呂亜に連れられてやってきた、麻龍は、
「趙武の旦那! 俺をあんたの配下にしてくれ!」
趙武は、麻龍の行動の意味が分からず、
「戻ってきたの? 自由にして良いって言ったのに」
「ああ。だから、自由にさせてもらった」
「へえ。そうなんだ」
趙武は、考えても意味が分からず、曖昧に応える。
「ああ。それで、トゥーゴーの旦那にも許可をもらって来たんだけど。俺の配下の兵士1万も加えてくれ。良いだろ?」
「ええと。まあ、良いけど」
呂亜は思った。また、変なのが増えたなと。自分は、能力に対して、どこか危うい趙武には、自分が必要だろうという、思いで、趙武のそばに居続けている。
至恩、雷厳、陵乾、そして、龍雲は、長く友達付き合いからの、信頼関係があって、そばに居る。
そして、會清、馬延は、結果的にその能力を趙武が評価して、仲間へと加わった。さらに、父親に言われてやってきた、凱鐵に、凱騎。さらに、麻龍か。何故か、趙武の事を気にいったようだった。
不思議と、趙武のまわりには、人が集まる。何故だろうか?
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