俺サマは《救済機甲》ゼロ・イクス!! 人を救う、使命を持つ者だァ!!
叫んだオメガの体から、光の精霊力が燐光のように放たれ始め、人々で埋め尽くされた王城の中庭へと広がっていく。
その喜びの波動は、一層光の精霊力を輝かせ、人々の中にある虚無を完全に浄化するのが、アーレンハイトの目に映った。
ーーーオメガ様。
彼の想いを、その心の奥底にあった気持ちを知り、頬を涙が伝う。
どれほどの葛藤だっただろう。
救うべき者を殺さねばならなかった彼の胸中は、アーレンハイトには理解すら及ばないほどの、悩みと苦しみに満たされていたのではないだろうか。
あれほどに人の笑顔を見ることが、好きなのに。
殺されることを喜ぶ人々の悲しい笑顔は、どれほど彼を傷つけたのだろうか。
それでも、彼は己の使命を全うすることを、決めたのだ。
彼にとって、この世界に来たことは、どれほどの喜びだったのだろう。
彼は、己の存在を、その心を、ようやく出会えた人々に向けてさらけ出す。
「美味い食事に笑うエルフ達に救われた! 魔王を倒し、ドラグォラを治め、カルミナを救った時に見せる、アーレンハイトの笑顔に救われた! 人間達を生かすために力を振るえる事、俺サマにとってこれ以上の喜びはねぇ!」
オメガは手すりに飛び乗り、自身の右拳を天に掲げた。
「だから信じろ! 俺サマが、絶対に、救いを求めるお前たちを救ってやる! シャルダークやアヒムの偽物の言葉に、従う必要なんかねぇ! 奴らを、今ここで、俺サマが滅して……平和を、取り戻すんだからなぁ!」
その言葉を、アーレンハイトは素直に信じられた。
ーーー貴方は、たとえ人を模しただけの存在であったとしても……誰よりも強い魂を持つ、英雄です。
少なくとも、アーレンハイトにとっては。
彼が舞い降り、力強く救いを口にした時から、何度も。
オメガに、心と、仲間達を、救って貰ったのだから。
「
赤いオーガの姿へと変わったオメガは、背中の後ろで翅のような燐光を弾けさせ、両手の双剣を天地に向けて。
「聴け! 人と、人に似た者達よ! 生きたいと、心の底から願う者達よ!」
無意味にして、美麗で、完璧な構えで、いつものように高らかに
「俺サマは《救済機甲》ゼロ・イクス!! 人を救う、使命を持つ者だァ!!」
だから、今度は。
アーレンハイトが、オメガを助ける番だ。
彼の宣言と同時に、アーレンハイトはテラスへと駆け出した。
彼に対して感じるとてつもない安心や信頼は、彼がその強大な力を、心の底から全てを救う為に振るうからだ。
でも、それとは別に、アーレンハイトは、オメガの雄々しい背中に、崇高な魂に、どうしようもなく惹かれていた。
絶望の最中に現れ、破天荒でどこまでも明るい彼に救われた時から、共に時を過ごす内に。
短い間でも、無邪気に喜ぶ彼の姿が好きになった。
時折見せる冷たい表情に不安になった。
それでも、離れ難いと感じる想いが、アーレンハイトの中に確かにあった。
これが尊敬なのか、それとも別の感情なのかは、分からないけれど。
「オメガ様! 私も……私も共に参ります!」
アーレンハイトは、まるでバタフラムを崇める時のように膝をつき、彼に祈りを捧げる。
「私は、貴方の力になれます! 全てを失ってなお、絶望よりも希望を望むその魂に、私の、全てを捧げます……!」
アーレンハイトの横で、カルミナが自身の剣を抜き、宣誓を示す、体の前に剣を立てた姿勢を取る。
「私も、アーレンハイト様と同じ想いだ、オメガ。既に、この身に課した使命は貴様のお陰で果たされた。ドラグォラ様が私を闇の巫女としてお選びになったのは、今、この時の為であろう」
ゼロ・イクスと化したオメガが、その鋼鉄の仮面の下で笑った気配がした。
「お前らがそう言うなら、俺サマに拒む権利はねーよ。俺サマたちは、仲間だからな!」
仲間。
それはオメガが、アーレンハイト達を守るべき対象ではなく共に立つ同志として認める言葉だった。
アーレンハイトは、それを誇らしく思いながら立ち上がり、呪言を紡ぐ。
「我が心は女神と共に。我が魂は人々と共に。我が肉体は勇者と共に―――〝クムイ・オン・バタフラム〟!」
同じように、カルミナも呪言を紡いでいた。
「我が心は魔神と共に。我が魂は世界と共に。我が肉体は英雄と共にーーー〝クムイ・オン・ドラグォラ〟!」
双剣を下ろして待つオメガを、黒と白、二色の光となったアーレンハイトとカルミナが包み込む。
ゼロ・イクスの赤い体を、ドラグォラに似た漆黒の外装がさらに鎧い、左腕を特に厚く締め上げた。
胸元から背中と右腕へかけては白地に青の差し色を入れた装甲が形成され、背部に向かった光は長く伸びて、一対の翼と化す。
さらに、アヒムの魂がオメガの背の上に現れると。
亜空間から飛び出した、
「スピリッツ・コネクト! ーーーゼロ・イクス・
〝虚無の力〟を祓われた人々が、オメガの姿を呆然と見上げる中。
バタフラムとドラグォラ、二柱の根源たる精霊の力を身に纏った彼は、王都の外に目を向けた。
「邪神は、暗雲の中心にいる。……行くぞ、アーレンハイト、カルミナ!」
『はい!』
『ああ』
オメガは手すりを蹴って、一対の光の翼を広げ……わだかまる暗雲を目指して、空を駆けた。
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