第八十一話 闇色のパズル
「ギラル……貴方が憶測で話していた王都中の『邪気』を建国時から一部に溜め込んでいるんじゃないかってヤツ……どうやら憶測や妄想じゃすまないみたいよ」
「マジで?」
「マジで……」
少しでも冗談めかしてくれないかな~って俺の期待は完全に無視される。
どうしてこうも世の中は嫌な予想ばかりが当たってしまうのか……。
リリーさんは解読していた古文書をテーブルに開いて見せて来た。
そのページには古代亜人種言語の文章の中に、何やら挿絵が載っていて……形は四角形の四隅に丸があって中心部に二重丸が記している何かの図のようだが?
「千年前の言い回しだから若干私の個人的見解も混じるけど、古文書には千年前に世界……いえ“この大陸”で起こった出来事からその後始末についての説明みたいよ。『最終戦争にて辛くも勝利した我らはこの地に国を打ち立てる。だがその後より肥沃な大地は乾き、大森林は枯れは果て、遂にはあれ程巨大であった湖すらも消失。捕らえられえた亜人曰く、同胞たちの怨嗟、無念の想いが力として大地に災いをもたらした…………以降我らは、特異なモノしか感じらぬその力を『邪気』と命名」
思わず俺は息を飲んでしまった。
禁書庫で見付けた千年前の地図にあった大森林や湖が戦争の煽りで消失したと思っていたが、実はその逆で戦争後に『邪気』の影響で無くなっていたとか……あの眼鏡司書、分かっていて正解を教えなかったな……心の中で軽く愚痴ってしまう。
「大地を穢す『邪気』祓う為、建国の際我らは建国時亜人の教えにて浄化設備を設置……東西南北、そして中央にて『邪気』を地に封じ浄化を促すものなり……この四角形の図形がその浄化装置を現しているみたいよ」
「建国時に設置って……事は……」
「二人とも……コレ見て」
そして次にリリーさんがテーブルに広げたのは王都ザッカールの地図……この国が初めての冒険者や観光客に重宝される店や観光地が書いてある簡素なものだが、リリーさんは
既に“その場所”にチェックを入れていた。
「王都ザッカールに精霊神教の教会は計5つ、中心に当たるのが本日君たちが観光を楽しんだエレメンタル教会って事になるわ」
「今まで微妙に王都なのに一番の拠点の王城が中心に無いとは思っていてけど……四角の中心どころか、地図上でも王都の中心はエレメンタル教会じゃねーか……」
「……私も『邪気』って概念を知らなきゃ何の危機感も抱かなかったでしょうね……なんせ私たちには認識できないんだもの」
ドラスケ曰く『邪気』は元々感情の塊……放っておけば大気に散り、大地に吸収され消え去る程度のモノだが、生き物がいる限りは必ず発生するものらしい。
だけど俺たちはドラスケが自分の体を使って吸収した邪気ってヤツを目の当たりにした事がある。
本来なら消し去る為に小出しに大気に拡散する予定だったらしいが、トロイメアの一件では邪気の原因になった連中に対して恨みを晴らす事で浄化出来た稀有な出来事だと言っていた。
では建国前に虐殺されただろう亜人達の邪気はどうだろうか?
自分たちが無残に殺されたその地で平然と発展し、自分達への所業すら忘れて呑気に暮らしている人間を見て……気など晴れるだろうか?
なんだったら……。
「古文書で邪気の浄化方法を教えた亜人って……本当に浄化装置を設置したのか? 同胞を殺されたヤツが正直にそんな事をするもんかね?」
「……古文書では実際に『邪気』が無くなったお陰で大地が正常に戻り、人間が生活できるまで回復したって事だけどね……千年たった今でも“ソレ”が機能しているかもしれないと思うと……ね」
リリーさんも同じ事を考えたんだろうな……顔が引きつっている。
何よりもおっかないのは集めて溜め込んでいるとしても、その邪気というのは俺達には見る事も感じる事も出来ないという事……。
『預言書』の『聖王』がそんな力を自在に使える死霊術師だとするならば、これ程都合の良いシステムも無いだろうな。
「……となると教会に伝わる4人の勇者と精霊神の伝承は虚偽という事になるのですか? 大地を浄化したのが精霊神ではなく浄化装置なのだとすれば」
「ん? どういう事??」
「君も疑問に思っていたじゃないか? 魔族により穢さていたこの地を4人の正義の味方が魔族の王を倒した事により精霊神の慈悲で浄化された伝承は真実に蓋をする為の改竄なのではないかと」
カチーナさんにそう言われて俺は自分がそんな事を言っていたのを思い出した。
そもそもその疑いが元で『邪気』の王都中から集めている仮説を立てたようなもんだしな……まあ確かに略奪した結果呪われた地を何とかする為に~では外聞が悪いと千年前の連中も思ったのかもしれんが……。
「ま~確かにここまで来れば教会の伝承も都合よく捻じ曲げた話かもしれないな~。あんまり露骨に変えすぎてもマズいから少しは共通点を持たせ………………あれ?」
俺は自分で言いつつ、今物凄く重要で“気が付かなきゃ良かった”と思う符合を見付けてしまう。
エレメンタル教会を中心に4つの教会が東西南北を囲むように配置されている。
4……それは教会の伝承で伝える魔を滅した正義の味方の数と同じ…………そこまでだったらホロウ団長を含めた調査兵団だって気が付いたハズだ。
ただ、ホロウ団長らと俺が決定的に違う情報、いや認識をただ一つだけ持っている。
古文書による解説には王都に設置された『邪気』を集めるシステムとしか明記されていない……この認識では溜め込んだ『邪気』の危険性は理解できるがそこまでだ。
邪気が意思を持った一個人『邪神』として復活する可能性何て、『預言書』で四魔将が復活を試みる事実を知っている俺にしか今現在には疑う事が出来ない事。
ゾ…………。
完成させたくないパズルが脳内で組上がっていく……組上がる度に鳥肌が立ち冷や汗が流れ落ちて行く。
『千年前建国されたザッカールの邪気浄化装置』
『滅ぼされた長命種亜人の生き残り』
『聖王を名乗る死霊使い』
『王都の中心にあるエレメンタル教会』
『現国王の隠れ家』
全てバラバラであれば気が楽なのに……ドンドン仲良く手を繋ぎ、悍ましくみたくない絵を完成させて行く……。
そして最後に決定的なピースを寄越したのは……やはり神様の教えの一つ。
『昔の人は自分たちの理解できない物を神様の仕業と考えたらしい。その中でも日本人は病気や不幸でさえも神様の仕業って考えたんだ。疫病神とか貧乏神とか……』
「ちょっと大丈夫かギラル君!? 真っ青だぞ!!」
「どうしたのよ急に!」
俺が急に黙ったまま顔を青くしているのを心配したのだろう二人が俺に声を掛けてくれたが……俺は大丈夫とも言えず、自分が考えてしまった異端や邪教徒どころでは済まないだろう思い付きを口にする事しか出来なかった。
「なあ、二人とも……4つの建物、4人の英雄に囲まれたモンって一体何なんだ?」
「「…………は?」」
「リリーさん、エレメンタル教会の大聖堂は教会の中でも中心に位置するんじゃないの? そしてあの王子様が見つかったのは、その更に中心に位置する精霊神像の前……」
「へ? ええ、そうですけど……よく知ってましたねそんなマニアックな事……」
手が震えだす……知ってたワケじゃない……予想が付いただけだ。
この予想が出来るのは『預言書』を見た事のある俺だけだろう。
多分それも全てではない、大正解ってのを知っているのは王都にもただ一人しかいないんだろう。
“それ”との子供を授かるほど親しい人物でもない限りは……。
「二人とも…………『精霊神』って一体何なんだろうな?」
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