食おうぜ!


 アーレンハイトの見つめる前で。


 オメガの全身が、赤いオーガからオメガに変わった時のような光に包まれ、その体躯が膨れ上がる。

 少年のようだった姿から、手足が長く伸びて、体が引き締まった青年へと姿を変えた。


 さらに髪が金色に染まって伸び、天に掲げた掌の上に光の刃を持つ剣が現れる。

 それをオメガが握り締めると、その手から全身へ向けて、彼の体が赤い鎧に覆われていく。


 最後に赤い兜が、彼の髪を纏め上げてその頭部に収まると。

 先程の赤いオーガの姿とは違う、より人族の軽装兵に近い姿になったオメガが、肩に大剣を担いで高らかに謳った。


「イクス・ブレイド、推・参!」


 相変わらず、どのような意味があるのか、美しく華麗な姿勢を取り。


「トォッ!」


 掛け声と共に、オメガ……イクス・ブレイドの姿が掻き消えた。

 凄まじい風圧が巻き起こり、彼の蹴った地面が轟音と共に陥没する。


「まずはトカゲからだぁあああッ!」


 頭上から聞こえた声に、アーレンハイトが顔を上げると。

 そこには、バハムートの遥か頭上で、背面宙返りから大剣を構えるイクス・ブレイドの姿があった。


「あの一瞬で……!?」

「精霊力も魔力も感じないだと……まさか、だというのか、あれが!?」

「だぁらっっしゃぁああああッ!」


 アーレンハイトとカルミナが声を上げる間に、イクス・ブレイドは自分を見上げたバハムートの鼻先に大剣を振り下ろし。




 そのまま、尾まで一刀両断して、着地した。




「馬鹿な……一撃だと……!?」

「凄い……」

「ブンモォオオオオオオ!!」


 アーレンハイトが、呆然とするカルミナと一緒にイクス・ブレイドを見つめていると……仲間が倒されて怒ったのか、ベヒーモスが咆哮を上げた。


 それまでの鈍重さとは見違えるような速度で、彼に向かって突進していく。


『う、うわぁあああああ!?』


 直線上に運悪く居たエルフ達が慌ててその場を退くが、何人かが吹き飛ばされた。


「オメガ様!」


 逆に、何故か突進されているというのにその場から動かないイクス・ブレイドに、アーレンハイトが焦って声を上げる。


 彼は真っ向から自分に突撃してくる巨大な敵に、スッと軽く手を上げて手のひらを向けた。


 大気すら鳴動するような、凄まじい衝突音。


 思わず目を閉じたアーレンハイトが、その後に訪れた静寂に、恐る恐る目を開けると。


 そこに、全く変わらない様子のイクス・ブレイドの姿があった。

 だが。


「べ、ベヒーモス、は……!?」


 つぶやくアーレンハイトの視界に、ふと影が落ちる。


 ーーーまさか。


 そう思いながら、先ほどと同じように空を見ると……信じられない事に、ベヒーモスの巨軀が、遥か頭上で舞っていた。


 すると続いて、鼻歌でも歌いそうな声が聞こえてくる。


「あのデカさじゃ丸焼きは無理だな……焼肉フルコースにするか!」


 目を向けると、イクス・ブレイドが剣先を地面に付けた姿勢で、グッと膝をたわめた。


出力解放アビリティ・オーダーーーー〝炎・裂・刃〟!!」


 彼が持つ剣の光刃が、凄まじい熱を放つ炎の刃へと変化して長く伸びる。

 そして再び、目で追い切れない速度で跳躍すると同時に、無数の光の筋が宙を走った。


 キキキキキキィン! と、あまりの早さに一繋ぎに聞こえる音と共に、ベヒーモスが一瞬炎に包まれ。

 無数の小さな肉片と化して、地面に降り注いだ。


「……」

「なんという力でしょう……」


 カルミナがもはや絶句し、アーレンハイトも理解が追いつかない状態になったところで。


「さ、怪我人の手当てして、食おうぜ!」


 シュタッと着地したイクス・ブレイドが元の姿に戻りながら、にこやかに告げた。

 

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