第8話破滅の序章

 月明かりを遮る生い茂った木々が不穏なざわめきをする中、ジルド及びクリス率いるアイアスは領主・カルネアのいる街、ビビディに進行していた。


 前衛にはクリスと彼女を挟む形で、チャドとハインズ。後衛はジルドと銀髪の青年・ジルベルが担う事になった。


 泥濘ぬかるみを歩く度、鼓膜には粘着質な音がねっとりとまとわりつく。非常に嫌な音と金属が擦れる音の隙間を縫って、軽い声はげんを出した。


「しっかし、属性を斬る無属性・・・ってのは凄いね」


 情報の共有(ある程度だが)は、互いの信用を高め合う事が出来る。故に、ジルドがチャド達に勝てた理由等を伝えた。


 ──無属性アルテマと名ずけた無属ソレは、ありとあらゆる属性を打ち消し無効化するもの。皆は魅力的だと言うが、欠点だらけなのをジルド自身は理解している。


「俺の剣技は、後手に回るものばかり。なにも凄くはないさ」


 相手の出方を見て、繰り出される魔法の軌道や発動時間、それらを含めた予想と計算を合わせた行動を取らなければならない。


 下手に先手をとれば、間合いを取られて殺られる可能性が高い。


「でも、それを補える力は?」

「──どうだかな。あればいいんだが」

「でも十分に魅力的だよ。体力や精神力を大量に消耗するとしても、価値はある」

「この力のせいで俺は周りに色目で見られていたんだぞ」


 歩きながら過去を振り返る。一族にも馬鹿にされ、理解されず、壊れた力だと嘲笑われた。唯一理解してくれたリーチェを除いて。


「でも、クリスの二属性使いダブルエレメンター無属性アルテマさえ使えたら俺だって」


 眉間に皺を寄せる表情や握り震える拳は、世の中の理不尽を訴えているのだろう。


 ──妬み嫉みは、度が過ぎれば危険でしかない。


 ジルドはさり気なく肩を叩いた。


「俺の一族には言い伝えがある」

「言い伝え?」

「ああ。俺の故郷は隠行おんぎょうの術に長けている話はしたな?」


 そう言って、視線を送ればジルベルは短く頷く。


「属性値が低いが為に編み出した魔力の消耗を抑えた体術と魔法の合術だっけ?」

「ああ。俺が最初に出した技もその一つ──瞬歩しゅんぽって言う。でな?」


 改めてジルドは言う。


「多種多様な剣技よりも、洗礼された刹那の一刀は勝る」

「多種多様な剣技よりも、洗礼された刹那の一刀は勝る──か」

「そうだ。だからな、ジルベル。君には君の使える君だけに許された力がある。それを極めれば、道は切り開けるんだ。だから、諦めちゃいけない」


 ジルドが本心で語れば、ジルベルは俯く。選択したのは沈黙だった。


「──う」

「ん?」

「────もう、遅いんだ」


 片手を無意味な場所で上げるジルベルを見て、ジルドはここに来て初めて進行を止めた。


「遅い?」と、問い直したとほぼ同時に暗がりから穿たれた光の矢。


 それは──


 生い茂る葉や伸びるみきをも貫く鋭さを持った光の矢。


 それは──


 神秘とは程遠い力を持った灰燼かいじんの矢。


 無慈悲に無情に降り注ぐ矢は、さながら流星の如くアイアスを襲った。

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