(弐)
大将軍会議の為に、
護衛兵で同行しているのは、十名程であったが、それ以外の護衛兵は、街道沿いの安全確保、宿泊する宿の手配。さらに、のんびり旅行しているのではないので、
この当時の馬は、農耕用の馬は、
軍の馬は、わざわざ、北河を越え、北方ユレシア山脈の西の端の
この汗血馬は、持久力にも優れ、1日千里(約500km)を走ると言われている。初期、
「上手いよな、馬の扱い」
龍雲の巧みな馬術を見て、趙武は呟く。もちろん、趙武も、馬術をこなし上手いほうだと思うが、それでも、筋肉や、骨格の違いもあり、龍雲達のように、馬と一体になって疾駆する感じではなかった。馬の扱いでは、黒髪黒眼のカナン平原の民に一日の長があるように思えた。
「どうしました?」
並走していた龍雲が、趙武に声をかける。
「いや、馬の扱いが上手いと思ってね」
「そうですか。でも、昔から乗っていた訳では、ないんですけどね。乗り始めたのって、軍官学校行ってからですし」
「そうなのか」
すると、今度は、反対側から、至恩が馬を寄せて、話に加わった。
「龍雲には、至家の管理する名馬の中から、特別良い馬を贈ったから、それもあるぞ」
「ありがとうございます、
そうだった。龍雲は、至恩の妹、
「龍雲、良いな〜。友達なのに、僕には無いのか?」
「趙武は、大将軍。総大将だろ。直接の戦いは、俺たち将軍に任せて、指揮に専念すれば良いんだよ」
「そうか? そうだな」
こんな軽口を叩きながら進む。
そして、大京に4日ほどで到着すると、さっそく、趙武は、陛下からの呼び出しを受けた。
岑英が、ゆっくりと話始めた。
「条朱、廷黒、負けたそうだな」
「はい。申し訳ありません」
条朱が、謝罪すると、廷黒も、
「風樓礼州の地は、難攻不落の要害にて、我が策及ばず、不甲斐ない限りです」
それに対して、岑英は、
「負けるのは仕方がない。それに、決断も早く、損害も多くない」
「はい、ありがとうございます」
廷黒が返答する。岑英が話を続ける。
「だが、3度目の敗北で、条朱、廷黒の軍は、風樓礼州王国には、もう勝てないだろうな」
「いえ、次こそは必ず」
「そうかも、しれません」
条朱、廷黒が
「うむ。廷黒は分かっているようだが、軍に、風樓礼州王国に対する苦手意識が生まれているのだろう。
「はっ」
条朱、廷黒は、悔しそうに、返答する。そして、
「でだ、趙武」
「はっ」
「お前に、風樓礼州王国攻略を任せる」
「僕に、いえ、わたくしにですか?」
「そうだ。やれるか?」
さて、やれるか? と、言われて出来ませんとは言えない。だが、単独でやるのか?
「わかりました。全身全霊をかけて、攻略してみせます。が、我が軍、単独でしょうか?」
「頼むぞ。そうだな。今まで20万の大軍で攻めてたのに、10万で攻略せよ等と、余も言わぬぞ。それでだ」
「廷黒、条朱」
「はっ」
「一時的だが一軍(2万5千)ずつ貸してくれ。それを、岑平」
「はっ」
「上将軍として、風樓礼州王国の攻略軍に加われ。趙武頼むぞ」
「は?」
それぞれの、戸惑った返事が重なる。条朱、廷黒は、大将軍なのに、一軍ずつ取り上げて、岑平に与え、無理やり上将軍にする。もう、どうしても岑平の事がかわいいのだろうか?
岑英は、さらに話を続ける。
「それで、
「はっ」
江陽か。大京から南西に進んだ所にある街で、
「岑平は、廷黒の駐屯地の西半分だな。中心都市は、
「はっ」
「条朱、廷黒は、趙武、
呂鵬大将軍も、移動となるのか?
「はっ」
「それで、条朱、廷黒は、来年早々に行う予定の、
「はっ」
二人の返事に、活気が戻る。総勢67万の如親王国攻略か。相手は、
「では、下がって良いぞ」
「はっ」
玉座の間を退室した趙武は、1人去ろうとしたのだが、後ろから呼び止められる。
「趙武殿」
「はい、何でしょう?」
振り返ると、条朱が立っていて、その後方には、廷黒と岑平もいた。嫌味でも言われるのかな?
「
「いえ、迷惑など」
「でだ、今日、時間があるようなら、
「えっ、あっ、はい。予定はありませんが」
「じゃ、決まりだ、行くぞ、趙武殿」
「はあ」
こうして、趙武は、条朱に連れられ、廷黒、岑平と共に、大京内にある
「
趙武は、慌てて、
「ハハハ、大丈夫か? 趙武殿」
条朱が、笑いながら、趙武の
そして、その江陽の料理の特徴が、酸っぱくて辛い。例えば、唐辛子で漬けた、南河でとれた、魚の頭を蒸した料理が、代表格で、まろやかな酸味が蒸した魚の頭に染み込んでいて、米に合うそうだ。他には、
趙武達は、食に満足すると、ゆっくり清酒を飲みつつ、話始めた。廷黒が、口火を切る。
「風樓礼州王国、攻略は、難しいぞ。趙武殿」
「ああ、廷黒もかなりの智将だと思うが、それも通用しなかったしな」
「止めてくれ条朱、趙武殿の前で、智将等と」
「ハハハ、すまん、すまん」
この二人、仲が良いな。それに、良い人達だ、嫌味言われるのかな等と、考えて、すみません。
「冗談は置いておいて、風樓礼州王国だが」
本題に戻って、廷黒が話を始めた。
それによると、風樓礼州王国は、東方諸国同盟、最西端の国であり、王都、風樓礼州を中心とした国となっている。その王都、風樓礼州だが、江陽から向かうと、高台の上に見える。背後には岩山、高台の下には、南河の支流が流れている。
なので、攻めるなら、支流を
「今回、二手に分かれ、攻めたのだ」
廷黒、
「善戦したんだがな」
条朱が、悔しそうに呟く。条朱の軍は、急勾配を登る過程で、上から、岩等を落とされたり、罠に掛かったり攻めあぐね。
東方から攻め寄せた廷黒の軍は、鉄の
「岑平殿は、善戦したんだが」
「恐れ入ります」
本当に、岑平は良く援軍の進行を、防ぎ時間を稼いだそうだが、条朱軍、廷黒軍の勢いが無くなり、撤退を決めたそうだ。
「大きな鉄の杭を放つ弩に、戦意を喪失させられていたしな」
「そうなんですか。大きな鉄の杭を放つ、弩ですか……」
さて、どんなものなんだろう。今の、話を聞く限り、廷黒の策も悪くないように聞こえる。これは、攻略、
「ありがとうございました。参考にさせて頂きます」
「ああ、頑張ってくれ」
と、条朱、
「何か聞きたいことあったら、いつでも言ってください。ああ、そう言えば、風樓礼州王国の資料も渡しておきます」
と、廷黒。
「ありがとうございます」
趙武は、資料を開く。細かい情報が色々書き込まれていた。うん、参考にさせて貰おう。
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