第10話包囲網戦《中編》

クリス達が突破口を開かんと、策をこうじる数分前──


「この道は安全じゃなかったのかよ!」


立ち込める砂煙の中、ジルドは目を眇めながら辺りを見渡す。これが単なる砂煙だけでない事は、濃さを見て理解は出来た。


だが──だからといって解決方法がある訳でもない。この危機的状況下に於いて、対人戦なら兎も角、ジルドの能力では圧倒的に不利。


いくら属性を無効化できるとしても、それはジルドに対しての攻撃に限る。剣で攻撃したとして、そこに自動的に付与される微量の属性値は無効化出来たとしても、物理を無効化は出来ない。

故にジルド自身の鍛錬は欠かせない訳だが、今回のこれはそこに該当すらしない。相手が自然現象を強制的に誘発させるものでは成す術がないのだ。


──暗夜を舞うデザインは土の・ガリハー


土属性特有の現象魔法。彼等にとって集中的な雨や霧は朝飯前だろう。それを理解しているからこそクリス自身も前衛に土属性を持ったものを集中的に配置していた。


どうしたものか、と眉を顰めながら考えていれば後ろに気配を感じ──


「ジルベルか?」

「いいえ、違います。クリスさんからの伝言です」

「伝言?」


辛うじて視認できる人影を見て問えば


「はい。順繰り回ってきた伝言を」

「なるほど。そういう事か」


一人が移動するのは危うい。その為に伝言板のようにしたのだろう。


「これより一点突破を試みる。故に前に続きただただ走れ。との事です」

「ああ、分かった」


確かにこの場合、いつまでも攻めあぐねては死期を早めるだけで士気は上がらないだろう。


──だが。


ジルドがとった行動は、少し離れた場所で倒れ込む事だった。顔に躊躇いなく泥と間近で息絶えて居るものの血を塗りたくる。その数分後に訪れる地鳴りと鬨の声。


「大分殺れたようだな」と、聞き覚えのない声が聞こえたのは、辺りに静寂さが戻りつつある頃だった。


「ですね。ゴミはゴミらしく地べたを舐めているのがお似合いですよ」


男女の声。その他に足音から逆算するに数名か。耳をすまし、ジルドは時を伺う。


「…………」


息を潜め、屍人を演じ続ける。


「だがこんな人数で叛乱など、馬鹿馬鹿しい」

「間違いないですよ。何も気が付かずに、搾取されていた方が幸せに終われただろうに。変に勘ぐるからこうなるんですよ」


嘲笑う彼らは、死んで行ったものの理由を考える事もせず、ゴミ当然の扱いをする。


──狂いすぎている。


「まあ、このような異物が居るからこそ我等も飽きずに仕事をこなせるって訳だ」

「魔獣なんかよりも容易く絶せますしね。ふふふ」


声の籠り具合や反響から考えるに兜はしていない。きっと勝ちを確信しているが故に出た余裕の様ってやつだろう。


まだ遠い。まだ、あと少し。あと四歩。


──今だ。


瞬時に立ち上がり、背後をとったジルドは瞬く間に騎士一人の首を難なくへし折った。


絶叫も断末魔もなく、風船から漏れる空気のような音を出し、絶える騎士が崩れ落ちると同時に──


「お前は誰だ?見ねぇ顔だな」


鞘走らせる騎士の目は淀みくすんでいた。それは正義の名の元、使命感に満ちたものではなく、狂気そのものだ。


「見ねぇ顔……なるほどな」


一人の騎士を殺している以上、その言葉を発言する意味は──


「やはり内通者が居たのか」

「やはり?」

「やたらと場を焚き付ける奴がいてな」

「ほう。嫌な予感って奴か?」

「いいや。予感ではなく予兆だよ。嫌な予兆。察するにジルベルだろうさ」


クリスとジルドが話していた時、後方からやたらと煽っていた男性の声。ジルベルと隣を歩き会話を交わした事で気がついた事ではあったが、あの男にも護るべき家族が居ると言っていた。


自己を犠牲にしても──


「お前等、関係の無い民を人質にとったな?」

「叛逆者の家族ってだけで危険因子だよ。とは言え、これ以上話す必要もない。お前はどの道此処で死ぬんだからな!!」


騎士の一言をキッカケに周り全ての騎士が臨戦態勢に入る。周りを囲まれ、走り回る事すら出来ない。回避場所も限られ、逃げ道もない状況。


──だが。


「ちょうどいい」


ニヤリと笑えば、癪に障ったのか騎士は語気を荒らげ叫ぶ。


「この薄気味悪いゴミを始末しろ!!総攻撃!!」

「了解しました!」

「楽に死ねると思うなよ!?」


飛び交う火の粉に荒れ狂う暴風。そして、近距離からの斬撃。

総攻撃とはいえ、無闇矢鱈な攻撃ではない。魔法の発動時間を考えた連携。


「…………」


ジルドは限られた範囲で的確に対処しつづけた。火の粉を斬り、圧縮された風を纏った剣技を防ぐ。焦ることもなく、落ち着いたそれはまさに無我の境地。


「何故攻撃が当たらない。無傷とか有り得ない!なんなんだコイツは」


流石に異変を感じたのか、騎士一人が吐露した心情。絶対的な恐怖を目の前に声は震えている。


「俺が誰だって?そりゃあ……お前達の──死神だ!!」

「ぐぬぁぁぁあ……ッ!!」


今の・・ジルドに鎧ごと両断出来る腕力はない。故に、鎧の継ぎ目を目掛けて縦に剣を振るった。完成された精度は長きに渡る鍛錬の賜物だろう。


能力向上も加わっていればもっと楽に戦えたに違いない。あの忌まわしき魔王幹部め。そんな事を思いながら、腕を切り落とされ悶絶している騎士の首をはねる。


動脈を断たれ飛び出る鮮血がビタビタと地を叩く中、血糊を払いジルドは言った。


「次、死にてえやつは誰だ?俺はお前らの魂を狩るまで止まらねぇぞ。くそウジ虫共が」

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【短粗筋】王の言いなりになるのを辞めた途端、国内で指名手配されました~拝啓・正義を騙る皆様、今は反勢力側と仲良くしております。影の死神が振るう剣、とくとご覧あれ みなみなと @minaminato01

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