(什弌)
話は
「趙武ですか〜。面白くなりそうですね」
「
「負けてはいませんよ。追い払ったんですし、帝国は多数の死者を、出したのですからね」
「そうでした。失礼しました。しかし、折角集めた船は、全て焼かれるか、奪われてしまいましたね」
「本当に嫌なところを、ついてきますね」
「長年、耀勝様の
「
「正確には、
「わかりました。もう何も言いません」
「失礼しました。で、何が面白くなってきたのですか?」
「ん、う〜ん。ん」
耀勝は、それまで、自分が見ていた紙を、壬嵐に渡す。
「何でしょう。ほ〜。凱炎大将軍府、
「はい。泉水の店から送って貰った情報です。27の若さで将軍になったんですよ。そして、わたしに2度も苦い思いをさせたのも、おそらくは」
「う〜ん。耀勝様に、匹敵する人間って事ですか?」
「どうなんでしょう? ね、面白くなってきたでしょう」
「はあ」
耀勝の顔は、新しいおもちゃを見つけた子供のようだった。
「フフフフ、さて、趙武君、何して遊びましょう」
耀勝は、泉水周辺の地図を広げた。
それから、数日後。
「失礼します。
亜典。耀勝が将軍時代から校尉として使え、現在将軍となっていた。黒髪黒眼のカナン平原に良くいる民であり、同時期から使える他の校尉の、
「亜典、頼みたいことがあります」
「はっ、何なりとお申し付けください」
「
「雪辱ですか?」
「はい、
「あの時の……。わかりました。何をすれば、良いのですか?」
「泉水に潜入してください」
「泉水ですか? 1人で、でしょうか?」
「いいえ、最終的には……。そうですね6千人ですかね」
「6千人。かなりの人数ですが、どのように?」
「1年ほどかけて徐々に潜入して貰います。意外と気づかないものですよ。それで、まずは、亜典。泉水に先に潜入して、指揮をとってください」
「はっ、かしこまりました」
耀勝の策は、こうだった。1年がかりで、泉水に六千人。他の将軍が駐屯する街に千人ずつ、そして、それ以外の街に合計で千人。合わせて1万人の兵士を潜入させる。
そして、1年後、泉水の6千人の兵士が城門を占拠したところで、耀勝自ら10万の兵を率いて、泉水を占拠。他の街でも、潜入した兵士が、暴れ、泉水への援軍を防ぐ。という事だった。
「すでに、対岸の漁師小屋を買い取って、中継拠点にしています。準備出来次第向かってください。ああ、中継拠点使って連絡は、密にお願いしますよ」
耀勝は、亜典に連絡が途絶えた場合の、助言をして、送り出した。
「さて、趙武君、君は気付きますか?」
そして、半年が経過した時だった。耀勝は、直ぐに大軍を泉水攻略に向かわせられるように、自ら、
「耀勝様! 中継拠点が潰されました! 小屋は、破壊され、中にいた者も全員殺されました」
「そうですか。ふむ」
耀勝は、目を閉じ、一瞬考える。そして、目を開けると、
「趙武君も、甘いですね」
「甘いですか? どういう事でしょう?」
「はい、趙武君は、敢えて中継拠点を潰して、連絡を遮断して、潜入した者達に、逃げて欲しいようですよ」
「逃げて欲しいですか?」
「はい、本来なら、潜入が分かった時点で、全員捕らえて殺せば良かったんですよ。それなのに、中継拠点を潰してきた」
「なるほど。ですが、潜入者がどのくらいいるか分からなくて、中継拠点を潰して、動きを確かめようとしたとも、考えられませんか?」
「フフフフ、壬嵐も鋭くなってきましたね。ですが、趙武君は、馬鹿じゃありません。どのくらいいるか分からなくて潰して、大軍だったらどうするんですか? 数も把握して、万が一の時も、制圧出来るから、潰したんですよ」
「なるほど。勉強になります」
