閑話 神様のCM……が流れたどこかの家
それはとある世界の日本と言う国の、ごくごく普通の一般家庭で育った一人の男子高校生が住まうごくごく一般的な二階建ての家。
そんな彼の部屋は二階にあるのだが、そこに特にノックもする事なくまるで自分の部屋かの様に入室する女性が一人。
そして女性は未だにベッドの上で眠る者から布団を一気に引っぺがした。
「お~い大和、いつまで寝てんのかな? いくら今日が日曜日だからって可愛い彼女ほったらかして眠りこけてて良いと思ってる?」
「………………んえ?」
「今日は……その、お付き合い初の日曜日、なんだから」
彼女、お付き合い……サラッと口にした女性だったが、自分で言って照れているのが丸わかりなほど段々と顔が赤く染まって行く。
二人は所謂幼馴染だったのだが、その関係がついこの前に彼からの決死の告白により長年のジレジレ関係に終止符が打たれたのだ。
元々長年“友達以上恋人未満”な関係で好意を抱いていた彼女は勿論歓喜しまくり、初の日曜日にはしゃいでいたのだが、肝心の彼がまだ寝ていた事には不満のようだった。
しかしそんな彼女の不満は起き抜けの彼の行動によって吹っ飛ばされる。
「…………桜?」
「うん、おはよう寝坊助さ……」
「サクラ! サクラ!! サクラ!!」
「うええ!?」
突然起き上がったと思った矢先、彼……大和が血相を変えて彼女を抱きしめたのだ。
突然の抱擁に驚く桜ではあるが、目覚めた瞬間自分を求めて来たという一種の優越感にも似た喜びも感じてしまう。
だが次第に大和の抱擁が拘束するかの如く強く、そして彼が震えている事に気が付いた。
「……どうかしたの?」
「……………………最っ悪な夢を見た」
「最悪な夢……怖い夢のなの?」
「ああ……詳しくは思い出せない。だけど俺にとっては何よりも最悪で恐ろしい、絶対にあっちゃならないタイプの夢だった」
まだガタガタと震えてまるで自分の事を離すまいと必死に抱きしめる大和の様子に、桜はそのまま優しく頭をなでてあげる。
そうしてしばらくすると、次第に彼の震えは収まっていく。
「うん、桜はちゃんと今ここにいる。俺の腕の中にいる……」
「なによ~、そんなの当たり前でしょ? そんなに強く抱きしめないと実感できないの? 私は君のか、彼女なんだから!」
「お、おう……そうなんだけどな」
そう言われてようやくあまりにも強く抱きしめていた事を思い出したのか、大和はようやくホールドを解いて、今度は桜の肩を掴んで真正面から見つめ合う。
その姿勢も十分際どい事を知ってか知らずか、徐々に二人そろって顔を真っ赤にして視線を逸らしてしまった。
「う、うん……ちゃんと目の前にいるよな! あ、当たり前だよなぁ!」
「そ、そりゃそうでしょ……。な~に? 私と離れ離れになる夢でも見たの?」
まるで自分の存在がいる事を徹底的に確認しようとしている大和の姿に、桜は何となく彼が見たという恐ろしい夢の内容に予想が付いた。
「あ、ああ……、桜に二度と会えなくなる夢で……本当に怖かった。遠い遠い場所にいきなり連れて行かれて、俺はお前にもう一度会う為に試行錯誤して悪戦苦闘するんだけど、結局全てが無駄になっちまう……そんな恐ろしい夢だったんだ」
「ふ~ん……あ、ちょっと!?
そして口に出しているとまた恐怖がぶり返して来たのか、再び桜の体を今度はさっきよりは優しく抱きしめる大和。
そんな彼の姿に心配しつつも桜は言いようのない高揚感も覚えていた。
『そうか……大和にとって私と会えなくなるのはそんなに怖い事だったんだ』
『それはそうでしょう。だって
『……?』
その瞬間、桜は何かの声を気がした。
気がした、というのはおかしいくらいにその声には何の違和感も感じず、自分の本音その者でしかない気しかせず、桜の心に浸透する。
何故ならその言葉、もしくは本音はまさしく自分の心に根差すナニかであるから。
そして想像すると自分だって同じなのだ。
彼と言う存在を失くした時の自分が想像できない、想像したくない。
『私の大和はここにいる、大和の私もここにいる。それは間違ってはいけない現実』
そんな独占欲のような……いや最早まるっきりの独占欲なのだが、そんな超重量級に重たい想いでもお互いさまであるならば特に問題は起こらない。
そう、一緒にしておけば何の問題も起こる事はないのだ。
そして早朝とは言え二人っきりの部屋の中で恋人同士の距離で抱きしめ合う二人。
キスに移行しようと思えば簡単にできてしまえるような距離であり、実際あと数十秒もあれば間違いなくそこまで行っていただろう。
しかし……そうは言っても彼らはまだ未成年の学生。
いわゆる一般的な家庭に住まう学生の身分であるなら、当然保護者と言う存在が同居しているのが自然であり……。
「桜ちゃ~ん、バカ息子起きた? ゴメンね~休日だっていうのにこんな……」
「「!?」」
そしてまたもやノックも無しにガチャリと開け放たれる大和の部屋のドア。
当然の如く入って来たのは大和のオカンだったのだが、息子と幼馴染の娘さんがベッドの上で抱き合っている光景を目の当たりにすると…………一瞬にして悟りを開いたような表情に変化した。
「お邪魔しました……ごゆっくり……」
そう言い残して“パタム”とドアを閉めたオカンであったが、閉めた瞬間に階段を降りつつどこかに電話をかけ始める声聞こえて来た。
「大変よ! ヘタレだと思ってたのに、あの子お宅の桜ちゃんと!! 式場の準備!? いえ、まずは結納が先かしら!?」
聞こえて来た内容から相手はお隣のママ友にして桜の母親なのは丸わかりで……あからさまに浮かれるオカンの様子に大和は真っ赤になりながら頭を抱えた。
「どっちも早すぎるっての……」
「あはは……ま、まあ定番の幼い頃に結婚の約束~ってのは親同士でもやってたからね。冗談の類とは言えさ」
「俺はもう、冗談で済ます気は無いけど?」
「うん、それは私も……」
そして再び見つめ合うと、今度こそ唇を重ね合う二人。
本日の休日を楽しくお出かけするのか、それとも怠惰にこのまま部屋で過ごすのか……そんな恋人同士としてはありふれてはいるけれど、どちらが欠けても出来ない当たり前の瞬間をこれからどう使うのか。
それは二人のみにしか分からない事であった。
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降ってわいた子供たちのゴシップに色めき立つオカンがお隣さんと電話口で盛り上がる中、付けっぱなしのテレビで密やかに、とあるアニメの第二期のCMが流れていた。
「勇者ヤマトの存在を否定する第二期。主人公は誰もが知る意外過ぎるアイツ!?」
その視聴者を挑発するかのようなセリフと共に流れる映像……。
誰もが知るというワリに、その主人公の見た目は第一期を何度見返しても分からないと考察勢の連中を混乱させる事になった。
しかし同時に一緒に戦うヒロインらしき女剣士については“前作で金髪の女剣士はあのクソ女しかいない”“もしやあの女の妹? もしくは子供?”などと言う惜しいようで遠い意見も飛び交ったらしい。
しかし結局主人公に関しては本編が始まるまで、一期の冒頭で殺されるヤツだと予想が立つ事は無かった。
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