(肆)
「はあ~」
「
「全く。まあ、趙武だったら大丈夫だと思うが……」
趙武は、王都、風樓礼州の
「ふーん、王宮は真ん中にあるのか」
趙武は、王都、風樓礼州の地図を見ていた。王都は、完全な円形をしていて、城壁が半円形に存在し、岩山と繋がっていた。さらに、岩山も半円形に削ったのであろうか?
街の中央に王宮があり、道は、同心円状と放射状に走っている。城壁を突破し中に入ってしまえば王宮まで、一直線、攻略は容易なように見えた。ただし、城壁を越えられればだったが。
趙武は、城壁に目を移す。高さは約3
「
作成した
弩と同じように、そんな経験がなくても使用することが出来るようだ。
「う〜ん。どうやって無力化するかだな」
さらに、軍の編成に関しても、しっかりと調べられていた。
「ふ〜ん。やっぱり騎兵は、少ないんだね。で、
風樓礼州王国軍は、帝国が騎兵の割合が、2割程なのに対して、約半数の1割程だった。そして、主力は歩兵なのだが、歩兵の3分の1が、重装歩兵と書かれていた。
「はい。大きな四角い盾を持った歩兵で、部隊ごとに、亀の甲羅のように、前後左右、そして、上方を覆って、弩の攻撃を防ぐのです」
「へ〜」
面白い、軍の編成が独特だ。恐らくは、昔からの、伝統なのだろう。
こうして、ある程度の情報を得た趙武は、
「ちょっと街中歩いてみるか。會清付き合って」
「はい、かしこまりました」
趙武と、會清は連れ立って王都を歩く。趙武は、商人風の服装だが、剣を
帝国の家は、天日干しか、焼いた
風樓礼州は、岩山を削った岩で作ったのか、石を積んで固めた家がほとんどであった。流石に内部は、帝国と同じく、木製の製品が置かれていたが。
2人は、王宮に向かう。王宮は、比較的簡素な作りで、3層の作りの石造りで、周囲には外の城壁よりは、小型の城壁が覆っていた。趙武は、王宮の周囲をぐるっと一周した。
放射状の道は、12本走っていて、城壁にある三門は、王宮から見て、中央の門を12時方向とすると、右側の門が2時方向、左側の門が、10時方向に見えた。王宮の外周道路から、各門が、大通りの先に、よく見えた。
「今度は、岩山の方行ってみるか」
「はい」
2人は、6時方向の道を通って岩山方面に向かう。岩山は、全体的に急斜面になっていて、さらに削られた部分は、垂直に切り立っていた。
趙武は、岩山周囲をゆっくり端から端まで歩く。すると、
「うん、やっぱり、ここだよな」
「何がですか?」
「攻略の肝だよ」
「えっ」
會清は、岩山を見上げる。切り立った崖と、その上方の急斜面。とても、歩けるようには見えなかった。だが、會清は思う。趙武様には、我々には、見えない世界が見えているのだろうと。
さらに、ふらふらと趙武が、歩き始め、慌てて會清が追う。日はまだ高かったが、かなり長時間ふらふらと、歩いていた。
趙武は、時々立ち止まっては、方向を確認して、店を覗く。そして、また、ふらふらと歩く。そして、
「うん、この店だ」
そう言うと、趙武は店の中に入る。
「御主人、ここの店の2階で、飲めるか?」
「はい、どうぞ、どうぞ」
2人は、2階に上がると、外の見える席に座る。趙武の視界には、街並みと、少し離れて城壁と岩山の境が、見えた。
しばらくすると、店の主人がやってくる。
「何にしましょう?」
趙武が訊ねる。
「何があるんですか?」
「飲み物だと……」
「いや、それはお酒で」
すかさず、返事する趙武。
「でしたら、
「葡萄酒?」
趙武は、始めての言葉に疑問符が浮かぶ。
「はい、葡萄って果物を絞って発酵させたお酒です」
「へ〜、じゃそれください。後は、酒のつまみを適当にみつくろってください。で、會清はどうする?」
「わたしは、普通に清酒を頂きます」
「そっか。じゃ、それで、おねがいします」
「かしこまりました」
少し待つと、
「葡萄酒には、
趙武は、素焼きの壺を持ち上げ、
