Dear K
松本 せりか
Dear K
Dear K
わたくし今度、結婚することになったわ。
だからもう、あなたと遊ぶことは出来なくなったの。
わたくしたち出会ってから、ずいぶん経ったわね。
今でも覚えているわ。
わたくしが森に迷い込んでしまって、泣いていた時にあなたがやってきたの。
あなたなんて、当時のわたくしよりも、ずいぶん小さかったのに、いっぱしの紳士のマネをしていたわね。
「お嬢さん。どうしました?」
なんて、どこのおじ様のマネをしていたのかしら。
それからは月に一度、わたくしが家族と別邸にいくたびに、あなたと遊んだわ。
楽しかった。
近くの川で魚釣りをしたり、落ちてしまったヒナを返しに行くのに、二人して木登りをした事もあったわね。
あれは何という鳥だったのかしら?
あんなに深く迷ってしまうような森だって、あなたと一緒ならバスケットにクッキーやサンドイッチを詰めて、ピクニック気分で行けたもの。
本当に、楽しかった。
大人になんかならないと、信じていられたわ。
だけど、鏡の中のわたくしは、背も伸びて髪も結い上げて、お母様が着ているようなドレスも似合うようになってしまっているの。
社交界へのデビューだって、随分前の話よ。
ねぇ。わたくし、あの頃の泣いていた女の子じゃなくなっていたって、気付いていた?
あなただって、そう。いつの間にか
「お嬢さん。どうしました?」
と言うセリフが、似合う歳になっているわ。
あなたは、気付かないふりをしていたのかしら。
都会の社交場のわずらわしさから、逃げてきたわたくし達だったものね。
ごめんなさいね。
わたくしも気付かないふりをしていたの。
貴方の背がいつの間にかわたくしより高くなって、手だってわたくしの手を軽々包み込めるくらい大きいのね。
疲れて眠り込んだわたくしを抱っこして連れて帰れるくらい力も強くなったわ。
大人の……男性になってしまったのね。
でもね。まだ間に合うわ。
社交界の森に迷い込んでいるわたくしを、さらってくれても良いのよ。
まだ結婚なんて早いだろう? って。
……なんて、ウソよ。ウソ。
あなたは、あなたで幸せになってちょうだい。
わたくしは…………そうね、わたくしも幸せになるわ。
Your sincerely,
M
p.s. I treasure you.
Dear K 松本 せりか @tohisekeimurai2000
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。