第九十八話 なかまにい~れ~て!
無茶苦茶な空輸を実行する俺達だったが、目的も無くこんな事をしているワケではない。
偉そうにいつも見下し人を人とも思わず虐げて来たババアが泣き叫び命乞いをする……ちょっと楽しくなっているのは否めないが。
だが何度目かの空中疾走……一人射撃と爆風で荷物を吹っ飛ばしていたリリーさんがミスリルの弾丸を爆発させた瞬間に声を上げた。
「あ、マズ! 悪い、飛ばし過ぎた!!」
「……あ」
一応目測でそっちの方という感じで飛ばしていたのだが、俺やカチーナさんと違って爆風で吹っ飛ばすリリーさんはコントロールが難しかったようだ。
強すぎた爆風は
バチッ!! 「ぶぎゃ!?」
基本的に防護結界にぶつかれば侵入者を阻む為に電流のようなショックが起こり一時的に張り付いてしまう。
それこそ窓ガラスに張り付いた羽虫の如く……。
そして当然だが、ショックを受けて全身痙攣して結界に張り付いた的なんて狙いやすい物を見逃す手はない。
ヴァリス王子が操る黒い巨人は見事な跳躍で飛び上がり……的に狙いを定めて拳を繰り出す。
『よおおし! 喰らえ化粧お化け!!』
「がぎゃぎゃぎゃぎゃ!?」
結界のショックかそれとも拳に潰される恐怖なのかは分からないが、珍妙な奇声を上げて泣き叫ぶ王妃。
このままあのババアが巨大な拳をまともに喰らえば結界と拳に挟まれる形で爆発四散する事は間違いない。
晴れて憎くてたまらないヤツに復讐が叶ってヴァリス王子も同調した邪気もニッコニコ、それで騒動は解決になるかもしれない。
ただまあ……さすがにそれを見逃すのは……。
「後でその辺の掃除する人が困るだろ少年!!」
「復讐は丁度良い加減でやるものだぞ!!」
慌てて追いついた俺とカチーナさんは結界に引っかかった王妃から伸びる綱に取り付いて二人同時に、強引に引っ張った。
間一髪で巨人の拳から逃れた王妃は結界のせいで髪がチリチリになり、より一層面白い事になっていたが四散するよりゃマシだろう。
そして黒い巨人の拳はそのまま結界へと直撃した。
ドガアアアアアア!! パキイイイイイイイイイン…………
直撃の轟音に続いて鳴り響いた乾いた音は本日2度目の結界が崩壊した音……。
さっき再構築したばかりの王宮全体を覆っていた結界は、今度は物理的な攻撃で易々と消し去られたのだった。
『むう……また外れた、やるねぇお兄さんたち……』
そして聞こえてくるのはやはり憎悪や悔しがる声ではない、むしろ感心したような声。
王宮の結界を物理的な攻撃でぶち抜いた事の方が凄い気がするけどな……ただ。
「少し予定と違ったが、コレでワザワザ正門を通る必要は無くなった! グール、このまま目的地まで直接ぶん投げるぞ!!」
「りょ、う、か、いいいいいいいいい!!」
本当は唯一結界の通り道になる正門からヴァリス王子をおびき出すつもりだったのだが、王子自身が空中の経路を確保してくれるとは予想外だった。
しかしそれはむしろ好都合……俺とカチーナさんはそのまま二人分のパワーで王妃を振り回して王宮の外に向けてぶん投げた。
ザリ……「いぎゃあああ!?」
……何か一瞬振り回す時に屋根にこすった気がしたけど……ま、いっか!
そして黒い巨人は当たり前のように吹っ飛んでいったターゲットに狙いを定めて跳躍するが、追いつくかというところでまたもや空中で起こった爆発のせいでターゲットを逃してしまう。
既に配置についていたリリーさん……今度は正確に目的地の方向に向かって吹っ飛ばしていた。
射撃後に再び走り出したリリーさんと合流、三人そろって今度は城下町の屋根から屋根へと早朝訓練と同じように疾走していく。
「結果オーライって言いたいところだけどポイスン! 本当にこっち方向で良いのか? 目的地に空中から侵入ってのは中々強引な気もするけど……」
今更だが俺はリリーさんに確認する。
なにせ目的地についてこの中で最も詳しいのは彼女なのだからな……俺の質問に彼女は狙撃杖を担いだ状態で走りつつ、小さく頷く。
「問題ない、って言うよりあそこに到達するにはそれしか無いよ! 王宮みたいに大仰な結界こそ無いけど一応宗教上の拠点だからね、真正面だと警備がいるから余計な被害が出かねないしね」
「……ま、そうか」
「一番厄介なのが絡まないとも思えないけどね……」
「……ん?」
走りつつ何やら呟いたリリーさんに不穏なモノを感じつつ、俺は次に肩口にしがみ付いているドラスケに話しかける。
「ドラスケ! 邪気の動向はどんなもんなんだ? このまま目的地に到達しても“吸引力”で王子に劣っていたら意味ねーけど?」
『それについては心配いらん。何せ向こうは千年以上王都の邪気を取り込み続ける大ベテランであるからな……それに』
ドラスケはそこで言葉を切ると背後から轟音を立てて追いかけて来る黒い巨人をチラリと振り返った。
『あの坊主の操る邪気の塊から少しずつ、邪気が消失して行っておるのだ』
「うえ? マジで?」
釣られて俺も振り返ってみるけど、見た目はさっきと変わらず黒い巨体を維持したままで変化があるように見えない。
ドラスケ曰く、任意に実体化でもしない限り俺みたいな一般人に邪気の視認は出来ないらしく、変化は全く分からないのだが……アンデッドのドラスケにはそれがハッキリと分かるらしい。
『今坊主が操る邪気は元々王宮で漂っていた邪気の一端、ほとんどが王宮やら王妃やらに対する負の感情である。その対象があのような扱いをされているのを目撃して満足した輩が浄化、消滅しているのだ』
「ああ……」
以前王妃は「おぎゃああああああ!?」とかバラエティー溢れる奇声と、みんなを笑顔に導くスバラシイ顔面で空中を疾走している。
そんな姿に感動した邪気たちがいたって事なんだろうか?
「……じゃあこのまま続けていれば邪気は完全に浄化できねーのか? それこそトロイメアの時みたいに」
俺が何となく以前の例を挙げて聞くと、ドラスケは首を横に振った。
『それはさすがに無理であるな。あの王妃は今まであらゆる恨みを買い過ぎておる。ちょっと恐怖を感じて恥をかいた程度で浄化できる輩は少ないであろうな。それこそ殺しても飽き足らない連中の想いの方が多いからな』
「……ドンだけ恨まれてんだよあのババア一人が」
そんな
王都であるのに中央は王宮ではないザッカールにおいて、建国時にある目的の為に中央部に建築され、そして完全な中央にはある機構を施されたと禁書庫の古文書には記されていたザッカール王国精霊神教の総本山。
王都中の邪気が強制的に吸収されている場所であった。
俺達の計画は実に単純……王都で最も邪気を吸収する場所までヴァリス王子を誘導して、強制的に邪気の力を取っ払おうって魂胆だ。
ドラスケからは吸収した邪気を奪えたヴァリス王子であっても、さすがに王都中の邪気を吸収するココには敵わないハズ……。
「見えた! エレメンタル教会!!」
「よ~しこのまま大聖堂まで突っ込んで、少しは親の義務を務めてもらい…………」
しかし、もう少しで目的地のエレメンタル教会の敷地に入るかという時だった。
ヴァリス王子誘導の為に教会の敷地内へと王妃を放り投げたというのに、その王妃自身が何者かに“掻っ攫われた”!
「な!?」
「おやおや~……こんな遅くにボール遊びとは楽しそうじゃないかい。しかし本日の礼拝時間は終了しているから教会の敷地で遊ぶのは遠慮してもらいたいとこだね~」
その人は不敵に笑う老女……赤い法衣を纏っているのにちっとも派手ではなく、むしろ激しい気性と厳格さを兼ねそろえた『大聖女』という地位にふさわしい出で立ち。
エレメンタル教会の避雷針の上に片足で立って右手に巨大なメイス、左手で呻き声をあげる王妃の頭を鷲掴みにして……実に楽し気に笑っていた。
「けど、どうしても遊びたいなら……このババアも混ぜてくれるんだろうねぇ?」
その瞳は彼女の司る精霊を象徴するように炎に彩られ……俺達『ワーストデッド』だけではなく、背後から追いかける黒い巨人も見据えていた。
「あ~~~~やっぱりしゃしゃり出て来るよね……この戦闘狂なら」
リリーさんの深いため息と共に漏れた呟きは……今度こそ俺にもハッキリと聞こえたのだった。
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