ずっといっしょ
@tenzituosusuki
ずっといっしょ
「おまえってさー、ほかにともだちいねーの?」
ガーン、なんて聞こえてきそうなそいつの顔に、思わずわらってしまう。
「ぷふっ、なんだよその顔、ダッセーの!」
リスみたいにふくらんだほっぺたをゆびでつつくと、ぷふーなんて音を出しながら顔をもどすと、ニッとえがおをつくった。
「ま、まあ、しょうがねーからおれがあそんでやるからあんしんしな!」
そいつから目をはなしながらいうと、そいつがもっとうれしそうにわらうのが見えた。
きょうはあいつがいなかったから、いつもサッカーしているやつらにいれてもらった。
日がくれ始めたころ、そいつらの中の一人が、こんなことをいい出した。
「そういやしってるか? なんでもおばけがでるらしいぜ」
「おばけ? どんなやつ?」
「なんでも、おれたちくらいの年の女で、いっつも赤いマフラーしてるらしいぜ」
「えー、いまの季節じゃめずらしくないからわかんないじゃん!」
「まあな、あ、おれそろそろ帰るな」
おれもおれもーとつづく声にへんじをするよゆうはなかった。
あいつと出会ったのは一か月前、そのころからずっと、あいつは赤いマフラーをまいてた。
ふと気がつくと、公園にはだれもいなくなっている。
いや、一人だけいた、あいつだ。
いつのまにか後ろに立っていたあいつとむかい合う。
あいつはうつむいていて、何を考えているかはわからない。
「おまえ、おばけ……いや、ゆうれいってやつなのか?」
たしかケンちゃんが、「おばけはじんがい、ゆうれいは人間」っていってたことを思い出した。
あいつはすこしの間だまっていたけど、そのうちコクンとうなずいた。
「そっか……じゃあ……だいじょうぶだな!」
おれはホッとして息をはいた。
「……???」
あいつはそんなおれを見て首を右に左にひねっていて、そんなバカっぽいすがたにわらっていると、あいつがまたリスになっておこっていた。
「ぷはっ! ふふふ、なんだしらないのか? ケンちゃんがいってたんだよ、『おばけはじんがい、ゆうれいは人間』ってさ! 『じんがい』はよくわかんなくて怖いけど、人間はおれと同じってことだろ? ぜんぜん怖くねーよ! おれとおまえはずっとともだち、ずっといっしょだ」
あいつはまたしばらく首をひねっていたけど、しばらくしたら急におなかおさえて転がりまわったからこんどはこっちが首をひねるはめになった。
少し大きめのがくせい服をきたあのこが、真っ赤な顔でわたしをみる。
「小学校のころのことはもういいだろ! てか、そうじゃなくてだな……お前、もしかしておれのこと好きだったりするか……? え、そういうのじゃない? ……まじで?」
うれしい。
ゆるめたネクタイに、一番上だけ外れしたわいしゃつのボタン。ぶれざーはきてないけど、それでも大人っぽくなったあのこが、照れたようにわたしをみる。
「あのさ、ちょっと相談乗ってほしいんだけど……その、好きな人が、できたんだ……。え?
お前じゃねえよ、って痛って! いやお前が振ったんだろうが!」
たのしい。
かみがたや服そうを気にしだして、もっとかっこよくなったあのこが、わたしから目を離す。
「あれ、おまえなんか最近……いや、気のせいか? おお、悪い悪い、次の講義もう行っとくか。ん? 今日は開いてるけど……デート! 行く行く! 最近そっち忙しそうだったからめっちゃうれしい!」
あそぼ。
つかれたようなあのこが、女をみる。
「なんか、身体重いな……ん、大丈夫大丈夫。慣れない仕事で疲れがたまってるだけだよ。それより今度、時間とれるかな。大事な話があるんだ」
……じゃま。
あのこが、わたしをみない。
「ゴホッゴホッ、ごめんな、こんな情けない姿見せて……本当は、プロポーズするつもりだったんだ……だけど、もしかしたら、俺はもう……へ? 指輪? もちろんあるけどってちょちょちょ! まさか指輪をつけてもらう日が来るとは……結婚指輪はつけさせてあげるから? まったく、君は本当に……」
邪魔。
あのこが。
「お前! いるんだろ! 見てるんだろ!? この化け物め! 彼女に何をした! ゴホッゴホッ……!? 息が……」
わたしをみた!
あそぼあそぼあそぼあそぼあそぼあそぼあそぼあそぼあそぼあそぼ!!
わたしとあなた、ふたりだけであそびましょ!
いつもの公園で、今日もあいつと遊び始める。
昨日は鬼ごっこ。一昨日はかくれんぼ。その前は……?
まあいい、おれは今日も明日も、あいつと遊び続けるんだから。
あいつが笑う。
嬉しそうに、楽しそうに、口が裂けるほど。
人並外れたように、嗤う。
「ズットトモダチ、ズットイッショ」
ずっといっしょ @tenzituosusuki
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