page2 小学校へ
昨晩は帰ってすぐに風呂に入り、すぐに二階の自室で床に就いた。母さんがなんか言ってた気がするが、適当にあしらっていたのでほとんど覚えていない。
それにしても、よく眠れたな。快眠快眠。
あいつと会って話したことが良かったのだろうか?
いやいや、ないない。
「ふぁぁー!」
一つ大きく伸びをして時計を見た。時刻は朝七時三十分。あいつのばあちゃん家までは歩いて十分もかからないから充分時間がある。
俺はさっと着替えて一階に下り、テーブルの席に着いた。テーブルにはちゃんと食事が用意されており、なんだかんだありがたみを覚える俺でした。
と、そんなことを思っていると
「おう。優か。まったく、喧嘩もほどほどにしとけよ。昨日は母さんの相手するの大変だったんだから」
「あ、ああ。悪い、兄さん」
俺の兄、
兄貴に比べて俺はなんてこともないやつである。成績も中の上くらい。別に兄貴が悪いわけではないんだが、母さんはよく兄貴のことを引き合いに出す。そのことが気に入らなかった。
「何、どっか行くの?」
「まぁな。ちょっと大人の事情があって」
兄貴はニヤと笑いながらそう言った。
「あーはいはい、バイト先の女の子と仲良くなったんだっけ?その人と遊びに行くんでしょ」
俺は適当に、興味なさそうに返してやった。
「ま、そういうことだ。んじゃ。遅くならないうちには帰ってくるかもな」
そう言い残して家を出て行った。まったく、お盛んな兄貴だぜ。
と、そうこうしているうちに五分以上時間が過ぎていた。少し急いで朝食を食べて、食器を洗い、支度を整えて俺は家を出た。
小学校の先生に会いたいって言ってたっけ?じゃあ小学校に行くのかもな。
そんなことを考えながら下を向いて歩いていたのがいけなかった。
「どわっ」
誰かとぶつかってしまったようだ。頭に柔らかな感触があったゾ?慌てて顔を上げるとそこには。
そこには。
「もー、何してるのユウくん!」
はい、みなさんもうおわかりだと思いますが冬華ちゃんがそこにはいました。
何でいるんだよ!?
って、今俺、あいつの胸のあたりにぶつからなかったっけ?
俺は慌てて距離を取った。
「お、お前、何でいるんだよ?」
「えー、そりゃユウくんが遅いからじゃん」
「あのーまだ八時まで10分くらいあるが?」
「十分前集合は常識!」
「全く常識じゃないと思うけど?」
どうやらはるばる俺の家の方まで歩いてきてくれたようだ。昨日はばあちゃん家まで来いと言っておきながら自ら来るとは。この子の発言、気まぐれすぎない?
まぁ、出迎えてくれたのはありがたい(?)けど。
「さ、ぐずぐずしない!行くよ!」
「え、ちょ、ま」
冬華は俺の右手を取り、強引に学校の方まで歩き始めた。ほんっと変わってないわ、こいつ。この強引さ。
―ちょっと懐かしいけどな。
呆れつつも昔を懐かしんでいると、不意に冬華が口を開いた。
「ユウくんって、今どこの高校行ってるの?」
「何だ、急に?」
「別に?他意はないけど」
表情に悪意は感じられなかったので潔く答えることにした。
「ああ、
「あ、あそこ!へーやっぱユウくん、頭いいなぁ」
「お前、バカにしてるのか?小学校の頃、お前にテストで勝てた教科が一つでもあったかよ?」
「えー、そのときはそのときだよ。まぁ、私、頭いいけどねっ!」
「あ、そう・・・」
何この子。さらっと自慢挟んできたんだけど。
「そういうお前は今、私立の高校にいるのか?」
「そ。ユウくん、部活何かやってるの?」
「あ、ああ・・・」
部活。部活ですか・・・。
「まぁ、一応。弓、引いてたんだ」
「え!もしかして弓道?!いいなー。うちの高校弓道部ないんだよね」
何も知らないから仕方のない話だが、冬華はうらやましそうな表情を顔からにじませながら俺を見つめてきた。
「ねぇ!ユウくん、やっぱり運動できるから弓道も上手?」
「袴着てみてどう?」
「的当たったときどんな音するの?」
ちょっとフーちゃん?そんなにいっぺんに答えられないんだけど?一度に何個も質問しちゃダメってお母さんに教わらなかった?
そういやぁ、こいつの母ちゃん、美人だったなぁ。
「あ、ああ。俺の話を聞いてくれ。実はな、今はもう、やめちまったんだ」
「え・・・?」
どゆこと?
と言わんばかりにぽかんとしてみせるのだから答えてあげようとも思ったのだが、いざ話そうとすると口が開かなかった。
俺がしばらく何も言えずにいたから二人の間に妙な沈黙が流れてしまった。
いつの間にか目的地の小学校に近づいていた。
先に口を開いたのは冬華だった。
「ユウくんにも・・・いろいろ、あったんだね」
その言葉に俺はこう返すのだった。
「ああ。お前もな」
**
小学校に着くと、冬華は門の前に設置されているインターホンを押した。
すぐに大人の男性の人の声が返ってきた。事務の人だろうか?それとも・・・?
『はい』
「あ、えっと五年前に卒業した虎ノ尾冬華です。
『ああ、そうかい。分かりました。悪いけど職員室近くの応接室まで来てもらえるかい』
「わかりました」
会話終了。
「さ、行こっ!」
「おう」
俺たちは二人そろって正門を抜け、敷地に足を踏み入れた。桜の木や花壇がたくさんある北運動場はかつての姿と変わっていなかった。
「あ、ここって私たちが卒業した時に桜の木が植えられたって場所だよね?」
「そうだけど、毎年、卒業生を送り出すときにやってるぞ」
「そうなんだ」
冬華は知らなかったようだ。ドヤ、俺知ってるんだぜ?すごいだろ。
体育館のあたりを通り過ぎると、見慣れないものがスロープから続いていた。
「そう言えばなんか今、工事してるらしくてな。これは体育館から外を通って直接職員室がある校舎までいけるようにしたみたいだ」
職員室があるのは最も南の校舎。校舎は間にもう一つあり、最も北に位置するのが体育館というわけだ。
ここも・・・変わり始めてるんだな。
「へぇー。そっか。まぁ、しょうがないよね。古くなってきてるし」
冬華は感慨深そうに言葉を紡いだ。
北門のあたりを通り過ぎ、正面玄関で靴を履き替え、応接室に入り先生を待った。
「美鈴先生、今、どうしてるかなぁ?そのうち絶対結婚してやるって言ってたけど」
「俺は結婚してないと思う」
「えー?そうかなぁ、先生、美人だったじゃん」
「いや、でも・・・」
「でも?」
しまった。いらんことを口走る口だな。そんなこっぱずかしいこと言えるはずがない。
「なんでもねぇよ」
俺はぶっきらぼうにそう言うのだった。
「えー!気になるじゃん!教えてよー!」
冬華は俺の肩を両手でぐわんぐわん揺らしてきやがった。
「お、おい。やめろって」
子供じゃないんだから。それは口には出さずに飲み込んだ。
あんま近づくんじゃねぇって!
俺達がそんなやりとりをしているしている時だった。不意に扉が開いて入ってくる人影があった。
そしてその人物は俺達の様子を見てこう言うのだった。
「お!冬華に優助じゃないか!相変わらず仲いいなぁ」
そして俺たちは先生の手元を見て、こう返すのだった。
「「先生、指輪してる!」」
俺は、私は、成長しない 蒼井青葉 @aoikaze1210
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。俺は、私は、成長しないの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます