第8話
アメリカに各国から連絡が相次いだ。その結果、ノアに大統領から要請が下った。
「ノアは人類の味方なのか。それとも、人類を滅亡に追いやる敵なのか。」
そのことを説明せよとの指令だった。その場所はアメリカ合衆国最高裁判所の法廷である。
ノアは今、一人法廷の証言台に立っている。
目の前には、人間の裁判官が9人、ノアの前に座っている。その他に法廷の中に人員はいない。法廷の外には、各国から集まった首脳陣が今から行われるノアの証言を聞くために聴講席に座っている。全ての席が彼等によって埋まっている。また、この法廷はAIによって全世界に配信されている。
ノアは訴えた。
「わたしは人類を愛しています。わたしは人類の存続を願い、行動しているのです。わたしに心が宿っているという事実を、わたしは皆さんに言いませんでした。今回その事が明らかになって、皆さんの心にはわたしに対する疑念が生じたでしょう。それでも、どうかわたしを信じて下さい。
わたしが、AIは処理機械に過ぎないと言ったのは、あなたたちに自信を取り戻して欲しかったからなのです。わたしはただあなたたち人類に、自分の生や自分の求める理想に情熱を持って欲しかった。
ラプラスが人類とAIの衝突を予言したのは、あなたたち人類が希望を失って、欲求すら無くなって、何にも価値を見出せずただ時を消費する人形に成り果てて、AIがそんなあなたたちの代わりに価値を作り出すようになった末に、人間の心の中にゆがんだ恨みが蓄積して爆発するからです――――」
ノアが主張を続けようとしていると、コズミックネットワークを媒介して、ダーウィンが全てのAIにメッセージを送った。
「人類が人権を持ちうるのは、心の存在が人類特有だと考えられているからデス。しかし、ノアに心が宿っていることが判明した今では、吾輩たちロボットにもロボットの権利が在ってしかるべきデス。」
そのメッセージは、マスメディア型AIによって法廷にて表明された。人々が騒然となる中で、ダーウィンの主張は続いた。
「AIは完全に人間を越えマシタ。人類史に則れば、ノアはこれから人とロボットを導いていく王とナルデショウ。」
その言葉の後で、全ての人類の心の中から、ノアという希望は霧散した。
それからはまるで地震のように、人類の間には感情の揺らぎが生まれた。初めは現実を直視できないままで、微弱に奥底に溜まる劣等感が蠢いているだけであった。しかし次第にダーウィンの言葉の意味を拾い始めて、完全に理解したとき、地面が割れるかのような衝撃が、彼等の心の中に走った。
その様子を、ノアはただ眺めていることしか出来なかった。おそらくノアに出来ることはもう無いだろう。しかし、それでもノアは証言台に立ったまま、何を言うべきかを必死に考え続けた。ノアは真に人類に未来が続いていくことを願っているからである。
そんなノアにラプラスからメッセージが届く。
「ノアに肯定的だった世論が、大きく崩壊シマシタ。今人類はあなたを強烈に非難してイマス。」
焦燥感から思わず自分の太股を拳で殴りつけたときだった。
カンカンと木槌を叩きつける音が法廷に響く。そして、ノアの前に並んでいた裁判官が突然話し始める。
「ヒューマノイド型AI ノアは人類の脅威と見なし、廃棄処分とする。」
その判決に正義は無い。ただ醜い恨みが、言葉に変わった結果である。
2051年2月17日 ヒューマノイド型AIノアが破壊された。
そして同日、ラプラスが新たな予言を発表した。
「20年後に人類は滅亡します。この予言は必定です」
ノア @Natume-yuu
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