「最優先救済対象を、確認。……対象自動人形を敵性存在に認定……殲滅する……ッ!!」
オメガの言葉を受けて、アーレンハイトは手をかざした。
「水の精霊よ!」
呼び掛けると、オメガの作り出した光球の周りに、ほんの少しだけ存在する光の精霊が反応したので、彼らを介して水の精霊に力を借りる。
「〝水流よ、穿て〟!」
水の矢を作り出したアーレンハイトは、それをベヒーモスに射掛けた。
しかし、螺旋を描く水流がミノタウロスとオメガが戦っている部屋の入り口を突き抜けた瞬間……部屋の手前で、ぱしゃん、と弾けてただの水に戻ってしまった。
「!? 魔法が……」
床を濡らしただけで終わってしまった魔法に、アーレンハイトは眉根を寄せる。
ただの防御結界とは違う。
精霊たちを集めていた魔力が、いきなり消失したように見えた。
衝突すらしなかった、ということは、その部屋を覆っているのは伝説にだけ語られる、魔法を完全に遮断するという……」
「……防魔結界!」
「く、土魔法もか! ならば!」
カルミナは、そこからさらに魔力を練った。
多分通じないだろう、と制止しようとしたアーレンハイトだが、カルミナの術の発動の方が早かった。
「〝闇よ、喰らえ〟!」
カルミナの足元から影のような獣の頭だけが幻出し、宙を駆けてミノタウロスに向かう。
大きく顎を広げながら入り口に達した獣の頭が、そのまま何も影響を受けずに入り込んだ。
ーーー抜けた……!?
「避けろオメガ!」
カルミナの呼びかけに、槌同士をぶつけ合って拮抗していたオメガが、横に体をずらした。
部屋に入り込んだ闇魔法の獣が、ミノタウロスに命中するが……触れたとたんに、パン! と弾けた。
そして無傷のミノタウロスに、空中に散った闇の魔力が今度は吸い込まれるように消える。
「ダメか……!」
「いえ、まだです!」
アーレンハイトの瞳は、カルミナの攻撃によって、ミノタウロスの表層に部屋の内壁と『同質』の魔法陣が浮かぶのを捉えていた。
光の魔力によって形成されたそれの、内側が透けて見えた、瞬間。
アーレンハイトは恐怖を覚えて、ヒュッ、と喉を鳴らした。
「あ……」
「どうされました!?」
カルミナに問いかけられても、答えられなかった。
思わず口元を両手で覆って一歩下がると、どうやらオメガも……その身に宿ったアヒムの魂の影響なのだろう……その光景を目撃したようだった。
「
全身から怒気を放ちながら、赤いオーガ姿に変化したオメガは、手にした光刃を力任せにミノタウロスに叩きつける。
「オォォォオオオッッ!!!」
光の防魔結界によって阻まれるのも構わず、全力で振り下ろされた彼の一撃がビリビリと大気と迷宮を震わせる。
パラパラと降りかかる砂埃に、カルミナがアーレンハイトに近づいて庇うように前に出ながら叫ぶ。
「迷宮を破壊する気か!? 生き埋めになるぞ!!」
そこでミノタウロスがブン、と大きく腕を振り回してオメガを弾き飛ばす。
着地した彼は、鉄仮面の瞳を赤く光らせながら、凄まじい闘気を放ち続けていた。
「オメガ、なぜ答えない!? アーレンハイト様、一体、何が起こっているのです!?」
彼女の問いかけに、オメガが
「最優先救済対象を、確認。……対象
「カルミナ……」
アーレンハイトには、オメガの怒りがはっきりと理解できていた。
「あの、ミノタウロスの、中に、納められているのは……いえ、囚われて、アレを動かす糧となっているのは……!」
透けて見えた中身。
その、空っぽの胸部。
頭頂部に収められたダークブリンガーを媒体として、そこに集められ、怨念の塊と化してゴーレムを動かしていたのは。
「……この迷宮で死に、瘴気に蝕まれた冒険者たちの、魂です……!」
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