(陸)

 趙武は、江陽こうように戻ってくると、龍雲を除く裨将軍ひしょうぐん、将軍を集めた。龍雲は、騎兵1万を率い訓練中、そのまま参戦予定であった。


風樓礼州フローレス王国、攻略の目処めどはたった」


「目処はたって良かったが、趙武、何かその前に言う事は、ないか?」


 呂亜が、若干怒りのこもった声で問いかける。


「そうですね。呂亜さん、僕の不在時、御苦労様でした」


「そうじゃなくてだな、呂亜さんは、大将軍としての自覚の話をしているんだと思うぞ」


 今度は、至恩が、趙武をさとす。


「なるほど。ですが、僕の不在時何か問題ありました?」


「あったぞ。俺も連れてって欲しかった」


 と、雷厳。それに突っ込む至恩。


「雷厳、そう言う事じゃない。確かに、趙武の不在時、問題は無かった。しかしだな」


「僕は、信頼しているんですよ。はっきり言って、呂亜さんがいれば、全体を仕切れますし、事務的な事は、陵乾が、軍事的な事は、至恩がいますからね」


「わかった。もう、何も言わない。趙武、お前やっぱり凄いな」


 呂亜が、諦めたように語った。


「ありがとうございます」


「いや、褒めて無いんだが」





「で、どう目処がたったんだ?」


 呂亜が、改めて訊ねる。


「今回は、至極しごく、単純です。攻略の肝は、龍雲率いる騎兵1万です」


「騎兵をどうすんだ?」


「雷厳。王都、風樓礼州フローレスの背後の岩山から、騎兵を攻め込ませるんだよ。それで、把切朱絶バリスタの弦を切ったり、城壁の上の敵を、排除してもらうんだ」


 趙武は、語り始めた。風樓礼州王国の編成は、完全に把握している事。そして、城壁で待ち構えるのは、弓兵全軍と歩兵の一部だろうという事。


「そうですね〜。弓兵全軍だと7千5百。そして、1万位の歩兵が城壁で守備する形ですかね」


 そして、重装歩兵と軽装歩兵を主力として、騎兵を遊軍として城外に配置。残りを城内に、予備兵力として配置する。


「全軍で、5万ですね。最高指揮官は、慈魏須文斗ジギスムントだそうです」


 その下に、万人隊長と呼ばれる。騎兵隊長、弓兵隊長、重装歩兵隊長と、軽装歩兵隊長2人がいるようだった。


「まあ、呼び名はどうでも良いんですが、配置はこんな感じだと思います」


 そう言いながら、趙武は、王都、風樓礼州の地図に、軍の配置図を、書きあげる。



 こちらは、全軍で、15万。敵の約3倍だが。


中林チュウリンさんには、龍雲の軍の残りを率いてもらって、馬延バエンと共に、東方諸国同盟の援軍の抑えをしてもらいます」


「はい、承りました。まあ、わたしよりも、馬延殿、次第ですかな」


「はっ、全力でまっとうさせて頂きます」


「頼んだよ、馬延」



 それを聞いた、至恩が、皮肉を言う。


「と、すると王都攻めの方は、上将軍様に、お出まし頂くのか?」


「至恩。上将軍様って、何だよ。まあ、そう、岑平シンペイに参戦して貰うよ」


「大丈夫なのか?」


 呂亜が、心配そうに訊ねる。それに対して、趙武は、


「大丈夫ですよ。部下達が優秀ですし、それに」


「それに?」


「本人も、非凡ですよ、能力的には。後は、う〜ん。強制的に開花させますか」


「えっ。何するんだ?」


「まだ、考え中ですよ」


「そうか」


 仮にも、大岑帝国皇帝、岑英シンエイ庶子しょしとはいえ、息子に対しても、容赦無く何かやりそうな、趙武に、ちょっと不安になる呂亜だった。



「で、今回の戦いは、超短期決戦を目指します。じゃないと、城内に突入した龍雲が、殺されちゃうかもしれないですからね。まあ、龍雲なら、囲まれてもなんとかしちゃうかもしれないけどね」


「確かに」


 趙武の言葉に、なんとなく納得してしまう一同。



「まあ、冗談はそれくらいで、龍雲が突入して、城内が混乱しているうちに、力攻めになるかもしれないけど、外の軍勢も城壁に取り付くか、城門を突破して、突入する。そうすれば、戦いは、終わりです」


「趙武の力攻めか。珍しいな」


「下手な策をろうして、無駄な時間を費やすより、単純な作戦の方が、失敗が少ないからね。では、引き続き、準備を進めてください」


「はっ!」





 趙武は、その後、黒鷲傘こくしゅうさんの作成現場を見に行った。多数の職人達が、作業をしている。その作業を仕切るのは、黒鷲団こくしゅうだん首領しゅりょう鳳鍊ホウレンの弟、鳳尊ホウソン


