第3話 そうだ、魔王と戦おう(唐突)

 嗚呼、空は斯くも素晴らしい。

 誰一人いない、孤独で自由な世界。

 晴れ渡った空には飛ぶ俺を邪魔する者は誰もいない。

 ずっと脳内で『魔王を倒せ』『魔王を倒せ』と囁くこの声も、心なしか小さく聞こえる。


『あの~……なんで自分はこんなことに?』

「だって思いのほか遠そうなんだもん」


 駄龍はいるが黙らせれば問題ない。

 背中が硬くて乗り心地が悪いからそのうち鞍を着けるのも良いだろう。


『魔王様を裏切るのは流石に……』

「ダイジョブダイジョブ、城が見えたら自分で飛ぶから。お前は帰って良いよ」

『なら……もう見えてるっす』

「え?」


 空を見上げるために仰向けになっていた状態から身体を起こし、進行方向をジッと見つめる。

 すると初めは見えなかったもののかなり遠くに凄く小さな状態の城が見えた。


「……遠い」

『今自分だ言ったじゃないっすか! 城が見えたら自分で飛ぶって!! それでもアンタ玉ついてるんすか!?』

「チッ、うっせーな。はいはい、自分で行きますヨ……っと」

『痛ッ!』


 本来は飛ぶだけだからそんな必要はないが、生意気な駄龍への嫌がらせとして全力でジャンプ台にさせてもらった。


「うー寒い」


 聖剣を後ろに向けて空を飛ぶ。

 聖剣を槍の形に変えて乗ったら何となく魔女の気分になれる。


「……確か魔王がいるのは一番上だっけか? ってことは、アレだな」


 徐々に大きく見えて来た魔王城。

 その一番上の部分を見つめながらそこに向かって突き進む。

 多分状況的にはラスボス戦なのだが、一切成長イベントも装備回収イベントも仲間参入イベントもなにも起きていないからそんな感じがしない。


「突撃ぃぃぃぃッ!!」


 そう叫びながら俺は魔王城の壁を破壊して最上部にダイレクトインした。

 罠? そんなモン知らん。

 罠の活躍の場が欲しければ自分たちで引っかかったらいいと思うぞ。


「な、何者だ!?」


 凛として、瓦礫の散るこの場でも不思議と通る綺麗な声が耳朶を震わす。


「何者だ? 勇者ゆうものゲフンゲフン……勇者だ!」


 土埃の中登場したからむせてしまった。

 まあ、誤魔化したっぽくなったから良いだろう。


「いざ尋常に、勝負!」

「くッ、勇者だと!? なぜここに!!」


 大きな角を二本生やした少女。

 王座に座っているからきっと彼女が魔王なのだろう。

 幼いながらもどこぞの髭デブよりも雰囲気があって王の風格が漂っている。


「ふッ!」


 一瞬で距離を詰めた俺は魔王を蹴った。


「き、貴様ぁッ!」


 聖剣での攻撃が来ると思っていた魔王は予想外の攻撃を直撃し、僅かに体勢を崩す。


「あれ? 魔王って聖剣以外意味ないんじゃ?」

「効かんわ! けど蹴られたら痛いに決まっているだろうが!」

「へ~」


 額に青筋を浮かべる魔王は俺を蹴り返し、俺から距離を取ると宙に魔法陣を生み出し岩弾をいくつも撃ち出してきた。


「ちょッ! 魔法ほとんど知らないって!」


 一切習っていないから魔法は使えない。

 防御魔法らしきものは一番初めに見たが、発動の瞬間を見ていないから俺は使えないのだ。


「じゃあ、同じので!」


 仕方なく俺も魔王の使った魔法陣を宙に描き、岩弾を再現し、魔王の魔法にぶつけて相殺する。


「勇者め、流石といったところか……」

「過大評価どうも!」


 再び俺は接近し、聖剣を槍の形に変えて石突で攻撃した。

 刃にばかり意識を向けていた魔王はそのまま視線を刃向けたままで意識を持っていかれ、石突での攻撃が直撃する。


「ま、またしても……卑怯だぞ!」

「お前が正直過ぎるだけだろ……」


 こんな手を使っておいて何だが、魔王は正直過ぎる。

 あの駄龍はその正直さが気に入ったのだろうか。


「「「「ま、魔王様!」」」」

「んあ?」


 突然勢いよく扉が開き、四人の魔族が現れた。

 そう言えば手下の四人を忘れていた。

 恐らくこの四人がそいつらだろう。


「フレイムピラー!」

