第二十九話 ギラル君は思春期(笑)

 最近、私こと盗賊ギラルにはちょっとした悩みがある。

 それは……下らないと言えば下らない事かもしれないけど、男子であれば誰もが成長と共に思い悩む性についてだ。

 正確な年齢は育ててくれた両親も他界してしまって確認しようも無いけど、多分15~16歳だと思うが……世間一般の御多分に漏れず、俺も異性に対して並々ならない興味を持ってしまう世代らしいのだが……ハッキリ言えば最近までそんな自覚は余り無かった。

 そもそも俺はつい最近まで上級パーティー『酒盛り』のメンバーで、ガキの頃に拾って貰った経緯で、長い事スタイル抜群で姉御なスレイヤ師匠や豊満な体つきと慈愛の瞳でギルド職員となった今でも荒くれ冒険者共を笑顔で撃退(色々な意味で)しているミリアさんと一緒にいたのだが……あの二人に対して俺は“そういう感覚”を覚える事は無かった。

 何なら拾って貰った当初、ガキの頃には一緒に風呂に入れて貰った事すらあって、口を滑らせた結果ギルドの男共に殺されかけた事すらあったけど……その事を思い出しても“ホッコリ”はするけど“ムラムラ”はしない。


 そう言えば神様が豆知識的に言ってたな……『近しい血縁での繁殖行為は害になるから生物は緊急時でもない限り近親者に性欲を抱かないように出来ている』と……。


 そう考えると納得……あの二人がどれだけ美人で良い女であったとしても、ガキの頃拾って貰い守って貰った俺にとってあの二人は姉であり母。

 実際ミリアさんに限っては未だに『ギラルのママ』というレッテルが張られている。

 ……個人的にはそのレッテルが彼女の恋愛に影響しないかちょっと心配でもあるが……それはまあ置いておいて……。

 何故そんな事を悩んでいるのかと言うと、それは最近パーティーを組んだ人物に大問題があったからである。

 いや戦力、それに人格などに問題など無い。

 長年騎士として鍛え上げた剣術は凄まじく、盗賊の俺とタメを張るほど素早い足も持っていて戦闘だけでなく撤退の速さも俺達二人にとっては売りでもある。

 人格だって普段から品行方正、それでいて環境のせいもあって貴族らしくなく物腰柔らかい姿勢は不快感を抱かせない“好青年”と言えた。


 ある意味、その好青年な性格が問題なのだが……。


 俺は早朝から“勝手に王国軍から拝借していた鎧や兜”を軍の詰め所に適当に返してから、王都で滞在するときはいつも使っている宿『針土竜ハリモグラ』へと帰り着き……滞在中の2階の部屋に到着した。

 そして色々と複雑な想いを抱いたまま鍵を開けて……。


「あ……ギラル君、お帰り……」

「……………………」


 まず目に飛び込んで来た光景…………。

 おそらく全身にかぶった血糊を洗い流した直後なんだろうが……濡れた髪を無造作にタオルで拭きつつこっちを向いたカチーナさんは…………パンツ以外何も着ていなかった。

 俺はそんな無造作に艶めかしい彼女の肢体に……熱き血潮を噴出させて、ぶっ倒れた。


「わ!? ちょ、ちょっとギラル君!? 折角血糊を流したのに今度は本物で汚す気!?」


                 ・

                 ・

                 ・


「いつも言ってるでしょ!? プライベートな空間でも俺がいる時に気を抜かないで服を着てください!! 一応は貴族令嬢だったんでしょ!!」

「や~~すみません。ここまで親密に生活を共にする仲間は初めてですので……つい」

「ついって……もう一ヶ月は経っているってのに」


 俺の最近の、最大の悩みはこの人のこういった行動だった。

 一見貴族出身で情操教育もしっかりされていたかに思える彼女だが、長年の特殊な環境が影響して、恥じらいに欠けるところが多々あるのだ。

 この辺は魔道具で男性として学生から王国軍まで過ごして来た事が多大に影響しているのだろう……プライベートな他人の目を気にしなくてもいいと判断した時に見られる行動だった。

 ……俺の事を『仲間』として認識してくれていると考えれば嬉しいけれど、そのせいでここ最近彼女と行動を共にすると色々と……その……ヤバい瞬間が……ね?

 着替える、汗を拭く、水浴びをする……男同士の友達なら何の問題も無い行動だけど、それを意識せずに異性にやられた日にゃ……。

 恥じらいが無いと色気は半減するとか良く聞くけど、半減してもヤバイものはヤバいワケで……見たいような見たくないような……でも本音では見たいけどガン見するのは気恥ずかしいと言うか何と言うか……イヤイヤイヤ、何を考えている自分!?


「逆に言えばギラル君こそ、そろそろ慣れてもいいくらいじゃないですか? もう何度も見ているのですし」

「……マジで勘弁してくれます?」




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る