第九十話 悪の組織の定番理由
超解釈……自分でもそう思うけど、口に出してみて違う、あり得ないと断定出来ない可能性にカチーナさんもリリーさんも困惑した表情を浮かべる。
「い、幾ら何でも強引過ぎるだろう? そんな事が出来たとしても……」
「そうよ! ゴブリン何て魔物の類は人が想定してように動いてくれるとは限らないじゃない」
これから何が起ころうとしているのを想像して反射的に……と言うか願望的に否定意見を口にするが、意外にもそれまで黙っていたロンメルのオッサンが冷静に口を開いた。
「しかしここは云わば王宮という閉所、たった一匹でも侵入を許す瞬間があったとなればその言い訳は立つのであろうな。人は蜂の一刺しでも死に至る危険はある……絶えず鍛え上げた筋肉も一瞬の油断で肉塊と化すが世の不条理にして真理。目撃者がおらずに侵入したゴブリンの骸でもあれば良いのだからな」
「……だな、死人に口なしってな」
直情、脳筋とは言えオッサンも異端審問官……この手の魔物を使った隠蔽工作は何度も遭遇しているのだろう。
否定意見を述べつつも本当は分かっている二人もオッサンの言葉に諦めの溜息を吐いた。
そして再び襲い来る黒尽くめたちに対峙する俺達……。
確実に陣形を守りつつ迎撃するのだが一向に数が減らない状況……倒す傍から新たに現れる連中にいい加減イライラして来る。
「でもさ……そこまで大々的に計画してたんなら、この状況は腑に落ちないんだけど!? テンソの総数が何人かは知らないけど、ここまで私たちに人員を割いたら本命の暗殺に移れないんじゃないの!?」
もう何発目かも分からなくなって来た魔弾を射出しつつ、リリーさんが口にした不満は正に俺たちの心情その物だった。
後から後からワラワラと……目撃者を消そうって考えは分かるが各々が課せられた本命を叩く為なら即時始末出来ないとなった時点で引くべき、そして暗殺の機会を伺い潜伏するかもしくは日を改めるべきだ。
ムキになってイレギュラーの排除に仲間を集める必要がある気はしないが……。
「ここに潜んでいた連中も全体の任務としてはついでなのでしょう。本当の本命を隠す為のカモフラージュ……黒幕にとっては“出来たら良いな~”くらいの」
「……その言い方はターゲットに失礼だな。せめて“ついでに死んでくれたら嬉しい”とくらいには持ち上げてやれ」
その答えは相変わらず異次元の戦いを繰り広げる師弟だってらしい二人が、幽霊の如く存在感なく不安定に教えてくれた。
つまりコイツ等はその“ついで”を諦めた上での本命を成す為の足止め役という事か。
本当だったら部下連中はともかく団長のジルバが直接俺たちに対峙していたら事は終わっていただろうに、俺たちにとっては運よくこの場でヤツ対応出来るホロウさんが来てくれたお陰でこの場に俺達を推し留める事を優先したって事なのか?
となるとターゲットはやはり後宮の奥にいる誰か…………。
「やれやれ、王妃様や側妃様たちは何故にそれ程回りくどいマネを……己の地位の確立、実子の立太子の為なら親兄弟、親戚、一度は体を許した男であっても笑顔で毒殺し寝首を掻き切れる方々にしてはらしくもない」
「はん……あの自己評価にしか興味の無い国王が自ら我が子として保護した庶子なのだぞ? 我が子に注がれぬ寵愛を受けた子を自分たちが亡き者にしたという疑いを持たれたく無いのは当然の事……。人に殺されたという可能性なく無関係に死んで欲しいという事は……ホロウ、アンタなら想像出来る事だろう?」
「はあ……八つ当たりの思い込みも大概ですね~あの方々も…………根本的に考えが足りない」
ため息交じりに嘆くホロウ団長の言葉に、俺たちは本日の本命……誰が狙われているのかを知る事になった。
正直言って予想通りとも言えるけど……。
「!? つまりこの騒ぎは“自分たちは関与していない”という建前を作りたいがための演出で、最終ターゲットは本日後宮にいるはずのヴァリス王子か!?」
「手の込んだ事しといて、結局は年端の行かない子供を殺したいだけか。何ともお粗末な発想……結局後宮の奴らも国王に嫌われたくないだけとはね!!」
「子供であると!? こやつらの、いや化粧お化けたちの目的が己が手を汚さずに未来ある子供を亡き者にする事であると!? 何と……恥を知らぬ」
暗殺対象がヴァリス王子である……それを知った事で仲間たちの怒気が膨れ上がる。
基本心理が直情的に出来ている俺たちはこういう話に着火しやすい。
ハッキリ言えば闇落ちしてしまえば一直線に突っ走ってしまう程である事は『預言書』が証明しているから良くも悪くもあるんだが。
ただ、ここで怒る事の出来る仲間たちに気分の良さはあるものの……俺はどうしても何か腑に落ちない。
寵愛を受けている(と思い込んでいる)王子として認められずに王宮に押し込められているヴァリス王子を自分たちの命令と国王に思われないように始末したい……その考えは手前勝手で死ぬほどムカつくが……理解は出来る。
腑に落ちないのは調査兵団テンソの行動と団長ジルバのやっている行動だ。
今現在パーティー会場にいるだろう“ついでに”と言っていたターゲットたちについてはこれから事が起こってからじゃないと狙えないのだから分かるが……それこそ俺達をここで足止めする意味が分からない。
本命のいるターゲットに今から何分後に到達するか分からないゴブリンたちが遡上を終えて侵入を果したのを見計ってから始末するための時間稼ぎ……一見理にかなっているように見えてやはり腑に落ちない。
だって……どうせ犯人役をゴブリンに押し付けるつもりなら、ここで俺達を足止めする必要なんかありはしない。
事が起こる前に“先に殺しておけば”そんな手間はいらないんだから……。
元々連中にとって俺たちの存在もホロウ団長がこの場にいる事も全てがイレギュラー……仮に俺達が全員いなかったとしたら、連中のやっている行動が奇妙に思える。
俺がそんな事を思えるのは『預言書』を知っているから……本来の未来では俺もカチーナさんもリリーさんも、王宮侵入に協力してもらったノートルム氏もシエルさんも、懲罰目的で王都に残されていたロンメルのオッサンだって今日この場にはいなかったハズなのを知っているから。
そしてヤツの計画には無かったハズの最大の難敵であるホロウ団長と唯一対抗できる自分自身がワザワザ時間稼ぎに立っているというジルバの行動……。
本来の、『預言書』の語る未来では……一体何があったのか……?
