(参)
大将軍会議の議題は、
そして、如親王国攻略戦だが。
「敵は、全軍で30万。
と、岑瞬。今回は、陛下の命令で攻める事になったので、議論の始まりがどうやって攻略するかになっているようだ。ただ、
「ところで、趙武は、どう思う?」
「趙武君は、今のところ、どう考える?」
だが、
「前回の戦いと同じように、用水路や、運河を使った奇襲作戦があるかもしれません」
とか、
「同じ手は使わないと思いますが、街中に兵を潜ませて、夜襲を行うかもしれません」
等と、思いつく限りの無難な、発言はしてみた。
凱炎、呂鵬、
大将軍会議が終わり、趙武は、至恩、龍雲と
「酸っぱ! 辛っ!」
至恩が、珍しく激しく反応する。
「義兄さん、
「気に入ったようで、良かったよ、龍雲」
「これ、本当に旨いですね」
パクパクと勢い良く食べる趙武と、龍雲。清酒と、米を使ってなんとか食べる至恩。そして、また食が、満たされると、ゆっくり飲みつつ話を始める。
「それで、新たな軍勢だけど」
趙武の問に、至恩と龍雲が、経過を説明する。
「ああ、趙武が、会議出ている間に、郊外の仮の駐屯地に行って、様子見てきたよ」
「はい、俺も義兄さんと一緒に行って、配下の、校尉をそのまま、配置してきました」
「そうか、御苦労様。だけど、今度は、江陽に引っ越しなんだよな。だから、2人には、悪いんだけど、もう少し仮の駐屯地で、待ってて欲しいんだ。そして、
「わかった。どのくらいだ?」
至恩が訊ねる。
「う〜ん。僕が戻って、4日位だろ。準備して1週間くらいか? 船で移動して、
「わかった」
「かしこまりました」
至恩と龍雲が承諾する。そして、
「そう言えば、會清いないな」
至恩が、會清がいない事に気づいたようで、声をかける。
「ああ、先に江陽に行ってもらったよ。先の事もあるしな」
趙武は、風樓礼州王国攻略についても、考えを巡らせつつ答える。
「なるほどな」
趙武は、天港に戻ると、上級幕僚と、裨将軍、将軍を集めた。
「今度は、だいぶ内陸の江陽に行ってくれってさ、で、
「江陽?」
雷厳が、首を傾げる。
「南河を逆上って、大京を越えたさらに上流だよ」
「遠いな」
今度は、呂亜が呟く。陵乾は、すでに頭を切り替え、
「しかし、行かないといけませんからね。前回と同じく船で向かいますか?」
「ああ、だけど。今回は、兵士も増えたし、船が足りないかもしれないな。借りられる商船等も調達して、足りなかったら往復かな」
「かしこまりました。早速、準備にかかります」
と言って、出て行こうとする陵乾を、趙武は呼び止め、
「そうだ。陵乾は、最後まで残って指揮をとって、馬延も置いていくから」
「かしこまりました」
そう言って、陵乾は出ていき、
「と、言う訳で、馬延、天港の安全確保よろしく」
「はっ、かしこまりました」
馬延も出ていった。そして、
「呂亜さん、中林さん、雷厳。さあ準備急いで、我々は、江陽に先に入るよ」
「わかった」
「はい、かしこまりました」
「おう!」
それから、1週間程後、趙武はロンホイ湾を渡る船の甲板に横たわっていた。
趙武は、遠く見える大岑帝国、第2の大都市、
そんな事をかんがえていると、趙元が近づき声をかける。
「兄さん、御苦労様です」
「ん?」
趙武は、顔だけを上げ、そちらを見る。
「なんだ、趙元か。悪いな、急に移動になって。次の江陽でも、同じように、頼むよ」
「はい、かしこまりました。でも、かえって良かったですよ。西京も近くなったし。妻の実家も西京の近くだからね」
「そっか」
趙武は、頭の中の地図を確認する。確かに天港と西京は、カナン平原の東の端と、西の端だ。だが、江陽と西京も、まだ距離があるように感じるが。
