おまけ譚

勇者ロベルトの死

第51話 あおいそらのしたで

 僅かに途切れながら空を見上げる。

 蒼穹の向こうからなにかが飛んでこないか今日も見つめていた。なにも来なければ今日も生きている。そう言うゲーム。


 だが残念ながら空はもう霞んで見えなかった。代わりに、誰かがそこに立っていることに気がついた。

「……遅かったな」

「お前の少しがずいぶんと長かっただけだぜ」

 枯れ木の指でその水晶の手を撫でる。

「そんなことはないさ。ああ、すまん、透弥。お前の顔が良く見えん。屈んではくれないかな」

「屈んでるっつーの。ほら、触れば分かるだろ」

「……あー、くそ、老いてない。お前、全く老いてないな」

「当たり前だろ」

 彼は軽快に笑った。そう言えば剣を外してから何日経ったのだろうか。もうそれすら分からない。


 耄碌はしたくないというと言えば彼は笑ってくれるだろうか。

「透弥。ずっと言いたかったことがある」

「んー?」

「……お前は、私と共にいて幸福だったか?」

「はは。何を言うかと言えば。当たり前だろ……お前は、俺の勇者なんだ。あの剣を抜いて良かったと思わない日はない」

「そうか」

 よかった。

 ほんとうによかった。


 あの旅路の果てにある日々が、こんなにも穏やかで幸福なことだとは思わなかった。


「……さあ、逝こうか、ロベルト。まだもう少し、生きてもらうぞ」

「もうずいぶん生きたのに。お前は本当に……オレサマに対してだけは横暴すぎる」

 手を引かれて立ち上がる。そしてそのまま、どこまでも歩いていくのだ。ふと足を止めれば、向こう側にあの腹の経つ親友が立っていた。


 手をふるともう少し、こちらにいろと言うように邪険にされた。苦笑してまた歩き始める。

 そう、歩くのだ。

 どこまでも。


 蒼穹の下。

 道はまだどこまでも伸びていた。だが、あの永き旅路の果てに――勇者はようやく、答えを掴んだのだ。


Fin

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ガーデン・オブ・ドラゴン 《青年と呪われた刀》 ぱんのみみ @saitou-hight777

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