(什伍)
趙武、呂鵬軍合わせて11万5千が、如親王国軍後方より突入し、凱炎軍も、陣形を立て直し、反撃を仕掛ける。如親王国軍20万と、大岑帝国軍21万という大規模な戦いが始まる。
如親王国軍は、前後からの
耀勝、子飼いの将軍の指揮の下、戦いながら、陣を変形させる。如親王国軍は、中央部を少しずつ薄くし、左右に厚みをもたせると、輝沙と、穂蘭が、左右別の指揮系統を作り上げ、最終的には、左右に別れ、凱炎軍の両脇をすり抜けると後退を開始した。
「見事なもんだな。耀勝の
趙武は、呟く。凱炎軍が追撃をかけ、趙武軍の龍雲、至恩、雷厳の率いる部も追いすがるが、趙武自身は、追撃せず見守る。その動きを見て、呂鵬軍も動きを止めた。
その頃、大将軍、
「完勝ですな」
王正が、興魏に話しかける。
眼下には、広大な草原が広がり、遠くに悠々と流れる大河が見え、その大河には、2千艘あまりの、軍船が停泊しているのも見えた。
つい先程まで、如親王国軍と、凱炎軍、そして救援に来た趙武、呂鵬軍が戦っていたが、今は、逃げる如親王国軍を、帝国軍が、一方的に追いたてているように見える。如親王国軍は、どうやらその軍船に向かっているようだ。
「うむ。そうだな」
「となると、次の大将軍は奴と言う事で」
「うむ」
短く返答しつつ、興魏は、頭の中で考えを巡らせる。これで、先の敗戦からの復興とは言えないが、大将軍が再び8人揃い体裁は整った。陛下もお喜びになろう。
陛下と言えば最近の体調不良が心配だ。我が娘と、陛下の子、
最近陛下が気にかけている、岑平。庶子のくせに生意気な。さらに、岑瞬か。頭が痛くなってくる。趙武か、役にたってくれると良いが。
「王正帰るぞ! 陛下に報告だ」
「おお!」
「勝ったな」
「ですね」
馬上から遠く逃げていく軍を目で追いつつ、趙武と呂亜が話す。
「ああ、そう言えば追撃はほどほどにって、伝えておいてください。誰が行ってます?」
「おいおいお前の方が上位なんだから敬語はやめろよ」
「ですが呂亜さんは、一応先輩ですし」
「一応って何なんだ、一応って。まあ、良いや。龍雲と至恩、そして、雷厳だな」
「そうですか。まあ龍雲は飽きたら戻ってくるから良いとして、意外と頭良いくせに興奮すると見境つかなくなっちゃう至恩と、戦闘狂の雷厳にはちゃんと使いだしてください」
「ハハハ、わかりました」
笑いながら呂亜が、一人走り去る。
趙武は、會清が近づいている気配を感じ、敢えて、大きな声で独り言を言う。
「さて、勝ったけどそうすると如親王国軍も耀勝が復権して軍を率いるから、これ以上は無理だろうな。ということは、引きどころだけど、凱炎大将軍は、言うことを聞いてくれるかな? あの人迫力半端ないんだよな〜。嫌だな〜。ああ、面倒くさい」
「趙武様。誰かに聞かれたらどうするんですか。やめてください。独り言は」
「會清か。大丈夫だよ。一応、武人だから気配は読めるよ」
「ということは、私が近づいていることをわかっていて、言ったのですか。と言うことは……」
「うん、凱炎大将軍の所行って来て。會清だけが頼りだから。こう、いつものやつで、上手く言いくるめてよ」
「はあ。言いくるめてよって。私は詐欺師ではないんですがね。ですが、それが仕事ですし。わかりました。行ってまいります」
そう言いながら、會清は、馬首を巡らし、走り去った。
會清がいなくなると、趙武は、考えごとを始める。ドタバタしていた、天港の軍勢に対して泉水の攻略軍の動きの見事さは何だったのかと、
「いるな、耀勝。何を仕掛けるつもりだったんだ?」