「時間が出来たら、里帰りもしてくるよ。兄さんは、無理だよね。長期間休めないだろうし」
「そうだな。まあ、帰ったらよろしく言っておいてくれよ」
「わかりました」
趙武は、江陽に入る。
江陽、南は南河に面し、水門となっている。さらに、南河の水が江陽の城壁の外に引き込まれ、珍しい
江陽の主城楼はとても立派だった。江陽楼と呼ばれ、5層7階の大楼閣となっていた。
また、趙武は、その最上階に大将軍府を作ると眼下を見下ろした。南の水門は、ひっきりなしに船が出入りし、逆の北門からも、数多くの馬車が出入りしている。
南河を通って運ばれて来た物が、西京はじめとする、北の諸都市に運ばれ、逆に北部の農産物、特産物が、南河を使って運ばれていくのだ。
「さて、暇になったな」
趙武は、自分の執務室に江陽周辺の地図を張り、眺めていた。呂亜、陵乾、中林が仕切り、引っ越しの方は順調に進んでいる。
軍の方は、至恩、雷厳、龍雲、馬延が、指揮し、配備を進めている。一応、編成に関しての注文をして、騎兵、歩兵、弓兵の数の調整はしたが、それも終わった。
だいたい、一軍(2万5千)の中で、騎兵は2割、弓兵が1割5分と決まっているのだが、その編成をいじったのだ。簡単に言うと、龍雲の軍を騎兵中心とし、雷厳は歩兵、馬延は弓兵。という感じにした。
なので、暇になった。軍の訓練でも見に行こうかと思った、その時、
「江陽での仕事終わりましたので、風樓礼州王国を探って参ります」
「そうか」
風樓礼州王国、銀髪碧眼の民の国。そして、趙武は、思いつく、良い暇つぶしを、
「僕も、行こう」
「へっ? 今なんと」
「僕も行くよ、風樓礼州に」
「いけません。何考えてるんですか! 大将軍自ら行くなんて、出来るわけないでしょう」
「大丈夫だよ。
「そうですが。だけど、怒られますよ。皆、忙しい時に」
「僕は、暇だよ」
「はあ~。言っても無駄ですか」
「うん」
趙武は、執務室に書き置きを残すと、そっと執務室を後にした。
船は、南河の支流を逆上って、風樓礼州王国の船着き場に到着する。係官が船に入ってきて、荷物の検査と、人員の確認。
「
「まあ、若旦那って言うより、馬鹿旦那だけどね。僕は」
「ハハハハ、面白い人だ。どうぞ、入国許可証です」
「ありがとう」
上陸すると、馬を下ろし、荷車を組み立て、荷馬車にして、荷物を詰め込む。何台もの荷馬車が、両脇に護衛の兵を従えて進み始めた。そして、しばらくすると、急勾配が見えてきた。急勾配を登るための、つづら折りの坂道を通って台地にある、王都風樓礼州を目指す。
趙武は、馬に
「いよいよだな、風樓礼州」
「来ちゃいましたね。大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だよ、きっと」
不安そうな會清をよそに、自信満々の趙武。
そして、坂を登りきると、風樓礼州王国、王都風樓礼州が見えてきた。背後に岩山を従え高い城壁が見える。城壁は、背後の岩山で切り出された石を使用しているのか、同じ色をしていた。
「形が違うな」
「ですね」
大岑帝国の城壁は街を、四角く覆っているので、真っ直ぐに見えるが、風樓礼州の城壁は、弧を描いているように見えた。
「という事は、街は円形なのか?」
「そう、見えますね」
いよいよ街が近づいて来る。城門の上には、見張りの為の
「あれが、鉄の
城門の前には列が出来ていた。しばらく並んでいると、趙武の順番が来た。
「元武さんね。西京からわざわざようこそ」
「はい、ありがとうございます」
こうして、趙武は、城門を潜り、王都風樓礼州に入った。
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