食い物には敬意を払ってるよ。
ドラグォラの胸元から、僅かに光が漏れるのと同時に。
ウルトラ・ゼロ・イクスの体を包む光も、明滅し始める。
『うぉ……これめちゃくちゃ消耗するな!?』
『多用は出来ませんよ。……で、どうですか? ドラグォラ』
どこか軽い……以前神託を受けた時とは印象の違うバタフラム様の言葉に、闇の気配を霧散させたドラグォラ様は一つ頷いた。
『鎮まった。バタフラム。我はまた寝る』
『ってお前、喋れんのかよ!』
『礼を言う。異空の勇者。おやすみ』
『しかも会話する気なし!』
『我も帰ります。さようなら異空の勇者』
『お前ら自由だな!』
バタフラムの気配が消えてウルトラ・ゼロ・イクスがオメガの姿に戻ると、ドラグォラ様も、ずぅん、と再び重い足音を響かせながらホーコー山へ帰り始めた。
帰る道すがら、闇の精霊はその視線をカルミナに向けてから、ふい、と顔を逸らす。
ドラグォラ様に対して、頭を下げていたカルミナは気付かなかったようだが、目を向けた時にカルミナの身を闇が覆い、すぐに消えた。
「……? なんだ? 力が……」
自分の体に宿り、強まった精霊力に不思議そうに首を傾げるカルミナに、アーレンハイトが笑みを向ける。
「ドラグォラ様は、ホーワの所業に怒り、バイオリアに立ち向かおうとしたカルミナの信仰心と勇気を
認めて下さったようですよ」
カルミナが、弾かれたように去りゆくドラグォラ様の背中を見た。
「……まさか」
「はい。おめでとうございます、カルミナ」
未だ信じられない様子のカルミナに、アーレンハイトはうなずいた。
「貴女は選ばれたのです―――今代の、闇の巫女として」
光の巫女と対を成す、闇の巫女。
連綿と受け継がれていた光の巫女と違い、闇の精霊と契約を交わす者はいても、永く世に現れなかった闇の巫女。
「貴女が闇の巫女となった事、私は嬉しく思います」
「なんと……畏れ多い」
顔を臥せたカルミナの頬から、涙が溢れる。
「我ら一族の罪をお許しになるとは。……ドラグォラ様は、慈悲深き神であらせられる」
ダークエルフの一族には、魔王となったシャルダークや、ドラグォラを侮辱するような魔獣バイオリアを作り出したホーワもいた。
カルミナは、そんな一族の罪を背負いながらも、高潔なその魂のみでドラグォラ様の祝福を賜ったのだ。
そんな感動に、水を差すのはやはりオメガだった。
「ドラグォラ……トカゲみたいに尻尾生えてきたりしねーのかなぁ……一口だけで良いから食いてーなぁ……」
指をくわえてドラグォラ様が去っていった方を見つめるオメガに。
「貴様は本当に……」
「流石に、不敬かと思いますぞ」
「はい。オメガ様は、もう少し精霊に対する敬意を持つべきです」
カルミナが青筋を立て、長老はため息を吐き、アーレンハイトは嗜めた。
しかしオメガはへこたれない。
「何言ってんだ? 俺サマは、食い物には敬意を払ってるよ。当然だろ?」
「あの、そういう意味では……」
アーレンハイトが言葉を重ねようとすると、不意に足元に目を向けるオメガ。
拾い上げたのは、拳大の、石のような大きさの何かだ。
オメガはそれを真剣な表情で眺め回した後、嬉しそうな笑みを浮かべた。
「これ……バイオリアの種だな」
「「ええ!?」」
「へへ、いーもん拾ったぜ! 育ててあのツル収穫しよう!」
「潰してしまえそんな物騒なもの!」
「馬鹿言うなよ、勿体ねぇ」
言うなり、オメガはバイオリアの種をオメガ空間に放り込んでしまった。
「仕舞うな! 出せ!」
「嫌だよ。あのドラグォラとかゆーのの力を吸わなきゃ多分そこまで害はねーはずだ!」
「分かるかそんな事!」
どこか距離があった二人。
ぎゃんぎゃんと言い合うオメガとカルミナの距離は少し縮まったように見えて、アーレンハイトは少しだけ嬉しかった。
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