「まぁ、腹の膨れるお宝じゃねーが、一応収穫かな」
着地したオメガの外殻を、漆黒の外装がさらに鎧う。
ひび割れのようにビキビキと、亀裂に似た紋様を浮かべながら盛り上がった黒い外郭が左腕を特に厚く締め上げた。
背骨の中央付近から枝分かれするように伸びたのは、薔薇の棘を禍々しくしたような突起を持つ尾。
さらに右手に握っていた光刃の剣が肥大化し、闇色の刀身を持つ長大な刀に変化する。
それは、ミノタウロスの頭に刺さったダークブリンガーと呼ばれる武器とよく似ていた。
「ゼロ・イクス・
持ち手が長く伸びた闇の大太刀を両手で握り、肩に担ぐように変形の
意思なき存在であることを示すように、恐れもなく起き上がったミノタウロスに向き直った。
「俺サマは《救済機甲》ゼロ・イクス! 人を救う使命を、己の魂に刻みし者だ……!!」
オメガは、大太刀に際限なく膨れ上がっていく闇の精霊力を注ぎ込むと、ますます黒く染まった刀身が赤黒い雷を纏い始める。
「敵性存在、ターゲット。……優先度至上タスクを確認……緊急時自己判断により、当該対象の処遇を【殲滅】指定……
瞬転。
音もなく、ミノタウロスの頭上へと跳ねたオメガを、相手は見失った。
そのまま頭上に構えた刀を、振り下ろしながら。
「ーーー〝闇・刻・断〟」
ミノタウロスの額から、股下まで。
体の前面を、手応えすらなく唐竹割りに一刀両断したオメガは、床に刀身が鍔口まで潜り込むほどに力を込めていた。
その体を包んでいた光の魔力など、一撃で消し飛んでいる。
ジジッ……と裂かれたミノタウロスの傷口に、赤い稲妻が走ると同時に、オォォォオオオオォォォ……と亡者の魂が声を上げながら解放されて、外へと溢れ出した。
そうして、中身が空になったミノタウロスの全身が闇に侵食されて漆黒に染まり、バチバチと放雷しながら空中に溶けるように消滅していく。
達成感など、全くなかった。
ただ、人に益なく、また忌むべき機械を消滅させられたことだけは、良かったと思う。
ゆっくりと大太刀を引き抜いたオメガの体から、カルミナが離れてすぐ横に現出した。
「……はっ、はぁ……っ!!」
かなり消耗したのか、がくりと膝をついて両手を床についた彼女に、機甲化を解きながら問いかける。
「ありがとうな。俺サマ一人じゃ、救えなかった」
「……私自身も救われたのだ。その恩義くらいは、返すべきだろう」
ぶっきらぼうに言う彼女の気持ちを汲んで笑みを浮かべながら、オメガは応じた。
「俺サマに対してそんな風に思う必要はねーが、気持ちは嬉しいぜ」
「ふん……」
顎から滴る汗を拭いながら、カルミナも笑みを浮かべた、ところで。
唯一空中に残っていたダークブリンガーが、スゥ、とオメガの前に降りてきた。
「……なんだ?」
人の魂を縛り付けるのに使われていたそれに、あまりいい感情は抱いていない。
ポケットに手を突っ込んで見ていると、ゆらりとその後ろに闇の気配が生まれて、ドラグォラの幻影が現れた。
『これ、やる』
その言葉に含まれた波動に、オメガは軽くうなずく。
ダークブリンガーは、その昔、魔王を倒すためにドラグォラがダークエルフに与え、その後勝手に、魔族に利用されたものらしい。
ミノタウロスが消滅したことで、ドラグォラの意識に触れたらしかった。
「これがあると、俺サマになんか得あるのか?」
『力になる。寝る』
闇が散ると、ドラグォラの微睡んでいるような声が消えて、からん、とダークブリンガーが床に転がった。
それを拾い上げると、近づいてきたアーレンハイトが首を傾げる。
「ダークブリンガーを、ドラグォラ様が……?」
「まぁ、腹の膨れるお宝じゃねーが、一応収穫かな」
闇色の刀を亜空間にしまいながら、オメガはぐるりと首を回した。
「救済完了だ。……戻ろうぜ」
※※※
ーーーエルフ領から、さらに西へ進んだ先にある、人族の王国。
勇者が生まれたその地の夜空に、ゆらりと一つの人影が浮かび上がった。
「なるほどな……異空の勇者が〝真の勇者〟か」
シャルダークは、未だオメガたちがたどり着いていない王国を
「だが、バタフラム、そしてドラグォラよ……それだけで私に勝てる、とは思わない事だ」
彼は、密やかに邪神の力である【虚無の力】を体から放ち、人の王国に降らせ始める。
「くく……お膳立ては整った」
虚無の力を撒き終えたシャルダークは、寝静まった王国を見て嗤った。
「人を救う者は、守るべき人々に非難された時に、どんな選択をするのか……愉しみだな?」
シャルダークは、そのまままた、密やかに姿を消す。
ーーーオメガたちの旅の終わりは、すぐそこまで迫っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます