第五十一話 目標は最強のマスコット枠(笑)


 お土産……つまりはトライメアの町に関する悪行を証明する何かって事なんだよな。

 シエルさんたちとは別ルートで奥へと進んでいくカチーナさんの背中を見送りつつ、俺は一人首をひねっていた。

 この場合では目撃証言は意味がない……例えば俺がこれから町に戻って件の町長(偽)連中が虐殺やらミスリルやらの話をしていたの聞いたとしても証明する物はないからな。

 証明しうる何かがあるかどうか……そこからしても問題なんだよな~。


「連中が偽物の住民であると証明する方法よりは……不当にミスリル採掘を強奪、独占しようとしている証拠を固めた方が手っ取り早いだろうか……おっと」


 俺はそんな事を考えつつ坑道を引き返し……そこかしこに倒れている遺体を踏まないように気を付ける。

 変な話だがこの辺も昨日より気になってしまう。

 昨日は襲い来るアンデッドとして対峙していたけど、今日は物言わぬ遺体なのだから。

 よくよく見てみると、やはりその年齢層はバラバラ……子供から大人、老人まで倒れていて……一つの町を構成する住人としてはおかしくない感じだった。

 そして……よく見ると大人の遺体には何らかの致命傷が見受けられ、反対に子供の遺体にはそれっぽい傷が見当たらない。

 アンデッドとして昨日俺達が付けた傷以外は見当たらないのだ。


「……? 何だコレ……大人に比べてこの傷の少なさは……んん?」


 何か……物凄く重要であり、心から気分の悪い何かに俺が気が付きそうになったその時だった。

 俺の『気配察知』で頭上から素早く襲い来る小さい何かを感知したのは。


ガキイ!!

「な、なんだ!?」


 俺は咄嗟に“ソレ”を引き抜いたダガーで受け止めたのだが、受け止めたその物体を目にして俺は言葉を失った。

 それはぬいぐるみを彷彿させるような大きさの、小さなドラゴンの骨だった。

 いや正確には兜と剣を持った人型のドラゴンの骨……そんな形容しがたい魔物が目の前に現れたのだった。

 おまけに……。


『おのれ若造! ここで会ったが百年目!!我が生涯を締めくくるに相応しい剛なる聖女との決闘に水を差しおって!! そこに直れ、成敗してくれる!!』

「な、なんだなんだ!? しゃべれんのかコレ!?」


 どういう理屈なのか言葉すら発する小さな魔物。

 アンデッド……なのだろうけど、その小さな体を生かして小回りを利かし縦横無尽に襲い来る動きは中々に厄介だ。

 しかし俺だって盗賊の端くれ、スピードを生かした戦い方で後れを取るつもりはない。

 まるで蜂の如くまとわり付くような素早き動きを冷静に見極めて、手で払うのではなく足を使って意図した方向に誘導していく。

 そしてそんな応酬を何度か繰り返した後、こっちとしては予定通りに、向こうにしてみれば突然に魔物は動きを止めた。


『ぐわ!?』

「スットラ~イク……」


 かわしつつ逃げつつ、俺が張り巡らせていた“デーモンスパイダーの糸”にソイツは突っ込んでしまい、捕らえられた蝶の如く動きを封じられてしまった。

 何とか脱出しようともがいてみるものの、脱出する事が出来ないソイツは俺を睨みつけて来た……骨だから目は無いけどね。


『またしても貴様はこのような姑息な真似を!! 正々堂々という言葉が貴様には無いのであるか!? 騎士道の欠片も持っとらんのか!?』

「……そう言うのは仲間の無事が確認出来てからゆっくり考えろってのが師匠の教えなんでね。にしても……何なんだお前は? しゃべれるんなら教えてくれよ」

『き、貴様!? まさか我が分からぬと言うのか!?』


 その瞬間、今までの怒りの口調とはかけ離れた……何と言うかショックを受けて泣きそうな感じの反応をしだす小さな骨の竜。

 そう言う反応をされるとそこはかとなく罪悪感的なモンが湧き上がってきて……いや、待てよ?

 聖女との決闘を邪魔して姑息な真似をしたって……それってもしかして!?


「お前!? もしかして昨日のスカルドラゴンナイト……なのか!?」

『当たり前であろう! 我が最後の戦いと挑んでおったのに逃げ回った末に最後は仲間の弾丸に助けられるとは……最期の相手が貴様だったのは納得がいかんぞ!! やり直しを要求するのである!!』


 妙な場所で妙なヤツと妙な再会を果す。

 ……いや、コレを再会と表現していい物やら分からんが。

 そもそも現状のこいつはスカルドラゴンナイトと言うよりは、ドラゴンとナイトの要素を足して二で割ったみたいなフォルムになってるし。

 そこを指摘すると何故かソイツは自慢げに語り出した。


『光の魔力によって弱体化し、風の弾丸で魔核を吹っ飛ばされてそのままでは体の構築が出来ず闇の魔力の全てを失うところだったがな、このままでは死に切れぬとドラゴンとナイトの魔核を融合させてスカルリザードとして生まれ変わったのだ!!』

