ついでに、尻尾とか切れねーかな?
凄まじい振動が、辺りを襲った。
だが吹き荒れる音すら搔き消す程の威力のせいで、アーレンハイトには、背筋が冷えるような静けさを感じる攻撃。
そんな攻撃の余波を、信じがたい事にオメガが展開した防御壁は耐えきった。
「あいつ、俺サマの
それでも流石にシールドを支える全身に力を込めているものの、オメガの口調にはまだ余裕がありそうだった
。
本当に、彼は何者なのだろう、とアーレンハイトは思う。
根源の精霊にすら対抗する力を持ちながら、食事と人を救うこと以外に無頓着で。
時折見せる冷徹な顔と、無邪気な面を併せ持ち。
ーーーただ、他人の為にのみ力を振るう、異空の勇者。
闇が晴れると、そこにはバイオリアどころか湖の姿もなく。
ただ、大きく抉れた円形の地面と、その周囲を走る無数の深い地面のひび割れだけが残っていた。
今ドラグォラ様が放ったのが、太古に湖と川を作り出したという伝説の〝黒い光〟なのだろう。
まさしく神威だった。
「あーぁ、あのツル結構美味かったのに、勿体ねぇ……」
心底残念そうなオメガの呟きを聞きつけたのかどうなのか、バイオリアを滅したドラグォラ様がこちらに視線を向ける。
「……逃げるか? 殺しちゃダメなんだろ?」
その呟きに同意を示そうとしたアーレンハイトの耳に、天から声が降り注いだ。
『私を呼ぶのです、光の巫女よ……』
声の主が誰かを察したアーレンハイトは、目を見開いて空を見上げた。
「まさか……バタフラム様……!?」
それはアーレンハイトの王国を守護する女神であり、《光と創造の精霊》バタフラムの声だった。
「なぜ、バタフラム様が……」
『ドラグォラは、我が対となる存在……鎮めるには、光の力の依り代に値する者と、光の巫女の呼び掛けが必要です』
バタフラム様は、そうして言葉を重ねる。
『精霊に近しい力を持つ異空の勇者に、我が力を与えましょう。さぁ
「は、はい……!」
アーレンハイトは、バタフラムを称える歌を謡い始めた。
清廉にして荘厳な歌によって、バタフラム様の光がアーレンハイトを包み始め、やがて宙に繭のように広がっていく。
「おぉ、光の精霊の力が……」
「空間に満ち溢れてゆく……!」
長老とカルミナの感極まる呟きの後に、光がオメガに向けて集まり始めた。
「お? おぉ!? ものすげー勢いで霊子力が流れ込んで来るぞ!?」
『そなたも、力を解放するのです。異空の勇者よ』
「おう! 誰だか知らねーが、行くぜ!?」
オメガが両手の拳を握り、右手を天に掲げる。
「ーーー
無意味であるにも関わらず完璧としか形容し難い姿勢と共に、オメガの体が光と化した。
光はどんどん膨れ上がり、赤いオーガに変容するよりも、遥かに巨大に……ドラグォラ様に劣らぬ巨体となった彼の姿は、まさしく光の巨人と呼ぶに相応しい神々しさを纏っていた。
二本の角がより長く伸び、まるでくの字の刀剣のようになり。
体は赤と銀、そしてバタフラムの色である青を装甲の差し色としていた。
背中から広がった光が、蛾の翅のような紋様を宙に描いた後に、淡く弾ける。
『巨神合体! バタフラム・コネクトぉ!! ハッハァ、ドラグォラ、問われてないが名乗ってやるぜ!』
ずっと様子を見つめていたドラグォラに、巨大な鉄仮面姿のオメガは、ノリノリで指を突きつけた。
『俺サマは《巨大救済機甲》ウルトラ・ゼロ・イクス! 人を救う使命を持つ者だ!』
巨大化しても、オメガはオメガだった。
意味不明に格好いい姿勢を取った後、おもむろに刃のようになった角を外して両手に構える。
それは、草原の民が使う
対峙するドラグォラの肉体からは、先程放った〝黒い光〟のような輝きが、揺らめき始めている。
『ドラグォラは、完全に目覚めてしまうと、無限に闇の力を吸い込む自分自身を抑える事が出来ません。彼を安らがせる為に、貸し与えた光の力で、彼の体内にある荒ぶる闇を沈静化して下さい』
『この力をぶつけりゃ良いんだな?』
『その通りです』
『任せろ、最高の一撃をぶち込んでやるぜ! ……ついでに、尻尾とか切れねーかな?』
ウルトラ・ゼロ・イクスは、ぶぉん、と重い音を立てて投具を持った腕を体に巻き付けるようにしながら、右へと体を捻り。
『
ウルトラ・ゼロ・イクスは、捻った体を戻しながら光の力を注ぎ込まれて輝く二本の投具を撃ち放つ。
一本は右巻きの軌道で、もう一本は左巻きの軌道でそれぞれに宙を駆けた投具は、まるで動く様子のないドラグォラ様の胸元に吸い込まれ……体内で炸裂した。
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