第10話 守ってあげたい

初めて言葉を 

交わした日の

その瞳を 忘れないで

いいかげんだった私のこと

包むように輝いてた。



働きだして1年2か月。

わたしはスーパーを辞めることにした。


勝手にデマを流した若い男は、送別会の席で、泣いて謝った。

その男は、私の悪口を話してたらしい。

まったく、身に覚えのないことを、話していた。

精肉店での風当たりも、そのせいだったのかもしれない。

よくわからない、恋愛感情?さっぱりわからない理由だった。



誤解の渦のなか、夢も現実も、なにもかも嫌になった。

バカバカしいことが、雪だるまのように積み重なった。

そして、なにもかも、壊したくなった。




精肉店での、洗い物も、相手が大きな音を立てて置いていくから、わたしも、倍に返した。人間関係は最悪だ。

言葉にすると、大げんかになりそうなので、仕事だけして消えた。



やよいちゃんは、いつも心配していた。

でも、わたしは、わたしなりに、居場所をさがしていた。

中学時代のガールフレンズたちと、よく遊ぶようになった。


土曜日は、カサブランカで踊った。

やよいちゃんと、歩いてた電車通り沿いの雑居ビルの中にあるディスコだ。

ふたりで、ショーウィンドを覗いてた日は遠くなる。

扉を開ける友達がいた。


私の知らない世界を、教えてくれるガールフレンズの背中に続く。



送別会の日、やよいちゃんは、松任谷由実の「守ってあげたい」を歌ってくれた。

いいかげんだったのは、私のほうだった。

荒れていく性格のわたし。

強い言葉を投げつけた日もあった。

嫌な私だった。


それでもいつも、優しかったやよいちゃん。


わたしに誘われて、一緒に、カサブランカに行ったこともあった。

20歳以下に見られて、「健康保険証を持ってきてください」と言われたね。


あの頃、なにをしていいか、わからなかった。


自分の居場所をさがしてた。

現実社会をみつめようと、思った。

函館のなかで、いまを生きるひとを見つめようと思った。

みんな意外と、キラキラ輝いてた。

嘆き苦しんでなかった。

いまを生きていた。



あれから33年がたつ。

お互い、結婚して子供も成人した。

わたしは、自分の夢を子供に託した。

ふたりの息子を進学させた。

高校からさきは、仕送り地獄だ。

がむしゃらに、夫婦で力をあわせて働いた。



毎年、12月になると、あの頃を思い出さずには、いられない。

粉雪舞う街灯の下、やよいちゃんと歩く街中は、いつも夜だった。

冷たい手をして、落ちてくる雪を見上げた。

19歳と18歳。

わたしたちは幼かった。



わたしは、あなたに、たくさん助けられた。



やよいちゃんの娘さんは、いま、沖縄の海を眺める。

華やかな世界で、働いている。



わたしの息子たちは、釧路と名古屋。

わたしの、知らない世界を二人は見ている。




ことしも、また、クリスマスプレゼントを贈ります。



いつもありがとう。

優しい、ガールフレンズへ






     2021年2月7日 

   














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