冷や汗が噴き出る、喉が急速に乾いて行く……だけど考察を止めてはいけない。
知識でも技術でも策略でも経験でも何一つ俺はあの二人に及ばないが、唯一先を行ける事は『預言書』を知っている事。
公私を問わず腐敗した王国であっても国の為という事を優先する調査兵団団長のホロウが『聖尚書』として人類に反旗を翻すのを良しとした未来を知っている事だ。
だったら何が切っ掛けだ?
あの化け物が今更『聖騎士』や『聖魔女』のように人間らしい理由で絶望するとは到底思えない。
あくまでも結果優先、そっちの方が国の為になると思ったからこそ主と認め力を貸す存在になる……己を悪の手先として罵られる立場になろうとも。
そう考えて……俺は今までの人生でも考えうる限りで最も危険で頭の悪いカマかけをする事にした。
今現在多分俺の事は脅威とも思っていない強者で、何もしなければ注目も浴びる事はなかったハズのヤツに対して自分の首を差し出すくらいの緊張を持って……。
「ジルバさん……っつったよなアンタ。ちょっと聞きたい事があんだけど……」
「……………………」
「アンタ……一体誰に聞いたんだ? ヴァリス王子の母親が誰なのか……いや」
相変わらずユラユラとした幽霊のような動きを繰り返しホロウ団長を睨み続ける黒尽くめの男は俺の言葉に反応する事も無く動き続ける。
しかし……その淡白な反応は次の言葉で一変した。
「“何なのか”……」
「!?」
ガギイイ!!
次の瞬間、俺は自分の首に突き立つ寸前のダガーを辛うじて受け止めていた。
それは今までホロウ団長と同じく気配もなくユラユラ動いていたと言うのに、俺の一言で突如爆発的に殺気が膨らんだ事、そして絶対に狙われる事も予想していたからこその奇跡的な偶然と言えた。
そうでなければ俺の首は胴体と泣き別れしている!!
遅れて更なる冷や汗が全身から噴き出した時点で、割り込んで来たホロウ団長が目の前に迫っていたジルバを蹴り飛ばし俺の前に立っていた。
そして滝のようにドッと汗を拭き出させる俺に出来の悪い生徒を諭すような困った顔で口を開いた。
「ギラルさんいけませんよ……そう言うカマかけは相手を選んでやって下さい。ジルバがあのように取り乱すなど、修行時代以来の珍事です」
「ス……スマンッス……ちょい見込みが甘かった……」
正直ホロウ団長が何とかしてくれるかな~って打算もあったけど、あの一瞬でここまで接近されるとまでは予想できなかった。
そして当の本人はと言うと特に外傷もなく立っていて……今や警戒すらしていなかっただろう俺に対してホロウ団長に向ける以上の殺気を込めた目を俺に向けていた。
「貴様……何を知っている?」
「質問に質問で返さないで欲しいな。まあ少なくともアンタが何かを『覚醒』させようとしている事くらいは…………」
「!?」
「……当たり……かよ」
ホロウ団長の弟子というからには感情の抑制も相当鍛錬しているだろうに……俺はそんな分かりやすい反応に内心溜息を吐いていた。
ハッキリ言えば確証は何もなかった。
状況的に、そしてドラスケが意図的にヴァリス王子に張り付いた事も鑑みて……何かはあるだろうと思って言ってみただけなのに……。
『良くあるんだよな~物語中で覚醒を促す為にワザと手加減してました~とか、サンプルのデータを取ってました~ってヤツが。大抵は加減間違えて対象の怒りを買って皆殺し~全部巻き込んでドッカ~ンってのが定番なんだけどな~』
俺は『預言書』での勇者の覚醒の場面で神様が呟いていた言葉を今になって思い出す。
「神様よう……これが……テンプレってヤツなんですかね?」
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