口の中に甘く、果実香溢れる、ちょっと酸味のある味が広がる。これが葡萄酒か。意外と好みだな。
さらに、おつまみが運ばれてくる。
「はい、おつまみね。血のソーセージと、キャベツの酢漬け、レンズ豆のスープね」
趙武の目の前に見慣れぬ料理が並ぶ。
「血のソーセージ?」
「そう。豚の血液と、肉を刻んだやつを腸に詰めて、茹でたやつね」
「へ〜」
趙武は、ソーセージを口に運ぶ。口の中に、軽い弾力を感じた後、豚の肝を濃厚にしたような味がする。
「意外と美味しいですね」
會清も気に入ったのか、パクパクと食べつつ、料理を褒める。
「そうだね」
趙武は、葡萄酒を飲みつつ、おつまみを食べる。
「風樓礼州の酒家も、良いね」
「はい」
しばらく飲んでいると、仕事が終わった人々が集まって来たのか、酒家が賑わってくる。
そして、店に置いてあった物か、それとも誰かが持ち込んだのか、楽器の音が響く。
「ボンボンボンボン」
「今日の仕事も大変で〜、明日の仕事も頑張るよ〜」
「下手くそ、やめろー」
等と、客同士で騒いでいる。
「
「竪琴ですか?」
「ああ、アトラス
そう言いつつ、趙武は、立ち上がり、飽きられて置かれた竪琴を拾い上げると、席に戻る。そして、調律すると。
趙武は、竪琴を爪弾きながら、歌い始めた。優しく朗朗とした声が酒家に響く。題名は銀の女王。要するに、風樓礼州王国の女王を讃えて、吟遊詩人が唄った唄だった。
「銀の女王は旅に出る。大いなる祖国は荒らされる。民と共に旅に出る」
「銀の女王、あなたは進む。慕いし民と共に進む。豊かな祖国は、今は無く」
「銀の女王、辿り着く、懐かしい祖国は遥かなる。新たな母国を、胸に抱く」
趙武が、唄い終わり竪琴を置くと、店内から拍手が沸き起こる。酒家の客が立ち上がり、趙武に挨拶に来たり、酒や、おつまみを置いていったり、さらに、他の唄が唄えるか訊ね、趙武も知ってる唄だったら、唄った。しばらく、酒家は、趙武の音楽会会場のようになった。
「う~ん」
「どうしたんだ、會清?」
「いや、どこからどう見ても、元家の若旦那だなと、思いまして」
「どういう意味だよ」
「いや、店を抜け出して、酒家で昼間から酒を飲み。竪琴を爪弾いて、優雅に唄う。完全に、大商家のぼんぼんの若旦那ですよ」
「なるほど」
「それに、風樓礼州王国の話、知っていたんですね?」
「いや、唄は子供の頃、祖父の家で聞いたから知っていたけど、詳しい話は知らなかったよ」
「そうでしたか」
ふと外に目をやると、日が傾いて少し朱に染まり始めていた。
その時だった。馬の、
「
すると、趙武の目に、岩山を馬に乗って駆け下りて、城壁の上に降り立った数騎の騎兵が見えた。窓から覗き見ると、急斜面の岩山を下る騎兵が、続いていた。
騎兵は、城壁を少し走ると、内側にある階段を駆け下りて、街中に入ってくる。趙武は、感心して声をあげる。
「凄い馬術だね」
「盗賊ですかね?」
會清は窓から覗き込んで、騎兵たちを確認していた。
しばらく、街中に、馬の駆け回る音、怒声や、戦闘音、鐘の音が響き渡る。そして、
「ピュー!」
良く響く、
そして、そのまま、城壁の外に飛び降りた。その時だった。馬の鞍の4ヶ所に留められていた。黒い大きな布が、騎兵の頭上前後左右に大きく広がり、馬の落下速度が遅くなる。
「見つけた」
趙武は、呟く。そして、
「さっきの黒鷲団だっけ? あれと接触したい、居場所を探って」
「かしこまりました」
城壁の方からは、把切朱絶の発射音であろうか。激しい音が響いていた。なるほど、それで、後ろ向きに座っている騎兵がいたのか。黒鷲団、味方に、いや、せめてあの技術が手に入られれば。
趙武は、黒鷲団が消えた、薄暗くなった城壁を眺めていた。
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