第弌幕 立志編

(弌)

 話は、趙武の誕生から始まります。


 時は、大陸歴844年、皇紀コウキ202年のこと、人々は、青銅器から、鉄器と呼ばれる道具、武器を使い。土をこね、釉薬ゆうやくを塗り焼く陶磁器と呼ばれる物を、ようやく使い始めたそんな時代の事であった。


 大岑帝国では、管理しやすいように行政単位がありました。集落の単位をゴウと呼び、そして、いくつかの郷を管轄するケンがあり、いくつかの県をまとめて、グンとなっていました。大岑帝国が、巨大な国となると更に郡の上にシュウが設置されました。


 そして、教育機関ですが、最上位教育機関として、大岑帝国運営の大学ダイガクはありました。そして、大学に加えて、郡には大学相当のガクという教育機関を設置し、さらに、県にも高等学校相当のコウという機関を設置しています。


 そして、県よりも小さい単位である郷にもヨウジョという小中学校相当の教育機関がありました。



 ここではわかりやすくする為に、小学校、中学校、高校、大学、そして、軍人を目指すなら小学校卒業後、幼年軍官学校、軍官学校、軍官大学校や、軍官幹部候補生学校というふうに、書かせていただきます。



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 西京さいきょうは、大岑帝国だいしんていこくがただの岑国と呼ばれていた頃の首都でもあったが、それはすでに100年以上前の話である。



 しかし、近郊にアトラス断崖を登る唯一の道、龍の口があることで、交易の要衝ようしょうでもあり、人口も西部最大で、大岑帝国内では、3番目に大きな大都市であった。近くに大河は無かったが、北河より、運河がひかれ大地を潤して豊かな地でもあった。そんな街で、趙武は育った。




 趙武の父親は、西京の地方官吏チホウカンリ趙真チョウシン。真面目な男であった。そして、その真面目な仕事ぶりを気に入った西京の豪商、元雄ゲンユウが、娘を押し付け、もとい、長女を結婚相手として紹介して、結婚。そして、趙武が生まれた。


 趙真は、黒髪黒眼であったが、西京の豪商元家の家系は銀髪碧眼家系であったので、その血を継いだのか長男であった趙武は、銀髪碧眼であった。その後2男1女が誕生するが、いずれも黒髪黒眼で真面目な弟、妹達であった。


 そして、幼年時代の趙武はと言うと。母親の気質を受け継いだのか、やや変わっていた。同年代の子供と遊ぶのを好まず、ひたすら祖父の商家に居座り、人々をじっと観察するのを好み。かといって、商売が好きなのかと、祖父が商売の話をすると嫌がった。



 小学校に通う年代になり、学校に通うと。両親の心配を他所よそに普通に友達を作り、普通の学生として過ごしているように見えた。両親、祖父母は安心していたのだが、ある時母親は、担任の先生より呼び出しを受ける。


 母親が、友達に怪我をさせたのか、それとも、勉強をしないのかと、心配しつつ学校に向かい、担任の先生に話を聞くと。


「趙武君ですが、勉強は真面目に取り組みますし、友達付き合い、生活態度も良好なのですが。その級友達を扱うのが上手くて」


「はあ?」


「えーと、ですね。例えば掃除の時間ですが、級友の適正を見極めて役割分担を決め、そして、趙武君の指示の下、掃除が行われるのです。結果はとても効率良く、綺麗に掃除されるのですが」


「はあ」


「趙武君は、掃除しないで、指示しかしないのです」


「えーと、それは申し訳ありません」


「私としては、ちゃんと掃除を自分でして欲しいのです。それに、その他の時でも、学級単位の対抗戦とかでも同じなんです。他の子達にも、自分の役割とか、限界とか決めないで、子供らしくして欲しいのです」


