第3話 仮面の女性
王都・バレクラを出て二日が過ぎた頃、ジルドは情報収集を重ねた末、とある小さい村の外れに辿り着いていた。ライハルが言うには、この地を治める領主への暴動をする準備が行われていると言うのだ。
これについてジルドの任務は、主犯格である女性の殺害及び組織の壊滅。いかなる手段をとってもとの事。
木陰に身を潜め監視を続けていれば。
「…………」
「……………」
「……」
「………………」
寂れた教会入口で男性二人が会話をしている。表情は殺気たっているよりも、和やかなものだ。
ただ──
身なりを見る限り、組織の本拠地はこの教会で間違ってはいないだろう。潜り込むとして、違和感がないか今一度自分の容姿を確認する。
鎖帷子は肌着の次に纏い、上には黒いシャツ。赤を基調とした薄手のコートに、腰にぶら下げた長剣。
よし。と気合いを入れれば頬に付いた血糊を拭い立ち上がった。
「夜の見回りご苦労さん」
片手をあげて気さくに接してみれば、大柄の男は訝しげな視線をジルドに向ける。この次に発言する内容によって、ある程度の規模は察しがつくのだが──
「誰だ、お前は。見ねぇ顔だな?」
この一言、表情で大凡の状況把握は完了した。暴動とはいえ大人数ではないのだろう。聞いた事に間違いはないようだ。要するに、ほぼ全員が顔見知りであって知り合っている。
ならば──と、ジルドは不可思議そうな表情をわざとらしく作り。
「あれ? ハインズに話を通すように言ってもらってた筈なんだが……」
「ハインズ?」
会話を広げない辺り、まだ警戒しているのだろう。しかしジルドはそれすらも織り込み済みだ。
「なんだよアイツ」
いかにも親しみの間柄であるような雰囲気を醸し出しつつ──
「俺を
『我が友、ジルド=バレルを我等が義勇の組織──アイアスへ入隊する事を推薦する。クリス=エインの親友・ハインズより』
「この独特な文字。確かにハインズのもんだ。ならあいつは今どこに?」
「ああ。その事だが、急いだ方がいい」
「領主がアイアスの事に気がついたのか、数を集めているらしい。ハインズはもう少し偵察すると言っていた」
「なんだと!? ってなると、魔獣も引き連れてって事か?! こうしちゃいられねぇ、いち早くクリスに伝えねぇと。ジルド、だっけか?お前も事細かく説明してやってくれ」
魔獣の意味は分からないが。語るに落ちるとは正にこの事だろう。
「ああ、分かった」
「そうときまりゃあ、後は迅速な行動だ」
そのまま立て付けの悪い扉を歪な音を鳴らしながら引き開いては、ジルドを中へと促す。
室内は薄暗く湿りっけを帯びていた。荒廃した教会では、
あるのは己と欲望と信念か。
「どうしたんだ、チャド? んな、
「あ?そうだ。クリスは何処だ?」
武装した集団が六十人程度か。
こんな数で何を変えようとしているのだろうか。
「クリスなら今に来るさ」と、男性が指を女神像に向けて指せば、軽やかな足音がコツコツと響き渡る。女神像が邪魔して見れないが、その先に道があるのだろう。次第に足音は近くなり、やがて。
「集まってんな」
姿を見せたのは、歪な仮面をつけた一人の女性。
──この女が主導者か。
「んな事より、クリス!」
「んだ? チャドかよ。そんな焦ったフリしてどうした?また女に振られたか?」
「「ハハハハッ」」
「ち、違ぇよ! コイツの話を聞いてやってくれ」
「あん?──誰だテメェ」
敵意を剥き出す彼女の前に悠々と近寄り、口を開く。
「俺はジルド。ハインズの紹介でここに来たんだ」
「ハインズの紹介だ? オレはそんな話、一言も」
「クリス、これが証拠だ」
チャドがハインズに無理矢理書かせた手紙をクリスに手渡す。
「この字、間違いなくハインズ。そうだろ?」
「だな。間違いねぇ」
「だろ? ならコイツの話を」
クリスが短く頷き顔を上げれば、冷えきった声が鼓膜を叩く。
「聞く必要はねぇ。この男を捕らえろ」
「は!?」と、チャドは野太い声を裏返えらせる。
「おいおい、意味がわからねえよ。捕らえる?何を言って」
「お前達には、オレから各々秘密の言葉を教えているよな?」
「ああ」
短く頷いたチャドは間髪入れず口を開く。
「俺達が捕らえられたり、利用されたりした時に、もし……クリスに伝える事が出来たなら、敵にバレないようにと。もしかして」
「ああ。そのもしかしてだよ。ハインズには『親友』と言う言葉を使えと伝えてある。──お前、ハインズを殺したな?」
「だったら……どうする?」
「簡単な事だよ。テメェを殺す」
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