しばらくして、追撃を止められた部隊が戻ってくる。龍雲はもとより、至恩も、雷厳も趙武の命令だと聞くと、あっさり追撃を止めて戻ってきた。凱炎大将軍も、同様であった。そして、凱炎は、自ら趙武と話すために、趙武の
「趙武、何があった?」
「えっ、追撃止めた理由ですか?」
「ああ、趙武のことだ、何か理由があるんだろうが、聞いてみたくなってな」
「そうですね〜。如親王国軍の撤退があまりにも鮮やか過ぎですね。恐らくは、前もって決められていた動きだったのだと」
「決められていた動きだと! 予測していたと言うのか? 負ける事をか? そんな事、誰が?」
「耀勝でしょうね」
「いるのか?」
「恐らくは」
その頃、耀勝は、趙武の予測通り、北河から引き上げる軍船の中にいた。周囲には、4人の将軍、
「申し訳ありません。我々の動きがまずく、敵に悟られてしまいました」
「いえいえ、気にしないで、いいよ。趙武が来ている時点でそんなに期待していなかったし、それに」
「それに?」
「これを、試したかっただけだしね」
耀勝は、黒い砂のような物を箱から一掴み取ると、指の隙間から、さらさらと、流し箱に戻す。好奇心の強い穂蘭が、訊ねる。
「耀勝様。それは何ですか?」
「これは、
「はあ」
暇を持て余していた耀勝は、何かを作り出し、それで、帝国軍を攻撃しようとしていたようだ。
「これから使う機会あるだろうし、それに、帝国内に蒔いた火種に火が着きそうだしね。もう少しの辛抱ですよ」
戦いが終わり、それぞれの軍は、駐屯地に戻った。しかし、凱炎、呂鵬、そして、趙武は、報告の為、大岑帝国帝都大京に向かう事となる。
そして、
「趙武。今の兵力に更に五万の兵を加え十万とし、大将軍に任ず」
「はっ。有難き幸せ謹しんでお受け致します」
「これからも余の刃となり励めよ」
「はっ。この趙武、陛下の御為、粉骨砕身働きます」
「うむ」
大岑帝国皇宮玉座の間にて、趙武の大将軍就任の儀が行われた。
趙武は、
そして、左右をちらりと見る。左手には丞相、
「何か気に入らない事したかな?」
大将軍の並ぶ列、そこに今後、趙武も、岑瞬の記録を越えて、最年少32歳にて、並ぶこととなった。
「これで再び大将軍が8人に戻ることになる。先の敗戦から5年か」
岑英の言葉に、興魏が、声を発する。
「陛下我らが、不甲斐ないばかりに、申し訳ありません」
「いや、
「はい、おおせの通りで、ありましょう」
岑英は、自分の体の状態に不安を感じると同時に、帝国の将来についても不安を感じていた。
外戚の
岑英は、大将軍8人を見回す。
そうなると、
そして、岑瞬か。わからないが、最近の、暗い目が気になる。どうするか?
岑英は、思わず趙武に問いかけた。
「趙武、もし、余が急に死んだら、余の後継は
「はい? 恐れながら、陛下の死についてなど考えたくもありませんし、仮にそうなったとしても、わたくしが、口を挟むべき問題では、ありません」
「そうか」
興魏、岑瞬の目つきが鋭くなる。岑英が、自分の後継について、配下に訊ねる。これは、あってはならないことだったが、敢えてした。この事は、後継問題に関してあれこれ画作している者達に、岑英自身が気づいているぞと、楔を打ち込む事と同時に、趙武を陣営に引き込むなどの行いが、しにくくなったのだ。趙武にとっては、幸運な出来事になった。
そして、
「大将軍としての皆の働きに、期待する」
「はっ!」
こうして、趙武は、32歳にして、大岑帝国の軍官としての最高位大将軍になったが、その歩みはまだまだ続く。盤石に見える大岑帝国だが、これから時代はどう動いていくのだろうか?
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