「はあ」


「まあ、趙武君の指示で、確実に勝っちゃうので、我が学級の成績はとても良いのですが、そう言う問題でないのです」


「わかりました。やらないように伝えておきます」



 帰ってきた母親の話を聞いて、祖父は大喜び、これは後々大商人なると。父親は、微妙な顔をした。そして、


「武よ、人を指示するときは自分が率先してやらないと、人はついてこないぞ」


「そうでしょうか? 皆早く終わると喜んでいますが」


「そうか。まあ、それは良いのだが、嫌なことでもやっておかないと自分の為にならないぞ」


「はい。ですが、僕は掃除が嫌いなわけではなくて、そのほうが効率良く終わるので、やっているのですが、いけないことでしょうか?」


「う〜む。早く終わるのも良いことだが、苦労して手に入れられるものもあるのだ。若いうちは苦労して覚えるのが良いことなのだ。今は、わからないかもしれないが、将来的にはそれが理解できるぞ」


「わかりました。掃除の時などは指示しません。ですが、遊びや、学級対抗戦では良いですよね?」


「う〜む。良いとは思うが、一応先生に確認してやるのだぞ」


「はい、わかりました。ところで、僕は、この人がどういう役割が向いていて、同指示すればどう動くかとわかるのですが、この能力を活用できる職業ってなんですか?」


「えっ。えーとだな。そうだな、部下が出来るとしたら軍人とか、おじいちゃんのような商人とか……」


「お父様のような官吏は駄目なのですか?」


「俺は官吏と言っても地方官吏だからな、その、部下は出来ても、街の皆のしがらみもあって、自分でやらなくちゃいけないことも多くてだな。軍隊の様に命令一下、皆が動いてくれるわけではないのだよ」


「そうか、軍か。僕、将軍を目指します」


「将来軍人になるって事か?」


「はい」


「危ないぞ」


「はい、わかっています。お祖父様の後は叔父様が継ぐし、従兄弟達もいます。官吏になるんだったら、弟達の方が向いていると思うので、僕は将軍を目指します」


「そうか、わかった。だが、今この国は拡大戦略を取っているから、人気だし競争相手も多いぞ。努力しないと駄目だぞ。頑張れよ」


「はい」



 ここ西京は、戦争というものから縁遠い場所であるアトラス断崖を下って攻めてくる軍は無く、巨大になった大岑帝国の戦線は遠く東の端である。まれに、北のユレシア大山脈を越えて、北方民族が攻めてくることもあるが、防衛ラインは北河南岸であり、ここ西京には北河から運河が引かれてはいるものの、北河自体からはかなり遠いので、そちらの戦闘も見ることは無かった。


 その為に、西京の子供達は、国の為に戦う軍人に対して憧れこそあれ、戦争自体を知らないため、恐怖心などはなく。それは、大人達にも言えて、従軍したことのある人間を除いて、同じであった。その為に、軍人は、西京の子供達の憧れの職業でもあり、さらに大軍を率いて戦う将軍は羨望の的であった。


 小学生の趙武に、そこまで憧れがあったわけでは無かったが、掃除や対抗戦などで、生み出される快感に似た、感覚を求め、それが実現されるであろう、軍人、そして将軍になるという、目標が出来たのであった。



 こうして、趙武は将軍を目指していくことになるのだが、兵士になるんだったら、軍の役所でしょっちゅう募集しているが、そういう訳ではなくて、兵士の指揮をしたいので、軍官学校を卒業しなくてはならない。


 更に詳しく話を聞くと。その前に、軍官学校に入りやすい幼年軍官学校への入学を目指していくことになる。幼年軍官学校を卒業した者は、余程成績が悪くない限り、軍官学校に入学することができるのだ。




 頭が良いというよりも、要領の良かった趙武の成績はとても良く、あっさりと幼年軍官学校に入学する。



 幼年軍官学校は、どちらかと言うと、支配者層や、大商人、上級官吏の子弟がはくをつける為に、入学する場合が多く、本当に軍人を志す者や、一芸に秀でている者は、軍官学校に直接入学する。




 幼年軍官学校は、西京にあるが、全寮制の為、寄宿舎に入って生活することになった。こうして、趙武の将軍への道が始まった。

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