「で、中継拠点と、泉水の部隊が連絡を最後にとったのは、いつですか?」
「はい、昨日です」
「ふむ、昨日」
耀勝は、指を折って数える。そして、
「と、すると亜典達が、把握するのは、4日後ですね。潜入部隊の救出に向かいます。急ぎ準備を」
「はっ。しかし、泉水への連絡は?」
「無理ですよ。すでに、店の方も把握されてるでしょう。泉水内部に入るのは不可能です」
「わかりました。では、急ぎ準備するよう、伝えてまいります」
そう言うと、壬嵐は、部屋を出ていった。
「さて、亜典は生き残れますかね。脱出を選ぶような男ではないですし、1人敵中突破出来るとは思えませんし、人選ミスだったですかね〜」
「何! 中継拠点が潰されていただと」
「はい、亜典様。いつものように、連絡を取るために、出かけたのですが、待ち合わせ場所に、いくら待っても来ないので、中継拠点を、見に行ったのですが、小屋は潰され、人は、誰もいませんでした。それで、慌てて帰って来たのですが」
「そうか。御苦労」
亜典は、耀勝に言われた事を考慮しつつ、考える。
「良いですか。もし、趙武に悟られた場合。潜入した兵力で、判断してくださいね。無理せず、逃げることも考慮してください」
そして、亜典は、
「よし、予定通り、明日4ヶ所に別れて潜伏する。予定の半数だが、何、城門を占拠するだけなら充分だ。それに、耀勝様が、必ず来て下さる。やるぞ!」
「はっ!」
亜典達は、それぞれの門の近くにある、店の倉庫に集結する。中には、鎧と剣が並んでいた。戟や、槍等は目立つので、用意出来なかったが、全員が、鎧を纏い、剣を
そして、日が暮れ始め、決行の時間が迫ってきた時だった。外を見張っていた兵士が、飛び込んでくる。
「あ、あ、亜典様! 囲まれています」
「何!」
亜典は、慌てて飛び出した。そこには、完全武装の帝国軍の兵士が、完璧に周囲を取り囲んでいた。亜典は、その瞬間自分の失敗を悟った。逃げだしていれば、いや、兵を分けなかったなら、せめて、2ヶ所に分けるだけにしていれば、或いは。しかし、今は、切り抜けるしか、方法がない。
「敵襲だ! 戦うぞ!」
「おー!」
しかし、多勢に無勢。敵は5倍はいた。それに、亜典は、恐怖した。2mを越す化け物のようにでかい、金髪が燃えるように逆立った男が、さらにギラギラと金色に光る眼を輝かせながら、
そして、周囲が静かになった。
「伝令〜! 雷厳様、制圧次第、担当の城門に向かってください! 敵兵が迫っております」
「分かった。しかし、趙武も、人使い荒いよな。まあ、良いけど。さあ、やるぞ、野郎共!」
「おー!」
耀勝は、
「城門開きませんね〜」
「まだ、城門制圧出来ないのでしょうか?」
「壬嵐、違うでしょうね。それにしては静かです。恐らくは亜典はもう」
「全滅ですか?」
「そうでしょうね〜」
耀勝は、城壁の上を見る。どこかに趙武がいるのだろうか?
「では、攻めますか?」
「いえ、止めておきましょう。そう簡単に、落ちないでしょうし。攻めてる間に、援軍が来ちゃいますよ。それに」
「それに?」
「これ以上兵を失えば、責任問題になるかもしれません。痛くない腹は、探られたくないですよ」
「はい。では」
「明朝。南に進路を取り、他の街の、潜入部隊を回収しつつ撤退しますよ」
「はっ!」
その言葉通り、如親王国軍は、軍を進め、泉水周辺を周回すると、各街で戦っていた潜入部隊を回収しつつ、撤退していった。
「さて、これで泉水攻略の手は無くなりましたね。後は」
「後は?」
「待つだけですね、好機が訪れるまで。では、帰りますか」
「はっ!」
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