閑話 幼馴染な二人(リリーside)
明日のためのブリーフィングを終えた私たちは準備されていた部屋へと戻った。
当初用意されていた部屋は2人部屋が二つ、私たちと冒険者で分けられていたのですが「追加料金払うからお願いします! たまには一人で寝たいんです!!」という純情少年の必死の嘆願によりもう一部屋準備された。
「別に一緒でも良くないですか? お金勿体ないし」とサラッと流そうとするのが女性のカチーナさんである事で普通逆じゃね? と思わなくも無いけど……ここまでの道中で散々いじり倒した手前、ここは妥協してあげる事にした。
「や~いいね~ああ言う男の子、心が洗われるね~。普段顔で笑ってても腹の底で何考えてんだか分かんないヤツらばっかり相手にしてるから余計にさ~」
「ふふ、少しはしゃぎ過ぎましたか? 何か弟でも出来た気分ですし、カチーナさんに至っては久しぶりに出来たお友達ですからね」
貴族も王族も、挙句は同僚である教会組織の上司に至っても言葉尻でどんな上げ足を取るのか分かったモノじゃなく、顔を見ただけでもストレスが溜まる。
今は魔導僧として活動している私だが、火と風の適性があっても魔力を体外に放つ事に適性が無かった事で『狙撃杖』という相棒と出会うまでは出来損ないとして散々嫌味を言われてきた。
逆に聖女に任命されているシエルは逆の意味でその手の連中のストレスに晒され……ある意味では私よりも遥かにイラついていただろう。
何しろ光の精霊の加護を受けたシエルの魔法は他の属性よりも回復治療を含めて恩恵が分かりやすく教会組織としては信仰集めに利用したい、喉から手が出る人材なのだ。
ただ私は元より、見た目が清純そうなシエルも元は同じ孤児院出身の孤児……小さなころから大人の、社会の薄暗い世界を目の当たりにして来た事もあってその手の輩の甘言を一度疑う癖が最初から備わっていた。
自分が見て判断したモノしか信用しない……聖女としての清楚な仮面を被りつつもその辺の本質は変わらず、教会組織の輩からは利用しづらい事に苛立っているくらいだ。
ここまでシエルが明け透けに本音の顔を覗かせるのは私やロンメルさん以外では久々の事になる。
私も人の事をとやかく言えないけど、ロンメルさんもシエルも相当に脳筋の気が強いからね……一度拳を交えて分かり合ったらマブダチ~の傾向がある。
特にカチーナさんとは好戦を繰り広げただけに最早シリルの中では『
そして最初はカチーナさんの仲間という認識から入った盗賊のギラル君は過去教会と揉め事を起して飛び出したと言われる魔導僧の先輩ミリアさんからの情報で当初から好感はあったものの、会話を繰り返すうちに徐々にその認識にも変化があった。
……もちろんいじりがいのある純情少年である事は全く否定しないけど。
「ギラル君、なかなか面白い考え方をするね。何だが魔法とか魔力とかを精霊の奇跡とかって考えるより“一つの現象”として見ているみたいな……」
「……そうですね。どちらかと言えばリリーと考え方が近いのでは無いですか?」
そう言われて私は少し考えてみたが、即座に首を横にふる。
確かに私は元々魔法の『放出』が出来ずにありとあらゆる方法を模索して来た経緯もあって魔力を特別な力というよりも“方法があれば使える力”と考える傾向が強い……だけど。
「近い……かもしれないけど、あの考え方は目前の現象に対してより現実的だよ。私たちもある程度懐疑的ではあるけど『教会の教義』ってのに染まっているのは否めないしね」
「……仮にも異端審問官が言う言葉ではありませんよ?」
「……分かってるよ、シエルの前以外でいうワケないじゃん」
富や金を不浄のものとしながら寄贈されるものは金銭であるという矛盾に納得が行かず、エレメンタル教会内では教義に懐疑的である私たちよりも、あのギラル君は懐疑的……というよりは元より当てにしてないように思える。
ミリア先輩から聞いた彼の経歴は壮絶だった。
親の顔も知らずに孤児になった私たちと、親を目の前で殺された彼のどっちが不幸かとか考えるつもりは無いけど……少なくとも私にはシエルがいて、シエルには私がいた。
たった一人で生きる為に他人を傷つけ奪う、犯罪者としての盗賊に成り下がっていても不思議ではない程なのに……彼は当初の出会いでは死体から金銭を奪う事もせず町に届けようとしていたと言うのだから驚きだ。
自分が飢え死にしそうな極限状態なのに死者を悼むその姿勢……聖職者であるはずの私ですらその考え方に疑問を持ってしまう。
一体彼はいつどこで、そんな現実的な考え方を身に着けたのか……そしてどうやって奇跡的にも美人なお姉さんにドギマギする純情少年へと成長を遂げたのか?
