俺サマに、己の存在を問うか。
「俺サマは、どうすればいい。どうすれば、お前を救える?」
「だから、言っているだろう……殺、せ……!」
「それが、お前の望む救済なんだな?」
「そうだ!! 早く、やれ!!」
「……分かった」
オメガの言葉と表情に感じる、無機質さに。
ーーーああ、まただ。
と、アーレンハイトは思った。
彼は、自分が死ぬ事を、殺す、ではなく……壊す、と言う。
そして、人の言葉に、従う。
彼は人ではないのか。
ヒューマニクス、と名乗る彼は、では、何なのだろう。
オートマタのような存在なのだろうか。
動力が魔力ではないだけの、機械なのだとしたら。
彼が口にしている使命は、救済は。
ーーーただ、そうと刻まれただけの、ものなのだろうか。
アーレンハイトが苦悩する間に、カルミナの負の情動が増して行く。
すると、そこで。
意志を持って抵抗する彼女に、オメガの体から、ゆらりと黒いものが剥がれて、カルミナに引き寄せられるのが見えた。
アーレンハイトは、見えたその黒いモノの正体に、顔を強張らせる。
「あれは……バハムート? それに、ベヒーモスに、レヴィアタン……!」
それは、オメガに殺された魔物達の残滓。
瘴気や呪いにすら満たない無念が、降り積もるように重なったものだ。
「……オメガ様! カルミナの霊装が、周囲に漂う負の感情や、魔獣の怨念を引き寄せています!」
オメガは軽く息を吐くと、意を決したようにギラリと目を光らせた。
「……
赤い鎧の青年となったオメガ……イクス・ブレイドが、両手の双剣を左右に払う。
ぞのオメガに満ちるのは、殺意。
彼は、カルミナを殺そうとしている。
「いけません、オメガ様! 彼女は魂と肉体を怨念に支配されているのです! それを払えれば!」
「どうやってだ?」
遂に呪縛に抗し切れなくなったのか、再びオメガに襲い掛かるカルミナの剣をいなしながら、彼は問い掛けてくる。
「お前らの言う光の精霊力とやらは、俺にはねーぞ。お前にも救えないんだろう?」
「やります!」
アーレンハイトは悲痛な想いを声に乗せた。
「救えるまで、幾度でも試します! ですから、どうか!」
「カルミナの魂は、お前が成功するまで保つのか。魂が砕ければ、輪廻から外れて、永遠に恨みの苦しみを彷徨う事になる、と。以前、ゴーストを切った時にお前が言ったんだろ」
「……ッ!」
それは事実だった。
バイオリアに出会う前の森の中には、死霊系の魔物もいたのだ。
「俺サマもやりたくはない、が」
オメガは無表情のまま、淡々と告げる。
「ーーーカルミナが救済を望むなら、それを与えるのが俺サマの使命だ」
やりたくはない。
それでも、救う手段が見えないこの状況で、その決断をしたのは。
それが今、一刀両断にカルミナを斬り捨てない彼の、素直な気持ちなのだろう。
彼は、自分のやりたいように、自由にやってきたように見えた。
そんなオメガは、救済の為ならば自分の意に染まぬ選択も許容するのだ。
何故そこまで、と、アーレンハイトは思わずにはいられなかった。
「オメガ様が人を救いたいと願うのは……それが、与えられた使命だからなのですか!?」
やりたくもない事をやらなければいけないのは。
それが、逆らえない命令だからなのか。
しかしオメガは、訝しげにアーレンハイトにちらりと目を向けた。
「何言ってんだ、お前?」
「え?」
カルミナが、当たらない剣に痺れを切らしたのか、掌に闇の精霊力溜め始める。
オメガは双剣を十字に構え、誇るようにアーレンハイトに言った。
「オレサマが人を救いたいのは、オレサマの魂が人を救いたいと望んでいるからだ!!」
イクス・ブレイドは、しゃらん、と双剣を左右に払う。
「生きたいと願うやつを、俺サマの力で生かす……これ以上の喜びは俺サマにはねぇ! 俺サマの使命は、俺サマが、自分自身の魂に刻んだ使命だ! 断じて、誰かに与えられたもんじゃねぇ!」
イクス・ブレイドの双剣が炎を纏い、放たれた闇の光を斬り捨てた。
「だから、死による救済は嫌だ! 嫌だけど……カルミナの魂を救うにはそれしかないなら、しょーがねぇだろうがッ!!」
それは無機物のような声音ではなかった。
アーレンハイトと同様、魂の奥底から発される悲痛な叫び。
「オメガ様……貴方は……一体……」
何故そこまで、という呆然としたアーレンハイトの問いかけを、イクス・ブレイドは別の意味に取った。
「俺サマに、己の存在を問うか。ならばお前が、知っていようが答えよう!」
カルミナが闇の光を追うように繰り出した斬撃を受け、払い、そのままイクス・ブレイドは華麗にして無意味、そして完璧な構えで名乗る。
「俺サマは《救済機甲》ゼロ・イクス! 人を救いたいと願う、魂を持つ者だ!」
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