(玖)
趙武は、馬上から練兵場を眺めた。横には、副官の
その目の前の練兵場では、龍雲伯長率いる騎兵。介山伯長率いる歩兵など、騎兵100歩兵750弓兵150が訓練を行っていた。
普通は、
荷駄隊の護衛任務につくからか、それとも他に理由があるのか。
「やあ、見事なものですな」
後ろから、儒孔が趙武に、話しかける。確かに見事な動きだった。趙武達が、連れてきた。新兵の歩兵500は、それぞれバラバラに配属されたのだが。その練度を見た、戦い慣れしている兵達も、焦り、新兵に追いつくために必死で訓練して、あっという間に、動きが洗練されていった。
「そうですね。これだったら、いつ出陣の令がかかっても大丈夫でしょう」
趙武は、そう答えながら、龍雲率いる騎兵の動きを見守った。先頭を疾駆する、龍雲の後ろを必死でついて行く騎兵達。そして、その動きは、障害物を越えるときでも変化は無く。綺麗な動きだった。
「相手にはしたくないな」
「えっ、騎兵ですか? 確かにそうですね」
目先が利く副官典張は、趙武の独り言にも慣れ、的確に返答した。
「では、訓練止め! 各自出陣に備えゆっくり休んでください!」
「おう!」
そして、数日後いよいよ、出陣となった。凱炎大将軍に率いられた大軍十万が
趙武は、あまり知り合いはいなかったが、良く行く店の店主を探してみたりしたが。良く見ると、酒家の店主などは、荷駄隊にも参加しているようで、自分達のすぐ後ろを進んでいた。
軍はゆっくりと街道を北東に進みつつ、徐々に他の軍と合流していった。
この戦いには、東方諸国同盟の動きに目を光らせている、大将軍、
凱炎大将軍の他には。興越の親でもあり、老獪な大将軍、
そして、
「なんだと! もう一度言ってみろ!」
皇帝岑英は、声を荒げたが、別に怒っている訳ではなかった。自分の理解を越える出来事に、戸惑っていた。
場所は、全軍が集結し、大岑帝国と如親王国との国境手前。如親王国側の動きを探る為に全軍を止め、
皇帝の
「は、はい。如親王国軍は、
常識では、兵力で下回る如親王国軍は、
岑英は、長机に置かれた地図に目を落とす。
「奴らは何を考えている?」
「こちらの準備が整う前に、仕掛けてくるつもりでしょうか?」
興魏が戸惑いながらも意見を言うが、誰も反応はしない。正解とは思えなかったからだ。
「とにかく、引き続き、逐一動きを知らせよ。こちらも動いて様子を見るぞ。全員出立!」
「はっ!」
さて、この如親王国の動きは、奇策なのか、それとも、ただの気の迷いなのか。
考えたのは、如親王国総司令官大将軍の
第一、如親王国自体が、
「うむ。良い策が浮かんだぞ。帝国の奴らは、この街道を通って来るのだな?」
「はい、そうであります」
「うむ。だったら、この街道が森から出る所で待ち受けて、取り囲んで全滅させてやるぞ」
居並ぶ如親王国の将軍達は、目の前の地図を覗き込んだ。確かに、泉水の南に広がる草原の南西部から泉水に続く街道は、その手前で、森に挟まれ隘路になっているように見えた。その出口で叩くということらしい。
だが、さらにその手前、森の中程で、街道はニ本に別れ、一本は森の中を北に向かい、泉水のすぐ西に出ていた。敵が、こちらの道を通ったらどうするんだ? と、思っている者もいたが。
「や~、素晴らしいお考えですな。これで、帝国も尻尾を巻いて逃げて行きますな、ハハハハ」
「本当に、そうですな。これでしばらくは、帝国も我が国に手を出しますまい」
「ハハハハ、そうであろう。そうであろう。我ながら素晴らしい思いつきじゃ」
と、大将軍と、その取り巻きは盛り上がっていた。その時、居並ぶ将軍の列から
「あの〜。戦略的大前提が間違っているように思うのですが。泉水は大丈夫ですか?」
「なんだと! だったら貴様は泉水にでも
「はい、そうさせて頂きます」
こうして、元々泉水を守備していた将軍と、意見を言った将軍が泉水を守備し、残りは、南に向かう事となった。
岑英と、大将軍達は、逐一入ってくる情報を元に、軍議を行っていた。そして、
「如親王国軍、進軍止まり、布陣を開始しました。街道を西に進む森の出口に、
「馬鹿か? まあ良い。ならば、相手の思惑に乗ってやろう。ただし、こちらで多少のアレンジはさせてもらう」
「と、言われますと?」
興魏が聞くと、
「うむ。相手の望み通りその道を進んでやろう。ただし、呂鵬! 真柏!」
「はっ」
「2人は、分岐点を北に向かえ! そして、真柏は、泉水の包囲。呂鵬は、泉水を通過して、如親王国軍の背後を突け!」
「はっ、かしこまりました!」
「残りは、余と共に、このまま進み、待ち構えている馬鹿共と戦う。行くぞ!」
「おお!」
この後、後方を進む、趙武の元にも、敵の布陣の情報が入ってきていた。ちょうど
「ヘ〜。こんな感じになっているのですか。なるほど。で、今後どうなるんですかね?」
副官の典張が、趙武に聞く。周囲には、屯長や、伯長も集まっていた。趙武は、地面に枝で絵を描きつつ、話す。
「うん? そうだな。まずは、こちらは、完全無視して、全軍で北に進み泉水を即効落とす」
「なるほど」
「もしくは、軍勢を半分に分けて、両方の街道を進んで、タイミングを合わせ、挟み撃ちにする。泉水から、軍が出て、さらに背後を突かれると厄介だから、1軍は、泉水包囲かな? まあ、これが一番妥当かな?」
「なるほど」
「最後は、軍を3軍に分けて」
「えっ! まだ、あるんですか?」
「いや、もっとあるけど、あまり複雑な策は、逆に失敗するかもしれないからね」
「はあ」
「で、続きだけど、
「うーん。早く出世してくださいよ、趙武様は。同じように幹部候補生学校出てても、俺達じゃついていけませんよ話に」
「そうかな?」
そして、翌々日、戦いは、始まった。
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