川も枯れてる?

 

「一度、川で水を補充する」

「何で? 魔法で作れるんじゃねーのか?」


 魔の森で、そうした光景を見ていたオメガが、道を塞ぐ下生えを払いながら言うカルミナに問い返した。


「作れるが、精霊を酷使する。本来魔法とは、非常時以外はあまり使ってはならん力なのだ」

「そういうもんなのか」


 カルミナの言葉は正しい。


「オメガ様。精霊は生命の源であり、疲弊させてしまっては世界のバランスが崩れるのは、先ほどの木の精霊を見た通りです。大規模な水術の行使によって、砂漠化してしまった土地もあるくらいなので」

「ああ、やっぱりそういう理屈なんだな」

「あまり、そうした事はお知りではないのですか?」

「多分、元は同じなんだろうけど理論が違うんだよな。世界の法則とか成り立ちとか、そういうの。俺サマの世界では、そうした源泉となる力を霊子力と呼んでいた」

「レイシ力。精霊力のようなものですか?」

「よく分かんねー。ただ、この世界では四大精霊とかいうのが世界を作ったって言われてんだろ? 俺サマの世界で言う神みたいなもんだろうが、俺サマの知る限り世界を作ったってーソイツらが現れた例はない」

「精霊がいないのに、世界が在るのですか?」


 アーレンハイトは戸惑った。

 前を歩くカルミナも、興味深そうにちらちらとこちらに目を向けている。


「俺サマの世界は法則で出来ていると言われていた。こうすればこうなる、という約束事が無数に連なって世界が出来ているという話だ。その法則に従って霊子が動き、中に秘めたエネルギー……精霊力みたいなもんを放出して世界を動かす。だからそのエネルギーが枯渇すると、カルミナが言ったみたいな事が起こってたこともあるんだろうな」


 元いた世界のことを語るオメガは、どこか悲しげだった。


「もしかしたら、俺サマの世界の人間たちは、種として霊子力の恩恵を受けれない段階にいたのかも知れん……」

「精霊の助けがなくなった、という事ですか?」


 この世界でも、似たような説を唱える者はいた。

 生命の源である精霊は、実はエルフや人間、他の生物と異なるものではなく同じ起源を有するものであり、エルフや人間、他の亜人も実は精霊の一種なのではないかとする説だ。


 あまり受け入れられてはいないが。


「どうだろな。結局のところはよく分からねーけどな!」


 オメガは笑い、それ以上話す気はないようで話が終わった。

 そこで、カルミナが口を開く。

 

「もうそろそろ川です、アーレンハイト様」


 しかし、開けた場所に出たアーレンハイトたちは、水を目にする事はなかった。


「川が……ない?」


 流れていたと思われる場所に、長い、水草の枯れた列は残っている。

 しかし水が一滴もなかった。


「どういう事だ?」

「分からん。何が起こっている……?」


 上流に目を向けて戸惑うカルミナに、オメガも同じように視線を向けた。


「ま、考えてても仕方ねー。少し上流に行くぞ。もしかしたら水があるかも知んねーしな!」


 すぐに意識を切り替えたらしいオメガの言葉に、アーレンハイトとカルミナは頷いた。

 

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