「鳳尊さん、これで良いかい?」


「ちょっと、貸してくれ。うん、大丈夫だ。やっぱり、職人が作った方がしっかりしてるな」


「ハハハ、鳳尊さん、上手いな口が」


「えっ、本気だよ。俺は」



 和気あいあいと、作業している。趙武は、近づくと、黒鷲傘を見る。構造は単純だった。長方形の大きな布の四方に、紐が結ばれ、もう一方の端を鞍の四方に結び使うそうだ。使用する時は、布を綺麗に折りたたみ、留め具で留め。外し、中に空気が入るように放ると、開く仕組みのようだ。


 本来の黒鷲傘の色は、黒だが、今回は1回きりの使用なので、とりあえず布を集めただけなので、色はバラバラ。まあ、白か、黄土色が多かった。



 趙武が、黒鷲傘を見ていると、鳳尊が近づいてくる。


「どうやら、期限内に作れそうだぞ」


「そうか、ありがとう」


「作れるけど、それからが大変だと思うけど」


「使い方、難しい?」


「いや、難しいって程じゃ無いけど、放る時に、絡まったり、自分に引っ掛かったり。慣れるのに時間かかると思う」


「そうか。そうすると、黒鷲傘を送って、その訓練にも時間かかるか〜」


 趙武は、次の大将軍会議後の攻略を考えていたが、時期をずらす事にした。それに、


「冬の方が、北風で上昇気流が出来やすいって言ってたしね。南だから、そんなに寒く無いし」


「そうだけど、ある程度岩山は、高さあるから、寒いと思うぞ」


 趙武は、鳳尊の言葉を聞き流し、足を、外に向けた。




 その後1万個と、予備として千個の黒鷲傘が完成し。龍雲の元に送り込む。河を船で、そして、夜陰に紛れ隠し水路を通り、小舟で運ぶ。そして、龍雲達の練習開始。


「おわっぷ」


 龍雲が、黒鷲傘に包まれ、馬から転げ落ちる。慌てて、鳳鍊が駆け寄り、声をかける。


「大丈夫か? 龍雲さん」


「大丈夫だけど。どうも上手くいかないな〜」


「最初は、上に思いっきり放り投げる感じの方が、上手くいくぞ」


「わかった。ありがとう」


 こうして、少しずつ黒鷲傘に慣れていく事になる。



 訓練は、1万騎が集まって、訓練を行えばとても目立つので、別れて行っていたのだが、それでも、評判になりそうなもの、だ。しかし、周辺の村から、黒髪黒眼の民が、見学に来ても、村では評判になるものの、王都に伝わった形跡はないと、會清は話す。


「趙武様、想像以上に、風樓礼州王国では、人種の融和が行われていないようですね」


 との事だった。趙武は、戦後の融和策についても考えを巡らせた。


「黒鷲団の鳳鍊、鳳尊とか、結構優秀なんだよな。まだまだ、人材いそうだよな〜」





 龍雲の訓練と同じように、江陽の郊外では、至恩、雷厳、馬延の3人が、麾下の兵の訓練にいそしんでいた。


 その軍であるが、至恩の軍の編成は通常通りであったが、雷厳の軍は、歩兵が主力になるように、馬延の軍は、弓兵が目立つような編成になっていた。


 なぜこのような編成はなっているかと言うと、それぞれの戦い方を見た、趙武の意向だった。



 至恩は、臨機応変に戦うので、そのまま。


 龍雲は、騎兵出身という事もあり、凱炎ガイエン大将軍のように、騎兵を率いて突撃し、騎兵が引き裂いた軍に歩兵が突入するという戦い方をした。その為に、騎兵を主力として、全体の4割、1万を騎兵に、残りは、歩兵とした。


 そして現在、その騎兵1万を率いて岩山で、訓練中。残りの兵の訓練は、裨将ひしょう公哲コウテツが担当していた。



 雷厳は、体が大きい為に、凱炎大将軍と同じく、大きめの馬を、与えられているのだが、どうも馬術が得意でないようで、いつの間にか馬から降りて、歩いて戦うので、付き従うのも、歩兵が中心となっていた。なので、騎兵を半分の1割とし、その分、歩兵を増やし、全体の7割5分、18750とした。



 そして、馬延だが、用兵家である、趙武の影響もあるのかもしれないが、歩兵を上手く使って誘導しながら、弓兵で攻撃し、遊軍として騎兵を使い、一撃離脱を繰り返す、という戦い方が多かった。その為に、弓兵を増やして、全体の3割、7千5百とした。その分、騎兵は、雷厳の軍と同じように減らしていた。


 それぞれの編成の軍を操り、訓練を繰り返す。


 そして、いよいよ。



 冬の江陽で、趙武は、軍を起こす。


「さて、風樓礼州攻略開始しますか」


「はっ!」

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