「食えねーし、やる気起こらねーが……向かってくるなら手加減しねーぞ?」


「奥にデカい反応があるな」


 イクス・ハンマー形態のままここまでたどり着いたオメガは、ズンズンと牛顔の大扉に近づいた。


 目の前で立ち止まり、担ぎ上げたウォーハンマーを、グッと両手で握って構えて、深く腰を落とす。

 そのまま、柄頭に霊子力を込めた。


出力解放アビリティオーダーーーー〝地・裂・砕〟!!」


 ウォーハンマーの柄頭が輝き、担ぎ上げた柄を腰に引きつけるような動きで叩きつけると。

 炸裂した瞬間、規定した効果範囲内の物質……牛顔の扉が、振動分解されて砂に還る。


 ザァ、と流れ落ちて埃のように砂粒がもうもうと舞う中。

 オメガが奥に目を向けると、そこには予想通りの存在がいた。


「やっぱ、ゴーレムだよなぁ……」


 見上げるほど巨大な玉座。

 霊子反応を持っているのは、そこに腰掛けている金属製の人型で牛頭の作り物だった。


「これが……ミノタウロス……!」

「なんと巨大な……そして凄まじい闇の気配……!」


 吹き付けてくる冷たい風に、自分の肩を抱きながらアーレンハイトがミノタウロスを見上げ、カルミナが声を上げると。


「闇の気配……? わたくしが感じているのは、光気なのですが……」

「え?」


 アーレンハイトが戸惑ったようにカルミナに目を向けると、彼女も驚いた顔をして二人はお互いに見つめ合う。


「光気? ですか?」

「え、ええ……」


 二人の会話はよく分からなかったが。


「動き始めたぜ?」


 扉が壊されたからなのか、あるいは別の理由なのか、ミノタウロスの目が赤く輝くと、ゴゴゴゴゴゴ……と部屋が鳴動し、玉座の部屋一面に、白い光で描かれた文様が走る。


「魔法陣!?」

「何という緻密な……」


 二人の反応から見るに、凄いことらしい。


 ーーー魔法陣、ってのは、プログラミングコードみたいなモンか。


 勇者の魂、がオメガの中に入ったとアーレンハイトに聞いてからこっち、何となく色んなことが理解できるようになっていた。


 どういう理屈かさっぱりだが、精霊とやらの存在ももしかしたら理解できるようになりそうな……そんな感覚がある。


 魔法陣の光が玉座に向けて収束すると、ミノタウロスは、全身灰色の金属から、黒に白の模様を持つ毛並みの、腰布を巻いた存在に変化する。


「へぇ……なんか、俺サマと似てるな!」

「呑気なことを言っている場合か! アーレンハイト様、やはり闇の力です! あれを!」


 カルミナが指さした先にあったのは、玉座の背もたれ。

 その頂点の十字飾りがゆっくりと動き出し、黒い輝きを放つ刀身が姿を見せる。


 どうやら、飾りではなく人間が持つくらいの大きさの剣が刺さっていたようだ。


「あれは、ダークブリンガー!?」

「なんだそりゃ?」

「勇者の剣と対を成すと言い伝えられている、闇の精霊の剣です!」


 アーレンハイトが答えると、カルミナが呻いた。


「こんなところに封じられていたのか……どうりで、誰も見つけ出せなかったはずだ……」

「よく分かんねーけど」


 詳しい話は後で聞くことにして、オメガは床に下ろしていたウォーハンマーを横に構える。

 その剣が宙を動き、ミノタウロスの頭頂部に突き刺さると、体の中に消えて、霊子力反応が大きくなったのだ。


「食えねーし、やる気も起こらねーが……向かってくるなら手加減しねーぞ?」


 オメガはニヤリと笑うと、立ち上がったミノタウルスに向けて、地面を蹴った。

 そのまま下から突き上げるように、顔あたりにある膝を狙う。



 ーーーだが、その攻撃が、ガン! と音を立てて弾かれた。



「……あん?」


 オメガの攻撃に、こちらを敵と認識したのか……ミノタウロスは、片手に握った柄の短い戦鎚をブォン! と思った以上に早い動きで振り下ろしてくる。


「いや、ちょっと待て……次元遮断装甲ディメンジョンアーマーだと!?」


 それはオメガの知る限り、最上級の霊子装甲である。


 自分の物理攻撃が通じないのは、その装甲だけなのだ。

 しかし、全ての攻撃を完全に遮断するそれは、結界であっても装甲であっても『採用されたものは、自立行動が出来ない』はずだ。


 オメガの世界でも、人類を保護していたマスターフィールドにしか採用されていなかった。


 完全に、こちらの影響から切り離されているということは、同時にその遮断された空間の中でしか動けないことを意味するからだ。


 ーーーいや、違うか。


 一瞬混乱したが、オメガはすぐさま考え直した。


 今防がれたのは、あくまでも物理攻撃である。

 この世界でそれが通じない存在に出会ったことがなかったのでそう考えたが、出力解放、あるいは他の攻撃手段であれば通じるかもしれない。


 イクス・シールド形態の結界も、ある程度、同じような物理無効の偏向特性を持たせることは可能だ。

 そしてその状態は、物理攻撃に極端に強くなる代わりに光学兵器に弱くなる、などの変化を意味する。


 しかし、出力解放や砲撃を連発しすぎると迷宮が崩れる危険があったため、オメガは別の方法を取ることにした。

 

「アーレンハイト、カルミナ! お前らの魔法で、あいつに攻撃できるか!?」

「え、ええ」

「可能だ」


 少し離れたところにいた二人にそう呼びかけると、返答があった。

 オメガは再び振り下ろされたミノタウロスの攻撃を避けつつ、再び声を上げる。


「じゃ、やってみてくれ! コイツの弱点が何なのかが分かれば、倒せる!」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る