「生まれ変わったって……お前アンデッドじゃね~のか? 動く屍だろうが」

『やかましい! 野暮な突っ込みはよすのだ若造!!』


 ワチャワチャと動き、俺に抗議しているようだが糸は絡み付くだけで一向にほどけず……暫くすると自称スカルリザードは諦めたように動かなくなった。


『おのれ~口惜しい。弱者の怨嗟の声に応えてこの地に赴いたと言うのに、このような辱めを受ける事になろうとは……一生の不覚!』

「え? ……お前は最初からここにいたんじゃなく、外から呼ばれたのか?」


 しかし悔しそうにスカルリザードが呟いた言葉が俺は気になった。

 

『……当然であろう。本来我は200年前の今は滅びた王朝に仕えし竜騎士の成れの果て。か弱き嘆きを漏らす亡者の声に呼ばれてはせ参じたまでよ。幼子の悲痛な叫びが無くば、このような地の底に来る事は無かったであろう』

「あ~~~そうなんだ」


 まさか本人からそんな事を聞けるとは思わなかったな。

 何となくギルドの依頼書も、シエルさんたち聖職者も、何だったら町の連中ですら坑道のアンデッドは上位種のスカルドラゴンナイトが率いていると思い込んでいたのに……スカルドラゴンナイトは外からここに来たというのだ。

 亡者となってしまったアンデッドたちの声に呼ばれて……。


「つまり……お前はここにいる人たちにとって味方なんだな? 形はどうあれ彼らを守る為にここに来たんだったら」

『…………』


 俺がそう質問すると、スカルリザードは驚いたような顔をして俺を見返した。

 ……骨だから表情は分からないけど、そんな気がしたのだ。

 

『若造……お前はこの連中を、アンデッドを人として扱うのか? 昨日は貴様らを食い殺そうとした者どもであろうに』

「……アンデッドじゃ無くなった今、この場にいるのは生を終えたご遺体だろう?」

『…………』

「それに俺はお前みたいに亡者の声何て聞こえね~けどな……無念を晴らす肩代わりくらいはしても良いんじゃね~かって思っててな」

『そ、そいつは!?』


 俺がリリーさんから預かっていた例の日記帳を取り出して見せた途端に驚いた反応を見せるスカルリザード。

 どうやらこいつがどんな代物であるのかコイツは知っているようで、そして現在俺が何をしようとしているのかを察したようだ。


『若造、貴様名は何という?』

「さっきから若造って……喩え骨でもそのちんまいナリで言われると違和感しかねぇけど……ま、200年も前のアンデッドなら爺様でも若造か。ギラル……ザッカールの王都を拠点にする冒険者にして盗賊、ギラルってもんだ」


 俺が自己紹介するとスカルリザードは一つ頷いて見せた。


『そうか……ギラルよ。貴様が何を成そうとしておるのかは分からんが……少なくとも戦闘とは違い今は虚偽は無いようではあるな』

「戦闘と違ってって……否定はしねぇけどよ、回避離脱が主な盗賊に真っ向勝負とか無茶言うなよな~。昨日囮役になってお前の相手してた時だって死ぬかと思ったってのに」

『ふん、まあ普通ならそうであるか。己が土俵でないからと相手をなじるのも騎士道に反するか……ましてや亡骸に敬意を表する男に対して……』


 そう呟いたスカルリザードは意を決したように顔を上げた。

 相も変わらず表情も何もないけど、その様が妙に凛々しく見えるのだから不思議なモノで……一見出来損ないのマスコットにしか見えない骨人形が、昨日のスカルドラゴンナイトだったと言うのに一定の説得力がある気がしてしまう。


『若造……いやギラルよ。その日記の娘の意を汲もうとするのならば、我も連れて行くが良い。死人に口は無いと思い込む外道共に死者の叫びの一欠片でも届ける手助けをするなら、アンデッドたる我は打って付けであるぞ?』

「……はい?」


 妙な場所で妙なヤツと妙な再会を果たし……妙なヤツが仲間になると言い出した。

 俺が思考停止している間にもクモの巣にかかったままのスカルリザードは小さな翼をパタパタさせて話を勝手に進めて行く。


『そうと決まれば早くこの戒めを解くのだ。ああそれと……いつまでもスカルドラゴンナイトやらスカルリザードやらは面倒であるな。ギラルよ、なんぞ我に名前を授けよ、我にふさわしき武人らしい名が良いぞ!』

「あ……ああはい……ええっと……」


 そして俺は言われるがままに、武人だの何だのの注文を特に考慮する事も無く……小さなスカルリザードの素性安直に思い出し、脊髄反射でヤツの名前を口にしていた。


「ドラゴンのスケルトンで……じゃあドラスケで」




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