「エアロカッター!」

「アイスブレイド!」

「ロックバインド!」


 手下たちがそう叫ぶと炎の柱が足元から広がり、空気の刃が飛来し、氷の剣が俺を襲い、岩の拘束が俺を停止させた。


「ふんッ!」


 だがこんなもの気合いでどうにかなるもの。

 力を入れれば簡単に破壊出来た。


「お返しだ!」


 そう叫ぶと俺は手下たちに向けてロックバインドと呼んでいた魔法を再現して手下四人を動けなくした。


「お前たち!」

「魔王……部下は選んだ方が良いぞ?」

「黙れ!」


 思った以上に四人は弱かった。

 これが側近なのだとしたらあまりにも残念過ぎる。


「あっぶね!?」


 意外と魔王を倒すのは簡単なのかもしれない。

 そう思っていると大岩が俺目がけて飛んできた。


「私の仲間を馬鹿にするな!!」


 当たれば潰されそうなほど大きな岩の塊。

 だが聖剣の敵ではないと、俺は岩に剣を振った。


「ッ?!」


 だが岩は剣で斬れなかった。

 一ミリもその岩肌を削ることはなく、重さに負けた俺はそのまま岩の下敷きになる。


「勇者め、死んだか」

「あ~……死ぬかと思った」


 魔王が俺に侮蔑の目を向けていた。

 だが下敷きになっただけで押し潰されてはいない俺はなんとか岩を持ち上げてその下から抜け出した。


「……斬れるよな? 剣」


 切れ味を疑って床に剣を振るう。

 だが剣は床を容易く斬り裂いた。


「戦闘の最中に遊ぶとは! よほど余裕があると見える!!」

「うおッ!?」


 飛びかかってきた魔王。

 真っ黒な剣をこちらに向けて真っ直ぐ振ってきたところを俺は咄嗟に剣で防ぐ。

 金属の擦れる音が鳴る。

 力で負けていることを悟った俺はすぐさま剣を傾け、魔王の体勢を崩してから横っ腹を全力で蹴り飛ばした。


「ひ、卑怯な!」

「だから戦いに卑怯もクソもあるか!!」


 実際俺は喋っている魔王に対して魔法を撃ちこんでいる。

 全て魔法の防壁で防がれているが。


「おらッ!」

「貴様! なんて汚い勇者なんだ! 勇者なら勇者らしく行動をしろ!」

「なら逆にお前も魔王なら魔王らしく汚い行動をしろ!!」


 真っ正直な魔王なんて初めてみた。

 魔王自体見るの初めてだけど。


「死ね勇者!」

「くッ」


 近づこうとしたところに魔法を受けた。

 膝に岩を受け、脚を弾かれたところに追撃として岩の鞭が襲い掛かって来る。

 瞬時に体勢を整えて剣で防ごうとするもさっきの大岩同様に斬れず、対処しきれなかった鞭を何度も受けてしまった。


「流石魔王! 魔王汚い!」

「お前がそうしろと言ったのだろうが!」


 聖剣を片手剣に変え右手で握り、左手で魔法障壁を生み出す。

 そうして岩の鞭を防ぐもののやはり完全に防ぐことは出来ず、身体のあちこちが岩の荒い質感に切り裂かれてしまった。


「キッツイ!」

「仲間を侮辱した報い、ここで受けて死ね勇者!」

「断る!」


 防ぐだけでは負ける。

 そう判断して俺はゆっくり前に進む。

 一定の距離を保とうと魔王も後退るが、やがて背に壁を付けてしまった。


「ならば!」

「うぉッ」


 魔法を使いながら魔王も近づいて来た。

 そしてあと数メートル、という所で魔王は突然魔法を消した。


「ウォーターピラー!!」


 魔王の叫びと同時に魔王の前に巨大な魔法陣が現れる。

 そこからは一気に大量の水が柱のように吐き出され、一瞬のことに俺は反応出来ずに魔法を直撃してしまった。


「フハハ! 貴様と同じ、汚い手を使ってやったぞ!!」


 俺が最後に聞いたのは魔王のその叫び。

 魔法を直撃した俺はそのまま壁にぶち当たり、そのまま魔王城から強制退場させられた。

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その眼が、気に食わない 軒下晝寝 @LazyCatZero

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