「リリー、貴女は今までアンデッドという存在をどのように考えていましたか? 正直な所私は魔物の一種としてしか捉えていなかった気がします。遺体を邪悪な魔力により操られた故人を弔う……くらいは考えていましたが」
「そんなの……私も一緒だよ。人に害が及ぶ前に仕留める。発生したなら疫病が広がる前に浄化、燃やして葬る……それだけしか」
「そうなのですよね……」
聖職者であり異端審問官として派遣される私たちには特にアンデッドの即時殲滅は義務付けられている。
物理的な被害も土地の汚染や疫病の媒介を考えるとその対応は何ら間違ったモノじゃないのだけれど……速攻で浄化して来ただけにギラル君が言った疑問点について考える事は今まで無かった。
「彼の言う事は考えてみれば当たり前な事よね。死後の遺体は腐敗するし硬直した筋肉は固まって無理に動かせばボロボロ……ゾンビがゆっくりしか動かない理屈だよね」
「後に白骨化したのがスケルトンである……と言われれば納得しそうですが、だったらゾンビからスケルトンになるまでの期間と問われると……」
そんな事を悠長に観察する教会関係者はいない。
見た事しか信じないハズの私たちでもそんな事をしている暇があるなら討伐を優先するハズだからね。
「教義では“上位のアンデッドは下位のアンデッドを使役する”としかありませんが、では使役するための遺体をどこから調達したのかと言えば……200はある遺体はどこから?」
「……仮に件のスカルドラゴンナイトが他の地、墓地やら戦場やらから遺体をアンデッド化して連れて来たとしても……ギラル君の言う通りここまでくる間に腐敗が進んで今はスケルトンの集団になっていただろうね」
言いながら私自身無理があると思っている。
大体外部からそれだけのアンデッドをゾロゾロ連れてきたらそれだけでトロイメアの町は良くて町を捨てて逃亡、悪けりゃ壊滅状態になっていたかもしれない。
一月前のある日に突然現れました~では無理があり過ぎる。
“元々”私たちは今回の依頼、そして教会の動向についてキナ臭いモノを感じていたのだけれど……ギラル君のお陰でその臭いが更に強まった気がした。
「前衛のロンメルさんの懲罰に教会の他部署からの要請拒否、そして現地に着くまで狭くて暗いのに爆発炎上の危険が高い火気厳禁の炭鉱でのアンデッド討伐を伏せられていた事実……それだけでも怪しさてんこ盛りだったのに」
「あまり邪推はしたくないのですが……警戒は最大限必要ですね。リリー、今回は特殊魔弾は幾つ準備していますか?」
特殊魔弾……魔鉱石『ミスリル』で作られた直径一センチ程度の玉だけど、前もって魔力を込めて置けば『狙撃杖』での通常の攻撃よりも更に強力な魔力を放てる私の奥の手だ。
放出の出来ない私だがミスリルに己の魔力を充填させる事は出来る……坑道内では風の魔力しか使えないが、一撃で5~6体のゾンビを粉々に出来るほどの『空気爆弾』にはなってくれるだろう。
ただコイツにはごっつい欠点がある。
「ここ最近のミスリルの高騰で……6発しかないよ。なるべくは石ころでの援護射撃に徹するしかなさそうだ」
「世知辛いですね……」
金を不浄と言いつつも、こういう所でものしかかってくる金……。
不浄だから精霊神に捧げろとか、肥満体で宣う現大僧正の顔を思い出すとムカムカして来た。
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