仮面

文明が発達し、人類は新たなコミュニケーション手段を取得した。

きっかけは、ある1人の発明者が画期的な製品を生み出したことによる。

その発明された商品の見た目は、全体的にやや大きめののっぺりとした皿のようなものであり横から一本紐がぴろりと出ているだけのものだった。

人々はそれを見た目と機能から「仮面」と呼んだ。

機能について、この皿のようなものを顔面に装着し耳の中に紐を入れるとあら不思議、目、鼻、口とパーツごとに顔面がぬぅっと浮き上がる。

そして耳に入れた紐からは脳波や感情の分析、かつ仮面の表面からは周囲の状況を集音機やカメラなどによって情報収集し、その場にあったリアクションを本人の意思に関係なく行えるすばらしい機能が付いている。

なので、きらいな上司の理不尽な叱責も涼しい顔をしながら仮面で申し訳なさそうな顔を作って実に楽にやり過ごすことができる。

この仮面を作った発明家は瞬く間に表彰され、発明者の指示のもとに仮面が大量生産された。

やがてしばらくすると国民ほとんど全てが手に入れることができた。

今やサラリーマン、主婦、学生たち、おじいちゃんおばあちゃんまでみんながその仮面をつけて過ごしている。

しばらく経った後に改善点として勝手に喋ってくれれば便利だ、身振り手振りもできればもっといいとの意見が寄せられ仮面は更なる改善を遂げた。

こうなってはもはや機械に操られるただのロボットである。

サラリーマンが例え一日中寝てたとしても自動的に会社へ行き仕事をしっかりこなして帰ってくれるし、家事炊事育児だって完璧に遂行してくれるし、授業をまともに聞いていなくてもテストで満点を取ることができた。

しかも機械によって行われるため全てにおいてミスが一つもないのである。

本当に画期的な発明品だった。

人々は仕事や家事、勉強などの面倒なことや辛いことを全て機械に任せ、自分の好きな娯楽や趣味などをして社会を回していった。

しかし、うまくはいかなかった。

人間の娯楽であり生み出すことのできる芸術品、例えば音楽や絵であったりボードゲームであったりは人間の域をとっくに越え機械の方が優秀になった。

スポーツも無論である。

こうした現状が続き、人間たちは機械に越されやがて意欲もなくなり娯楽すらも機械任せに行うようになったのである。

こうなってくるともう人間が生きている理由や意義がなくなってしまう。

この仮面の発明者はこの現状になるまで待ってから、安楽に死ねる薬を格安で人々に提供し始めた。

仮面の発明者はこうなることを全てを予想していたのである。

そして人々は考えることをとっくに放棄していたので、思考を任された機械が次々と薬を飲ませて人間を殺していった。

そしてこの薬は特殊で、飲むと死んでもずっと体が腐らないという効果がある。

つまり死んでもなお機械に一生動かされ続けるのである。

仮面の発明者であるN氏は人間が次々に殺されていくのを傍目に見ながらワインを啜り、全ての人間が死ぬその時を待った。

全ての仮面に、あるプログラムを搭載してある。

実行すれば全ての人間はN氏のの思い通りに動くのだ。

N氏は興奮を抑えながらまたワインを一口啜った。










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